だからそういう展開は30分早いでしょって話。
「「「「時空加速!」」」」
「六倍速!」
「……ふむ」
バッカスが技術部に造らせたらしい試作機獣を投下し、どうも全員がティタノデバイスを手にしたらしいこの世界の魔導士の戦力評価として視察する。
「紗七達は初めてなんだから無茶しないでねっ!」
「そういう三葉も3回目でしょっ、大して違わない!」
「確かに吐き気はしますが……それだけです!」
時間を彼女らと同じ六倍速に合わせているがなるほどバッカスが負ける訳だ、彼女達の連携は実に強固。時空加速をできるように改造したあれでさえ容易く圧倒するとは。
「無茶はしないでくださいね皆さん!」
「というか久々に機獣だけじゃんっ、魔導士は何処行ったのさ!?」
残念ながら今日は見に徹するのみ。あれが炙り出した彼女らの戦術を計算し、確実に勝つための様子見だ。とはいえあの体たらくでは大した戦力も引き出せない気がするがまあ仕方あるまい、得られた情報からプランを組み立てるとしよう。
「ただ早いだけで!」
「小回りが利かない相手に負ける道理無しっ!」
……やはり機獣だけとなると一度に3体くらい投下しないと勝負にならない。しかしあれはまだ試作品で量産の目処は立たず、というか技術部に無茶をさせて作らせたものだったか。では……私が出るしかない、と。
「……コア回収の必要はない、退く」
ビルの屋上に座っていた腰を上げ、腕のデバイスを確認。示した針はⅫ……30秒もあれば十分だ、溜めすぎたな。
「解放」
呪文の詠唱と共に静かになった辺りに目も暮れることなく、地面を踏み締めてビルとビルの間を跳躍する。ゲートの反応が感知されるのは面倒で非合理的だ、極力避けるべき事。
「……しかしバッカスには殺すなと言われたが……1人2人はやっておく方が合理的」
やった後の弁明材料くらいは用意しておこう、そう考えながら彼女らのデバイスが探知できない範囲まで歩を進めた。
『……君達に話しておくべき事がある』
「だからなんで此処なんだよ」
「一番人が集まっても自然な場所だから……かなぁ」
「遊びに行く体で自然と足運べるからね」
「ついでに話をしながら仕事もできる」
「さらっとお前も居るんじゃねえエンネア、副業なら職場でやっとけ」
「リモートワークという奴だ。案外この世界でも整備技術は役に立つのだな」
「帰れっつってんだよ」
紗七達用のティタノデバイスの調整、それとエンネアのディーデバイスの修理が終わって数日。あれからバッカスが仕掛けてくることもなく精々が機獣を投下してきたのみ……時空加速を使ってきたのは驚いたけどそれだけ、魔導士を送りこまないのは戦力不足なのか、それとも……
「それでテルスさん、話しておくべき事とは?」
「二美さんについては全部聞いたと思いますが……」
『先日のバッカスの件だ』
「あっ」
この前の戦い、デバイスを破壊したバッカスは確保する前に突如として姿を消した。まるで最初からそこに居なかったかのように、一瞬で。
「どういうカラクリだったんだろうね、あれ」
「転移では間違いなくないけど……」
『時間凍結だ』
「なにそ……」
「な……」
「……正気か?」
「シルウィアさん!?」
「エンネアまで……」
心当たりがあるらしいテルスさんが放った単語を耳にした瞬間シルウィアさんとエンネアの様子が目に見えて変わった。名前的に時空加速関連の技術なんだろうけど……そこまで動揺するレベルなのかな?
『時間の流れから一時的に降りて自在に加速するのが時空加速ならば時間凍結は時間の流れそのものを止めるオリジナル。始まりのデバイス……第一世代のみがなし得る究極の呪文だ』
「時間停止ぃ!?」
「あ、もしかして……」
前に言ってたティフォンっていうのを封印した呪文だろうか。時間結界の元になったっていう……
「あり得ん、確かにバッカスはクロノデバイスを持ち出していたがあれと適合したのは15年の歳月でレムス・ウヌスただ1人。他に適合者が現れたとしてもそれをわざわざ此方に回す理由もない」
「ええ、あれだけの力を此処で留めるのならばオリンピアを制圧してから投下するのがバッカスです。クロノデバイスにはそれができる」
「え、そんなレベルなの?」
「ま、世界を滅ぼしかけたバケモンをたった1人で封印した英雄サマの力だしな。そりゃあオリンピアくらいなら難なく蹂躙できるだろ」
「さらっと人の世界を「くらい」とか言わないでくれるかな!?」
「うるせぇぞ羊、バリカンでスッキリさせてやろうか」
「やめて!?」
「その時間凍結だけを再現した可能性はないのですか?二美さんのディーデバイスに自動詠唱が搭載されてたように」
『それはあり得ない、クロノデバイスでなければ時間凍結の負荷に耐えることはできないからだ』
「じゃあ余計にどうしてだろう……」
バッカスがもしもの時用の保険を残しているのは想像できる、けどもしそれがクロノデバイスの適合者だというのなら此処まで影も形も見せてないのが不可解だ。話を聞く限りなら投入すれば全てを終わらせる程の強さらしいのに。
『考えられる可能性は3つある。1つはクロノデバイスの適合者をバッカスはタルタロスにすら秘匿している可能性』
「まあ有り得ん話ではないな、私は裏切った時にクロノデバイスがダミーにすり替えられていたのを確認した」
「エンネア、そういうのは先に言ってもらえますか……あれは母さんの形見なのです」
「……ああ、そうだったな。すまない」
『……2つ目は適合者を確保して間もない可能性。この世界で試験運用しているという訳だな』
「それならバッカスじゃなくてその子を投入したほうが早いんじゃない?」
「そうだとしたら万が一を恐れているのだろうな、奴はああ見えて小心者だ」
「エンネアが裏切った時もめちゃくちゃ動揺してたもんね」
「ああ……」
……だとしても何も痕跡がないのはおかしくないかな?
『そして3つ目、適合者が独自の判断で動いている可能性……つまりはバッカスから単独行動を許可されているかもしれないということ』
「……そうだとしたら何の利が?」
「必要な時に来てくれないかもしれない戦力ってだけで不安にならないかなぁ、まあこの前は多分来たんだろうけど」
『それに関しては私もわからない、あくまで可能性だからな』
考えれば考えるほどわからなくなっていく。一体バッカスは何がしたいのか、推定クロノデバイスの適合者は今何処で何をしているのか……思考にも戦いにも終わりが見えなくて少し疲れてきた。
「まあ結局敵なら戦うしかないだろ、私達みたいに元に戻せるなら戻せばいいし、どうしょうもなかったら倒すしかない、そんなもんだ。後もう一杯くらい飲んでけ」
「そんな単純に行くかなぁ……じゃあ冷や」
「舐めてんのお前?飲食店舐めてんのお前?」
「あはは……」
「ったく……私も一応ディーデバイスとティタノデバイスは直してもらったんだ。戦力に関しては問題ないだろ」
「即落ち2コマしてるの正直不安なんだけど」
「あ”!?」
「売り言葉に買い言葉だな……」
なんでこう八雲とテトラは口を利けばすぐこうなるのか。相性が悪いって訳じゃなさそうだけど。
『……む?』
「テルスさん?」
『……ゲートが開いた、近いな』
「さらっと言わないでよ!?」
「機獣は!?被害が出る前に止めなきゃ!」
『いや、反応があるのはデバイ……待て。これは』
「勿体ぶらないでさっさと言ってくださいテルス!」
『……クロノデバイスだ!』
「言ってたら!?」
フラグ回収、ってのはこういう事を言うのだろうか。ゲートが開いた報告を受けて慌てて出る準備をしながらクロノデバイスの適合者にどう対応しようか、と考える。
「ったくこいつらは……会計どうすんだ」
「私が払おう、先に行ってくれ」
「何でこういう時は律儀なんだ……ほら伝票!丁度出せよ!」
「ごめんねエンネア!先行ってる!」
「報酬はデートでいいぞ」
「相変わらずブレないね貴方!」
呆れた顔のテトラとなんでか良い笑顔のエンネアに任せてカフェを飛び出し現場へと向かう、またマスターが巻き込まれるよりこっちから行ったほうが……良い!
『どう対応する気だ、三葉』
「まずは話してみます。戦う事になったら……その時で!」
一体どんな人かはわからないけど……話を聞いてくれないなんてことは、ないはずだ。
「……」
「居たっ!」
その人は市街地から比較的離れた山から街を見下ろしていた。わざわざゲートを感知させた辺り誘っているように思えたけど……そういう訳では、なさそうな。
「タルタロスの制服……」
「……ああ、来たのか」
「っ……!」
フードを被っていて顔はよくわからない。ただ、振り向いた時に見えた腕の時計……クロノデバイスが適合者である証明。
「5人、確かウルカヌスも入れて6人?全戦力を投入しないのは万が一に備えてか、それとも……」
「貴方達と違って人手に余裕がある訳じゃないからね……!」
「そうか、確かにタルタロスはゲートを複数開いていた事があった。合理的だ」
「御託はいいです、何が目的ですか……!」
此方を見るなり考察、抑揚のない声は無機質で……でも、何処かで聞いたような……
「街を見ていた」
「え?」
「何故だかわからないが、私は彼処を初めて訪れた気がしない。失った記憶に関係があるのかと思い、少し眺めていたが……意味はなかった」
「記憶……」
「故、もう一つの目的を優先する」
記憶がないことを自覚している?じゃあ記憶改竄を受けた訳じゃ……ない?
「戦力評価、とバッカスは言っていた。それが貴方達なのか、私なのかは不明だが……命令は命令だ」
「やっぱりそうなるのね……!」
「分かりきってた話だけどさぁ!」
でも話し合いでどうにかなる相手ではなかったみたい、お互いにデバイスを構えて牽制し合う。
『……』
「テルスさん?」
『……馬鹿、な』
「テルスさん!?」
最初から装神で行こうとしたけどテルスさんの様子が何処かおかしい、こんな狼狽えているような様子滅多にないのに。
「どうかしたんですかテルス!」
『……今から言うことを、落ち着いて聞いてくれ』
「落ち着いてって、どういう……」
「そういえば戦う前には名乗るのが礼儀、とバッカスは言っていたな。それに倣うべきか」
一度構えを解き、目の前の適合者がフードを……降ろ……
『……解析が終わった。まず大事なことは彼女の適合率は100%、レムス・ウヌスに限りなく近い適合者ということ』
「……っ」
「え……え……?」
……テルスさんの言葉の衝撃は薄い。それより遥かに強い衝撃が私達を襲っている。
「しかし私には自分を定義する名前というのがない。本来はあったのだろうけど……それを思い出す術もない」
「嘘、でしょ?」
「なんて、事を……」
『そして……』
髪は白くなって、目に光はなくて。ぱっと見似ているとは思えない、思えないけど……
「故にこの場において最適な名前は……こうか」
「なん、で……」
クロノデバイスを操作する姿、その立ち振る舞いに面影がある。私達のよく知る……
『彼女は弍乃だっ……間違い、なく!』
「限定認証」
「ユスティア」
クロノデバイスから溢れる光がバリアフィールドを形成し、目の前の彼女……弍乃さんが着身する。私達も早くしなきゃなのに、動揺が勝って手が動かない。
「……私はタルタロスのエージェント。バッカス直属の魔導士」
両目を覆うバイザー、そして身に纏う鎧にユノの面影はなく。
「名をユスティア、魔導士ユスティア。私は私の名をそう定義する」
片手間で巨大な剣を錬成しながら、目の前のあの人は今の……偽りの名を名乗った。




