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「わたくしは貴族です。傲慢ととられることはやぶさかではございません。情けないと思われるよりずっと良いですもの。
何はともあれ、メイセット様とベリアナさんのご婚約。おめでとうございます」
ルカナーテが扇を閉じて拍手をすると会場はすぐに反応して拍手喝采となった。
祝福される状況に少しばかり動揺した舞台上の五人であったが、すぐに傲慢さを取り戻しやあやあとばかりに手を振った。
ルカナーテが右手を上げると拍手が一瞬で収まる。その様子を見たメイセットは憎々しげにルカナーテを睨みつけた。ルカナーテの統率力も気に入らないのだ。
「それにしてもメイセット様。わたくしの横暴な態度と言われましても、それは私感的な部分も多ございますのでここで議論はいたしませんが、稚拙ないじめとは何のことでこざいましょうか?」
「お前がベリアナへの嫉妬からいじめを繰り返していたことは明白だ。ここで謝罪せよ。さすれば少しは温情をやる」
「嫉妬……。強く否定いたしたいところではございますが……」
「コホン」
ルカナーテがつぶやくと後ろから小さく催促される。
「メイセット様のおっしゃるような記憶はございませんので、謝罪はできかねます。詳しくご説明いただければ、謝罪せねばならないことも出てくるやもしれませんが」
「ふんっ! 本当に小賢しいな。パーシット! ぐうの音も出ないほど言ってやれ」
「はい」
ニヤけて前に出たのは、深緑の髪と紫の瞳に眼鏡をかけたこれまた美少年だ。
パーシット・アビネン公爵子息。宰相家の長男でメイセットの側近の一人だ。
眼鏡をクイッと上げてから手元の手帳を広げた。
「まずは二年にあがってすぐの四月の三日の昼休みで……」
「お待ちになってくださいませ」
パーシットの言葉を遮る形で女子生徒の声がした。ルカナーテの斜め後ろから前に出てきた可愛らしい系女子生徒はヘーゼルの瞳を三日月にしてパーシットに微笑むとパーシットのように手帳を広げた。美しい銀髪がハラリと垂れる。
「スージーヌ……」
パーシットが目を細めた。スージーヌ・ユリテノ侯爵令嬢はキロリとパーシットを睨む。
「アビネン公爵子息様。そのような呼び方は気分が悪くなりますのでお止めください。
それはさておき、その日でしたら、ルカナーテ様はニーティル様方とお食事をされております」
腕を前に組んで元気すぎる感じのする淑女がスージーヌに並んだ。
「私どもはルカナーテ様とお食事をする際、お教室から食堂までご一緒し、またお教室に戻るまでずっとご一緒させていただいております」
ニーティル・ツータは辺境伯令嬢だけあって、溌溂美人系で赤金髪をポニーテールにして大きな桃色の瞳を爛々とさせ腕を前で組んだ凛とした立ち姿は堂々としている。
「ニーテ! 貴様がしゃしゃり出てくるところではない」
一際逞しいガタイをした短い赤茶髪に漆黒眼に精悍な美少年ホセカロ・メイテント侯爵子息が一際大きな声を出した。
「愛称呼びは止めてくださる? 本当に気持ち悪いっ!」
ハキハキとした快活な物言いが響き、失笑があちこちから漏れた。
「貴様っ!」
ホセカロの隣にいた男が今にも躍り出そうなホセカロの肩を後からそっと叩いた。ホセカロに代わり口を開く。
「君たちは何?」
ビード・マッケイ侯爵子息はサラサラな黒髪の前髪を後ろにかきあげ美しい顔を晒すと黄色眼で睨んできた。
「青薔薇蕾会のメンバーですわ」
金髪ドリル髪に碧眼、ルカナーテに勝るとも劣らない美少女イェリヤ・ノイシャール公爵令嬢がルカナーテに並んだ。
「「「ああ! あのくだらない会の」」」
パーシット、ホセカロ、ビードがことさらひしゃげて笑った。