困った時の総集編って話。
『さて……音声のままでは分かりにくいだろう、という訳でこうする』
「お……おぉ……?」
「ホログラム……」
「本当にAIに全部受け答えさせるつもりだよあの人……」
『彼女は口下手だからな。こうした方が早い』
「いいんですかそれで……」
ユノ……改め弍乃さんがマルスを撃破して、正体を明かしてくれて。色々あって持っている情報を教えてくれる事になった。なったのはいいんだけど……
『そもそも今提供できる情報の全ては私が詳細に記録している、弍乃はうろ覚えな所もあるのでな、任せてくれた方が楽なのだ』
「まあそういうところは人間より機械の方が信頼できそうですけど……」
「でもあれいいの?」
『あれ、とは』
八雲ちゃんの店で話す事になって、私達の前には弍乃さんのデバイスから投影されたホログラムが話をしている。これがテルスさんなんだろう。
それで弍乃さんの方なんだけど……
「……ふぅ、やっぱりこれに限りますね」
「年寄りくさいこと言わないの、ケーキどれにする?」
「クランツクーヘンでお願いします」
「あいよ」
八雲ちゃんのお父さんとカウンターで駄弁ってる。本当に全部任せる気だ……
『彼女にだって休息は必要だ。5年間戦い続けてきたのだからあれくらいは許してほしい』
「……本当にそれくらい戦ってたんだ」
「5年前って……オリンピアが侵攻される3年も前から!?なんだってそんな……」
「……」
ファウヌスの世界、オリンピアが侵攻されたのが2年前。最初出会った時ファウヌスは「僕を追って彼等がやってきた」って言ってたけど……
『そうだな、ではまずそこから話をしよう。タルタロスが本拠地としている世界……ケイオスについて』
「えっ」
「タルタロスそのものが世界じゃなかったんだ……」
『タルタロス自体はケイオスという世界の治安維持機構に過ぎない。とはいえあの世界は表向き平和そのものでタルタロスは閑職扱いだ、文明レベルも魔術が発展したくらいでこの世界と然程変わりない』
「でもその治安維持機構がなんで?」
「治安維持というか他の世界の治安を壊して回ってるような……」
……余計疑問が増えるばかりだ、警察みたいな組織がなんでそんなこと。
『……察するに、私の開発者が危惧していた「限界」が来たのだろうな』
「限界?」
「資源の枯渇とかそういう奴ですか?」
『ある意味ではそれに近い。順を追って説明しよう』
待っていましたと言わんばかりにホログラムが画像を投影、この人……人?結構話が上手いなぁ。
『遡る事15年前、ケイオスは滅亡の危機に瀕した、原因は他の世界から襲来した危険生物……コードネーム「ティフォン」。当時のケイオスでは対抗する術がなく、結果として奴による破壊と鏖殺を止める事ができなかった』
「……ファウヌスの世界から来た、とかじゃないよね?」
「僕の世界にこんなのが居たらタルタロスが来る前に滅亡してるよ……ていうかこれ本当?フェイクじゃない?」
『残念な事に事実だ。ティフォンの破壊行動による犠牲者は約60万人、たった1匹の侵略者によってケイオスは崩壊しかけたのだ』
「でも、どうにかなったんですよね?」
『今もケイオスが存続しているということはその通りだ』
画像はいろんな動物が混ぜこぜになったような怪物からスマートウォッチのような物に。
『これは私の開発者、ロムルス・ウヌスが民間用として作成した魔術デバイスを軍事に転用した物、名をクロノデバイス。君達が所持しているディーデバイスのプロトタイプに当たる物だ』
「……なんかプロトタイプって割にはそっちの方が最新式じゃない?」
「というかディーデバイスが最初じゃなかったんだ」
『ディーデバイスはクロノデバイスを元々の目的だった汎用性の高いデバイスとしてデチューンした代物、此方の方がスペックは圧倒的に上だ……話を続けよう』
……ん、それなら今画像を投影してるこのデバイスは?
『ロムルス・ウヌスは開発したクロノデバイスを扱える適合者を探した、全てはティフォン撃破のため。そうして見つかったのが……ファーストデヴァイサー、レムス・ウヌス』
「ウヌス?」
『察しの通り彼女はロムルス・ウヌスの妻であり……ユピテル、シルウィア・ウヌスの実の母親だ』
「自分の家族を戦わせたの!?なんで!?」
『彼女以外にクロノデバイスに適合できる人間が居なかった。クロノデバイスはティフォンを倒すためだけに開発された文字通りの決戦兵器。圧倒的なスペックの代償として汎用性をかなぐり捨てた結果ロムルス・ウヌスは家族を戦場に立たせるしかなかったのだよ』
「そんな事……」
「……じゃあ弍乃さんがユピテルを助けたいのって」
『それは後にしよう。クロノデバイスの適合者となったレムス・ウヌスは魔導士として1人ティフォンに立ち向かった。それは圧倒的でも無ければ蹂躙でもない互角の戦い、決着の付かないまま消耗するばかりだった』
……私達よりずっと強いのに勝てなかったんだ、そのティフォンって怪物は。
『このままでは先に自分の限界が来ると判断したレムスは賭けに出た。ティフォンを封印する事で完全ではないが一時的な時間を確保しようと試みたのだ』
「封印……」
「それは、成功したんですよね?」
『そうだ、レムス・ウヌスは残された全リソースを使いティフォンの「時」を止めた。自分以外でもいい、誰かがいつかこの怪物を完全に倒してくれると託して……この時の呪文が現在の時間結界へと発展している』
あ、そういう繋がりだったんだ……でも時間結界は直接じゃなくて流れる時間を止めてたような……
『しかしその呪文はリミッターを完全に無視し、レムス・ウヌスという人間の魔力を全て注ぎ込んだ物。代償として彼女はケイオスから姿を消した、身に付けていたクロノデバイスただ一つを残してな』
「……」
「じゃあ、あのユピテル……シルウィアさんは……」
『彼女は当時3歳。実の母親を失った悲しみは相当な物だったろう……いや、私情を話している場合ではないな、いま話すべきはケイオスのその後だ』
「いやその、そっちの事情も気になるんですけど」
『だからそれは後だ、続けるぞ』
テルスさんが最初に会った時の弍乃さんみたいな表情してる、結構感情豊かだなこの人。
『この封印は何もしなければ永劫に続く物と考えられていた……のだが、ある時1人の科学者が奇妙な事実に気付いた。封印されたティフォン周囲の魔力が完全に枯渇していたのだ』
「……ええっと、それの何が奇妙なんです?」
『それだけならば戦闘の余波と考えられただろう。しかし観測の結果封印が僅かだが解かれ始めている事が判明、その科学者は封印の維持には継続的な魔力の供給が必要という結論を算出した』
「……もしかして」
『初めはケイオスの魔力だけでどうにか封印を維持しようと試みた、しかし10年程の時が経つとそれだけでは維持が間に合わなくなった。これ以上魔力リソースを封印に回せばケイオスという世界はエネルギー不足で崩壊しかねないレベルにな』
「じゃあオリンピアが侵攻されたのはリソース確保のためって事か!?」
『そうなる、しかしこの事実はケイオスの一部権力者、そしてタルタロスしか知らない。公開して不安を煽れば崩壊は加速するだけだからな』
「じゃあそのケイオスって世界が丸ごと侵略に加担してる訳じゃなくて……」
『あくまでタルタロスという組織がケイオス存続のため他世界を侵略している、という事だ。これがオリンピア、ひいてはこの世界に彼等が現れた理由……まあこの世界に現れたのはどちらかといえばデバイス回収のためだが』
生き残るための侵略、ウルカヌスの言っていた通り本当に好きでやっている訳ではないのだろう。でも……
「冗談じゃない!?他の世界の勝手な都合で平和を奪われたって事!?もっと他に方法はなかったの!?」
「ファウヌスさん……」
『気持ちは理解する……実際にロムルス・ウヌスも計算していたのだ。本当に封印の魔力リソースは増えるばかりなのか、と』
「……結果は?」
『分からない』
「えっ?」
『だから分からないのだ、それは私に記録されていない。だが……結果として確かな事もある』
『5年前、ロムルス・ウヌスは新たに開発したこのカオスデバイスに私を搭載し設計図を消去、他の世界に廃棄する事でこの技術がタルタロスへ渡る事を阻止したのだ』
「それって」
『詳細は分からない、だがロムルス・ウヌスが侵略に加担する意思がなかった事、そして科学者の計算が間違っていた可能性があるという事は確かだ……尤も、それを知る術はなくなってしまったが』
「……」
つまりテルスさんは地球に半ば捨てられる形で来た、って事か。
『ロムルス・ウヌスはシルウィア・ウヌスに私と当時11個存在したディーデバイスの1つを託した。自身はタルタロスがカオスデバイスを開発しないよう姿を眩ませてな』
「……ディーデバイスはなんでなの?」
『もしタルタロスがカオスデバイスを回収しに来た際シルウィアが自衛できるように、との事だったか。だが……彼女に戦う勇気はなかった』
(ごめんなさいっ、テルス!私には……私には、無理です、戦えません!)
(無責任だけど、これしかないんです……貴方を守ってくれる誰かに、貴方と……戦うための力を、託して……!)
『当時彼女は13歳、無理もない。結果として私はディーデバイスと共にこの世界へ送られた。そしてそれを偶然拾ったのが……』
「弍乃さん、と」
『そういう事だ。私にとって嬉しい誤算だったのは彼女がディーデバイスよりカオスデバイスの適性があった事。カオスデバイスを取り戻そうと襲ってくる魔導士は当然ディーデバイスを使っているためスペックの時点で差がある。彼女が5年戦い続けられた理由はそれだ』
「……」
なんというか、そのシルウィアさんって人も、弍乃さんもタルタロスに人生振り回されてるって感じがした。テルスさんは悪くないんだけど、弍乃さんも結果的に巻き込まれて……
「……じゃああのユピテルはどう説明するの?とてもじゃないけど戦う勇気がない、って顔には見えなかったけど」
『最適化のせいだ』
「それってアポロも言ってた……」
『最適化は肉体を調整しデバイスへの適性……適合率をファーストデヴァイサー、レムス・ウヌスを基準とした100%へと可能な限り近づける手術。その際脳内に魔導士としての戦い方をラーニングする機能があるのだが……どうやらタルタロスはそれを悪用し、自分達に都合の良い駒になるよう記憶を書き換えてしまったらしい』
「はぁ!?何が治安維持機構だよそれ!ただのディストピア機関じゃん!」
『世界を存続させるためなりふり構わなくなったのだろうな……嘆かわしい事だ。彼女が投入されたのがつい最近だったことを考えるとギリギリまで逃げ続けられたのだろう……だからこそ』
「……元に、戻せるんです?」
『だからこそ君達に協力を要請したのだ。そして……これは弍乃ではなく私の願いでもある』
「テルスさんの?」
……弍乃さんじゃないんだ。
『彼女は私にとってタルタロスに利用されるのを防ぎ、弍乃と引き合わせてくれた恩人だ。それが敵の手に落ちたというのなら助けたいと思うのは当然だろう?』
「……なんていうか、思ったより人間っぽいんだねテルスって」
『褒め言葉と受け取っておこう。そして弍乃はそれを承諾してくれた、つまるところ彼女の協力要請は彼女自身ではなく私の意思……だからこそ彼女は私と君達だけで話をさせたのだろう。自分はあくまで私に協力しているだけ、という見方だからな』
「やっぱりいいなぁ、これ……」
「実は最近新しいのを焼いてみて……」
「本当ですかっ!?」
「……絶対違うと思う」
「説明めんどくさいから押し付けてコーヒー楽しんでますね……」
「まあ助けてくれたしあんまりいえないけど」
思ったよりあの人愉快だったりする?
『割とそこら辺は考えてるタイプだからな彼女は……さて、話を続けようか。正直な所我々には君達の情報が足りない、交換と行こうじゃないか』
「……そうですね、じゃあ」
ひとまずお互い話すことを話してからだ。協力するにしたってこっちの事も話しておかないと齟齬が生まれた時に困る。
「えーっと……どこから話そう、ファウヌス」
「まあ……オリンピアの事からでいいかな、そっちは知らないんでしょ?」
「急に素直になった」
「いやその……此処まで真摯に対応されるとこっちも丁寧にしなきゃなって……」
「それを弍乃さんの時からやっておけばよかったのに……」
……余談だけど、話が終わるまで弍乃さんはずっとコーヒー飲んでたし、八雲ちゃんのお父さんから貰った豆に目をキラキラさせてた。正直可愛かった。




