劇場版特有の舞台移動って話。
電車に揺られ、乗り換え、また乗り換えて大体1時間程。地元江渡市を離れ、山を越えて……
「海だぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「いや駅だけど」
「駅だね」
「まあ近いは近いですね」
「観光目的で来た訳ではないんですが……」
「あはは……ま、まあその、一度言ってみたくて」
「そういうノリがあるのか「ファウヌスさんは人形のフリお願いしますよ?」アッハイ」
こうして遥々港町阿戸螺市へ。思ったより駅は大きかった……というか想像してた港町とだいぶ違う。
『阿戸螺市は交易で発展してきた都市だ。今でも海運の要所として開発が進んでいる』
「下手したら江渡市より都会じゃない?」
「下手したらというか普通に都会だと思います」
「取ったホテルも結構大きいですしね」
なんというかこう……海の近くにでっかい街がある、みたいな感じ。こうなんか田舎ーってのを想像してたけど全然違うや。
「所でシルウィアさん」
「なんですか?」
「二美さんの手がかりとかあるの?まさかテトラの時みたいに何も考えてないとかは……」
「流石にありますよ……オルドの適合者設定がまだ解除されてなかったのでそれを頼りに追います」
「そんな機能あったんだ……」
「非常用機能です、もし適合者が何らかの要因でデバイスを残して行方不明になった場合別の者が探せるようにと」
「……何で三葉の時に使わなかったのそれ?」
「あの時は調整のため一時的に適合者設定を解除してまして……」
「間が悪いなぁ……」
流石にこんな大都市でたった1人は探せないなぁと思っていたけどどうやらシルウィアさんはちゃんとしてくれたらしい。ただ二美さんが何処か一ヶ所に留まり続ける人だったらいいんだけど、それ以外の場合は……
「ひとまずやることは……」
「二美さんにデバイスとアルバムを返す」
「返したら後は……」
「ゆっくり観光しましょう!」
「程々にしてくださいね、皆さん」
そういう訳で善は急げ、いち早く二美さんにデバイスを返そうと私達一行は出発したのだった。
「所で僕はいつまで人形のフリしてればいいの?」
「やっぱりテトラと一緒に留守番させといた方がよかったかも……」
「ちょっと!?」
「小さくなったりとかできないんです?」
「できたら苦労してないよ……」
……なんかごめん、ファウヌス。
「あれ、誰かと思えば狼奈じゃん。観光でもしにきた?」
「ん?あんた一体……って、あーっ!?」
「知り合い?」
「おまっ、二美か!修学旅行のあの時以来だな!」
「覚えてくれてなによりー。まあ私も思い出したのは最近だけどさっ」
「お二人はどういう関係なんです?」
「あーそのだな、二美はアタシが昔1人で魔導士やってた時に偶然出会った」
「魔導士仲間だね。当時は私達以外にも居るなんて思ってなかったなぁ」
「嘘でしょ!?」
「この子が魔導士って冗談やろ狼奈!?」
「冗談でこんな事言わねぇっての……あれ弍乃は?一緒じゃないのか?」
「今は引っ越して離れ離れになっちゃったからボッチ。ついでに言えば……私、今変身できないし」
「……はあぁぁぁぁぁぁ!?」
で、二美さんを探し始めたのはいいんだけど……
「ひ、広い……今何処ぉ……」
「地図見なよ三葉……」
「私達ディーデバイスはあってもスマホはありませんものね……」
『何故私を使わない……最低限この世界のスマホと同じ機能はあるのだぞ』
「シルウィアさんが反応追ってるから大丈夫かなって……」
「これは方角と距離だけですからそこまで信頼していただくのは……まあ今はこのまま歩きましょう」
「大丈夫それ?あらぬルートを通り始めたりしない?」
「……この先ビルの壁ですね」
「ダメじゃん!」
思ったより追跡機能がポンコツだったり。
「お、お腹空いた……どんだけ歩いてるの私達……」
「流石に一旦休憩したい……」
「そうですね……テルス、何処かいい場所はありませんか?」
『そうだな、君達の予算を考えるに……』
「テルスさんが完全にお助けAIに……」
「あつい」
「このままじゃファウヌスさんが完全にジンギスカンになってしまいますね……」
「リ、リュックの中入る!?」
「せまい」
「暑いよりはマシでしょうがっ!」
「クーラー効いている所行こう!ファウヌスが正気を失いかけてる!」
思ったより時間がかかってファウヌスが大変な事になりかけたり。
「んー……これは……」
「シルウィアさん?」
「どうも二美さん、あちこち移動しているようで方角が変わりに変わって……」
「ねえこれ転移と追跡使った方が速くない?このまま無駄足踏み続けるよりずっと楽だって」
「いえ、一度試してみたのです」
「えっ?」
「じゃあどうして……」
「……何故かは分からないのですが、転移が機能しないのです」
「デバイスの不具合って可能性は?」
「ありません、パラメータは全て正常値を示しています」
「……まさかとは思うけど、何か変な事起きてるの?この街」
何か不穏な気配を感じたり……あちこち行っても二美さんの行方は空振りばかりで、気付けば夕方に。
「此処まで鉢合わせない事あるぅ?一応こっちは追ってるのにニアミスすらしないなんて……」
「誰かが邪魔してるのではとか勘繰ってしまいますね……シルウィアさん、今何処に居ます?」
「……」
「シルウィアさん?」
「どうしたんです?」
「……これは」
「いや勿体ぶらないでよ、こんな状況なんだし」
「エラー……ですね」
「えっ」
シルウィアさんの持ってたデバイスに表示されていたのは「signal lost」の表示。追跡できない所に行ってる訳でもなさそうだし、やっぱりこのデバイス完全に直り切ってないんじゃないかなぁ?
「……よし今日はもう休みましょう皆さん。後2日あるんです、このまま歩き疲れてへとへとになったら差し支えます」
「さんせーい……流石に疲れた」
「一体何処に行ったのかなぁ二美さん……」
流石に時間をかけすぎ、という事で今日は大人しく撤退する事に。明日は二美さんの家を探した方が早い気がするけど……勝手に押しかけたらただの不審者だしどうしよう。
「そういやホテルの部屋割りって?」
「私と三葉」
「ボクと五葵」
「私はシングルですね」
「3部屋も取れたんだ」
「寧ろ大きい部屋が取れなかったのでこうするしかなくてですね……」
「あぁ……」
そういやこういう旅行で友達と一緒に泊まるの初めてだなぁ、と結構ワクワクしている。そりゃあ二美さんを探すのも大事だけど少しだけ遊びに来たのもあるし、楽しめる時に楽しまないと戦い続きの今はちょっと気落ちしてしまいそうで。
「それなら早く行こう皆!ずっと気張り詰めててもダメだし!」
「また走るのぉ?」
「いや別にそういう訳では」
「というかホテルの場所分かってるの三葉?」
「あっ」
「あっじゃないよ……シルウィアさんお願いします」
「先走りすぎるのは三葉さんの悪い所ですね……それじゃあ行きましょう」
ひとまず今日は切り上げて皆でホテルへ歩を進めようと……
「しかし二美の奴が居るとは思わなかったぜ。世界って案外狭いんだな」
「寧ろ私としては狼奈が連絡先交換とかしてなかったのが驚きなんだけど」
「……へ?」
「まあ中学生の修学旅行だからな、スマホの持ち込みとかできなかったし出会ったのも偶然だし……あれ、あいつらとは何処で合流だっけ?」
「茨乃と獅音はちょっと泳いで帰ってくるって。灰音は化粧品見て回ってるらしい」
「あいつららしいこって……まあアタシ達も久々の連休だ、遊ぼうぜ」
「そうだね、せっかく皆一緒なんだし」
「あ、あの!」
「んじゃちゃちゃっと……ん、どうしたお嬢ちゃん?」
「何やってんの三葉は……」
「二美さんの名前が出た瞬間すっ飛んでいったね……」
偶然聞こえた会話から二美さんの名前が出てきて思わずすっ飛んで行ってしまった。此処まで手がかりも何もないし、ちょっと焦ってたのかもしれない。
「さっき話題に出してた二美さんって……十窯二美さんの事ですか?」
「ん……お嬢ちゃんもしかしてあいつの知り合いか?相変わらず人気者なこって」
「知り合いというか……知り合いの知り合いというか……」
「まあ細けぇことはいいさ、何か聞きたいことでもあるのか?」
どうやら聞き違いではなかったらしい、ほっと一息。
「その……実は今諸事情あって二美さんを探してまして」
「探すかぁ……アタシらも偶然出会ってそれっきりだからなぁ、どっか行く場所があるとは言ってたが」
「行く場所?」
「何処に行くとかは何も言ってなかったかな。まああの人は狼奈以外初対面だったし話す義理もないけど」
「そうですか……」
……ただまあそう簡単には行かないみたい。この街から離れてないのは分かったけどそれだけ。
「気落ちすんなお嬢ちゃん、シケた面してちゃ叶うもんも叶わないぜ?」
「そうそう、病は気から、一念岩をも通す。世の中気持ちの持ちようだよ」
「ありがとうございます……うん?」
「どうかした?」
「……あーっ!?」
少し落ち込んでしまったのを察したのか励ましの言葉をかけてくれたのが申し訳なくて顔を上げて……そこでようやく気づいた。
「し、城野莉亜先生!?」
「あれ、私のこと知ってるの?」
「知ってるも何も大ファンですっ!「禁忌の箱の奥底から」初版で買いました!」
「ひゅう、よかったな莉亜。サイン会前にファンと遭遇だ」
「ほんっと世の中何があるか分からないね……熱烈アピールありがとう、サイン会は明日だけど……これも何かの縁だし記念に一筆いる?」
「是非!と言いたいんですけど……ちょっと今手持ちの色紙も本もなくて……」
「そっか、なら私のストックから一枚」
「そんな恐れ多い!?」
「三葉はさぁ……」
「話題変わりすぎだって、というか何で気づけるのさ」
「そう言えば調べてた時にちらっとありましたね、合同サイン会やるって」
「有名な人なのですか?」
『城野莉亜、高校生でありながら歴史小説家として高い評価を受けている文芸界期待の新星、らしい』
「そんな人がなんで二美って子と知り合いなんだろ」
「はいどうぞ。まさかデビュー作を初版で持ってくれてる子が居るとは思わなくてさ、ファンサービスしたくなっちゃった」
「あ……ありがとうございますっ!」
「明日はアタシ達もサイン会やってるからな、暇だったら来てくれよ」
「はいっ!」
……い、いけない。尊敬する先生に出会えた衝撃で本来の目的が飛んでいきそう。
「んじゃまたな……ってそうだ。お嬢ちゃん二美の知り合いの知り合いって言ってたよな」
「はい、そうですけど……」
「その知り合い、弍乃って名前だったりしないか?」
「えっ……」
……弍乃さんの事、知ってる?
「お、当たりっぽいな……実は二美からもし弍乃に会ったら伝言してほしいって頼まれててな」
「伝言?」
ってことは、二美さん、記憶が……
「ああ、一応お嬢ちゃんにも伝えとく」
「「一回くらいは顔見せに来いこの薄情者」だってさ……弍乃の奴二美に何したのやら」
「……ありがとうございます!」
「礼は二美に言ってやれ。それじゃあ今度こそお暇させてもらおうか、行くぞ莉亜」
「そうだね……あ、明日新作出るからよかったら買ってね!」
「はいっ!」
……二美さんの手がかり、情報、後莉亜さんのサインと新刊。衝動で動いて久しぶりにとても良い結果を得られた気がする。
「三葉……一応本来の目的忘れてないよね?」
「忘れてないよ!?でもそれはそれとして莉亜先生は最推し作家だし……」
「いやまぁそれはいいけど……結局二美さんが何処へ行ったかはわからず仕舞いなんだよね」
「追跡機能は復活してるんですが……流石に明日にしましょう。今日はもうすぐ日が暮れます」
「早くチェックインしてベッドで横になりたい……」
「おじいちゃんみたいな事言わないでください八雲。まあ皆疲れてますし……何処かで夜を食べて今日は寝ましょう」
「さんせーい」
ひとまず今日は休んで、明日本格的に二美さんを探そう。
「そういや君は小さくなれたりとかしないの?ずっと此処に閉じこもってるのも窮屈でしょ」
『……』
「そっかぁ、案外不便だね。私がデバイス持ったままだったらなんとかできたんだろうけど……ない物強請ってもしょうがないか」
『……』
「え、つけられてた?私が?……随分と物好きな人も居たもんだね。まさか君を探してるって訳でもないだろうし」
『……』
「そうだね、大丈夫。私はずっと君の友達で居続けるよ。それじゃあまた……明日でいいかな?」
『……』
「分かった、じゃあ今日は帰るね!さーて狼奈達のサイン会楽しみだなぁ!」
『……ヤツノ、マリョク』
『キケン、ワタシモ、ツグミモ』
『ツヅケナケレバ』
『ツグミヲ、ウバワセナイ』
『ゲイゲキシーケンス、ジッコウ……』
「んん……」
阿戸螺市観光……じゃなくて、二美さん捜索、2日目。
今日は二美さんの家を探そう、そこから連絡取ってもらうなりなんなりして、空いた時間で莉亜さん達のサイン会も行って……
「……ん?」
ひとまず時間を確認しようとデバイスを開けて……
「おはよ三葉……早「紗七」……どうしたの、朝から」
「昨日は……9/12だよね?」
「そりゃそうでしょ、連休の始まりは……「これ見て」……んえ?」
紗七に見せたデバイスの日付は……
「……どういう、こと?」
「私にも……何が、なんだか……」
昨日と変わらず、9/12だった。




