映画直前回はちょっとした導線があるよねって話。
「間一髪、だったな」
「あークソっ、やっぱ慣れねぇな時空加速。無理に十倍速使ったから頭がいてぇ……」
「……ありがとうございます、2人とも」
突如として動きを止めた弍乃さん……いや、ユスティアの隙を突いてテトラとエンネアが助けてくれた。どうやって状況を判断したのか知らないけどあのままじゃ確実に私達は全滅していた、エンネアが遅れた事がこうして功を奏するとは。
「なんだよあの無茶苦茶な強さ……スペック差がありすぎるでしょ……」
「私達もティタノデバイスで強くなってる筈なのに終始ペースを握られてた。元が一宮さんとはいえここまでなんて……」
「それにあの感じ、本当にテストでしかない気がします。全力とは程遠い」
こうして直に対面して分かったクロノデバイスという決戦兵器の性能、廉価版でしかないディーデバイスとカオスデバイスでは到底埋められないスペックの差はどうともし難い。だから適合者でそれを埋めるしかない……ないが……
「若干隙はできてたけどやっぱり弍乃さんの動き。今の私達で追いつけるのかな……?」
相手側の適合者は弍乃さん、それも適合率100%という到底叶わない数値……相手が悪すぎる、としかいいようがない。
「でもさっきの一宮さん、シルウィアさんにトドメを刺そうとして動きが止まってたような……」
『……原因は不明だが、あれがなければシルウィアは今頃亡き者となっていた』
「確かにあの時だけ不思議なくらい動きが鈍ってたな。2人で様子を伺ってたが明確な隙が生まれたのはあそこだけだ」
「確かにあれはすごく……ちょっと待ってそこ2人いつから居たの?」
「一宮弍乃が顔を出した辺りくらいからだな」
「なんでもっと早く出てこなかったの!?」
「うるせぇジンギスカン「ジンギスカン!?」クロノデバイスのスペックはエンネアから見せてもらった資料で把握済み、1人2人下手に加勢しても土を味わう奴が増えるだけに決まってんだろ」
「それは……」
確かにそうだ。対策も何もないまま挑んでは繰り返すだけ、そういう意味では2人の判断は正しいし、私達も何らかの対策をしなければずっといいようにされるだけ……だけど……
「どう、対策すればいいものですかね……」
「自動詠唱に時間凍結、おまけに素のスペック。時間凍結はどうにかなるとはいえ他2つに関しては慣れろ、としか言えんな」
「そうですね、とはいえ……ん?」
「どうしたシルウィア」
「今なんて言いましたエンネア」
「慣れろ、としか言えんと」
「その前です」
「時間凍結はどうにかなる、と言ったな」
「……えっ」
「できるの!?」
『……ああ、そうか』
「テルスさんは一体何を察したんですか!?」
さらっと時間凍結をどうにかできると言ってのけたエンネアに思わず詰め寄る。目下1番の脅威は自動詠唱とはいえ油断すればすぐに決着が付くあれもどうにかしなければ勝ち目はまずない、それを対処できる手段があるというのなら何故もっと速く……とは流石に言えないか、効くかどうかも分からなかった訳だし。
「要するにあれは時間の流れから自分を切り離す時空加速の究極系だ。流れゆく時間から完全に離脱し、再び合流するまでの間に全てを終わらせる。だが……」
『流れゆく時間が元々止まっているのならそこから離脱する事はできない。既に時間凍結を使っていると同じ状態だからな……昔私と弍乃がやられた手だ』
「……!」
「って事は……」
「まさか……」
2人の説明で三葉さんたちも答えに辿り着いたようだ。なるほど確かにあれなら時間凍結に限れば無効化できる。此方も時空加速が使えなくなるがそもそも彼方は無詠唱で行使できる、デメリットはあってないようなもの。
『そうだ、此方側で時間結界を展開する。アポロ、ウルカヌス、ユピテルに搭載されているのは把握済み、君達のデバイスもオリンピアの手が加わっているとは言え機能は失われていない筈だ』
「できるのファウヌス!?」
「僕に聞かないでもらえるかなぁ!?」
「まあできるだろうな。君達が方法を知らないだけでデバイス自体は改修した物を奪われたのだ、そのまま残っていると考えた方が自然だ」
「あそっかこれファウヌスが借りパクした奴なんだった」
「僕も確かに盗んだ物はあるけど僕だけじゃないからね!?」
「なんで言い訳してんの……?」
時間結界、元々はタルタロスが弍乃さんをどうにかするために時間凍結から発展させた技術……巡り巡ってまた弍乃さんを対策するために、しかも此方が使うなんて提案をされるとは思わなかった。
確かにそれ以外に良い方法は思い浮かばない、無策では唐突な時間凍結で決着が付いてしまう。それをどうにかできるだけでも話はだいぶ変わってくる。
「後で使い方は教えます。くれぐれも悪用しないでくださいね」
「悪用?」
「ほら、課題の提出期限が間に合わない時に……とか?」
「そんなみみっちいことに!?」
「そういうあれではないのですが……心配なさそうという事は分かりました」
少なくとも彼女達なら邪な使い方はしないだろう、そう思わせてくれるいつものやりとりにちょっとだけ笑みが溢れる。身体はボロボロだけどこうして心は何処か安心できるというのも初めての経験だ。
「これで時間凍結はどうにかなるだろう……にしても妙だな、何故彼女は最後の最後で動きを止めたのか。様子を見るに記憶喪失、或いは記憶改竄されているのは確かだろう。何故……?」
「記憶改竄が不完全でシルウィアさんのことを思い出した……とか?」
「そりゃねえだろ、私ですらお前達にどうにかしてもらうまで昔の事一切思い出せなかったレベルだぜ?バッカスがそんなヘマしねぇだろ」
「でもエンネアが裏切って結構動揺してたし……」
「あれは本当に想定外でしかないだけだろう、彼女に基本ミスはない」
「じゃあどうして……」
本能的に覚えている、なんて訳でもないだろう。私と弍乃さんが一緒にいた時間はあまりにも短い、それならまだ人を殺す事に無意識な嫌悪感があると言った方が説明が付く。
「んーむ、んー、んー……」
「エンネア?」
「いや、仮説はあるが……あまりにも突拍子がなさすぎてな、やめておく」
「いやそれ普通に気になるんだけど」
「陰謀論にすら及ばない、やめておけ」
「えぇ……」
エンネアは何か組み上がったようだが……彼女は理由が明確にできないと話さない主義だ、聞いても答えてくれないだろう。
「まあこれは一旦置いておこう、それより次だ。自動詠唱をどう対策するか……いや、対策のしようがあるのかあれは?」
「無理じゃない……?それこそ呪文そのものを封じるとかでもしないと」
『無理だな、呪文を封じるにはデバイスに細工するしかない。だがそれは君たちには不可能だ』
「ですよね」
自動詠唱が勝負を決めうるファクターという訳ではない、それを自在に扱う彼女が強いというだけ。そして私達には詠唱が必要な分彼女の呪文へ対処する時少なくないタイムラグが発生する。どうにかできれば一気に楽になるとは思うのだが……
「……あ」
「シルウィアさん?」
「いえ……あるんです。私達にも自動詠唱を行使する手段が」
「え」
「……もしかして」
「……はい、丁度今日修理と調整が終わっていたんです」
鞄の中から白いディーデバイス……二美さんが使っていたそれを取り出す。ティタノデバイスとの調整は既に完了済み、装神は何の問題もなく行える。
「ディーデバイス・オルド。父が私の為に作り、私がテルスと共に地球へ送り、そして弍乃さんが二美さんに託し、封印した物。クロノデバイス以外で唯一自動詠唱を内蔵するデバイスでもあります」
「もしかしてシルウィアさんがそれを?」
「いえ……これと私の適合率は最適化した今でも73%止まり。それに自動詠唱は製造段階で組み込まないと深刻なエラーを引き起こしてデバイスそのものがダメになります」
「じゃあここでデバイスを新造するってこと?」
「出来はするな、シルウィアと私が揃っているのだから……問題はそれを許してくれる時間があれば、だが」
「まあ、ないでしょうね……」
彼方も私達がデバイスを新造できる状況にある事は把握している、完成に至るまで待ってもらえるなんて事は絶対にない。それまでに勝負を付けに来る筈だ。だから……
「……弍乃さんには、多分恨まれてしまいますね、私」
「もしかして……」
「ええ、阿戸螺市に行こうと思います……このデバイスを、返しに」
一緒に戦って欲しい、なんて恥知らずな事を言いに行く訳ではない。このデバイスが直っている事を知ればタルタロスはまた奪いにくる筈だ……多分、最高の適合者である二美さんの事も。
だから、その前にこれを彼女に返しに行く。自衛手段として、あるいは私達が全滅しても彼女の安全が確保できるように。
「シルウィアさん」
「三葉さん?」
「予定はどんな感じですか?」
「ええっと……そうですね、ここら辺で……」
流石に今から、という訳には行かない。人探しをするのだから数日は滞在することになるし、その間に弍乃さんが来てもいいように対策も打たなければならない。となると……9/12から、か。
「……ねえ皆、私達3連休だよね」
「そうだね……ってまさか」
「えっマジ?いや予定は空いてるけど……」
「では少しホテルの方を……」
「それ転移でケチれない?」
「せっかくの港町ですし……」
「み、皆さん……?」
予定を聞いた瞬間三葉さん達が急に集まった。もしかして……ついてくるつもりで?
「いやいやいや皆さん?これはほぼほぼ私個人の問題ですよ?無理に付き合う必要は……」
「私達にとって二美さんは大先輩で、私達が戦うよりずっと前にこの世界を守ってきたヒーローなんですよ?1人だけ会いに行くなんてズルいですよ」
「三葉と同じ理由じゃないけど……シルウィアさんがこの前の三葉みたいになっても困るし」
「あはは……」
「笑い事じゃないよ三葉、まあボクも同意見かな。シルウィアさんだけじゃ無理でしょ弍乃さん相手は」
「……そうですね」
「それに暇よりは皆で楽しい思い出作りも悪くないと思うんです。港町ですよ港町、海です!」
……敵わないなぁ彼女達には。この絆が強さの秘訣で、今まで戦ってこれた理由なんだろう。
「なんか気づいたら旅行に行く話になってんな。留守番しとけってか?」
「いや旅行ではないのですが……まあ、此方に居てくれる人が居ればありがたいのは確かです」
「なら私とテトラが残ろう。三葉と一緒に行きたい所だが……テトラ1人では不安だからな」
「アポロだった時と同じ扱いしてんじゃねーよ、行きたいなら行けっての」
「だがこういうのは正式に付き合ってからだな……」
「お前なぁ……」
気づけば2人もタルタロス時代よりだいぶ打ち解けているようだ。案外相性が良いのかもしれない。
「そういう訳で……決まりです!皆で二美さん、探しに行きましょう!」
「……ええ!」
少し弍乃さんの話も聞けるかも知れない。なんて淡い希望を抱きながら三葉さんの言葉に返事を返す。今の彼女は……どうなっているのだろうか。
『で、どうだった?』
「厄介ではあるが脅威ではない、と判断する。あれならば時間凍結がなくてもどうにかなるレベルだ」
『まあ貴方ならそうなるわね。流石に適合率100%、それに使っているのはクロノデバイス。絶対的な優位があるわ』
「おべっかはいい、繋いだ理由は他にあるだろう」
『んもう釣れないんだから……まあそうね、新しい任務よ』
「そうだろうと思った」
『ちょーっと探してきて欲しい物があるのよ』
「捜索?」
『ええ、昔タルタロスから脱走した兵器……って言えばいいのかしら。随分長いこと潜伏していたようだけど……つい最近ようやく尻尾を出したみたい。できれば回収してきてほしいけど最悪データだけでも構わないわ』
「この世界にあるのか?」
『ええ、でも貴方の居る街じゃないわ。ちょっと遠い所』
「場所は?位置さえ分かればこちらは飛べる」
『そうね、確か……』
『阿戸螺市って所だったかしら、そこで信号をキャッチしたわ』




