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イェリアが一層妖艶に笑う。
「皆様、この会を立ち上げた方をご存知でいらっしゃる?」
「はんっ! そんなくだらない会を作った愚か者のことなど知るわけがない」
ビードの答えに女子生徒たちがざわめく。
「ルカナーテ。その馬鹿らしい会も問題だ。ベリアナの入会を断ったそうじゃないかっ!」
メイセットが右腕に絡みつくベリアナの手に左手を重ねながら言った。
「創設者である方が『この学園のマナー教師に合格をもらうこと』と厳しく入会ルールをお決めになっておりますの。代々、マナー講師の先生には細かい規定が伝えられているそうですわ。
わたくしたちが入会者を決めているわけではございません」
「白薔薇蕾会でしたらどなたでも入会できますわよ」
イェリアがルカナーテに補足する。
白薔薇蕾会は青会入会を目指しマナーや社交を勉強する会である。入会は誰でもできるが、努力しない者はすぐに退会させられる。できるできないではない。努力するかしないかである。
イェリアは白薔薇蕾会の前会長で指導者の一人だ。
「俺の妻になる者に格下の会へ入れと言うのかっ!」
「ご身分は関係ございません。青薔薇蕾会にも男爵家のご令嬢はいらっしゃいますし、白薔薇蕾会に侯爵家のご令嬢もいらっしゃいます」
「くだらない会についてはもうよいっ! その会とやらがなぜルカナーテの行動を把握しておるのだっ!」
「それは現在の青薔薇蕾会と白薔薇蕾会は『ルカナーテ親衛隊』も兼ねているからですわ」
「「「えっ!?」」」
舞台の上からだけでなくイェリアの隣からも声が溢れた。ルカナーテは珍しく目を瞬かせて口を小さく開けた。
「きゃあ! ルカ様の貴重なご表情!」
「最後の日にあのようなお顔を見れるなんて幸せだわぁ」
「なんて可愛らしいのぉ!」
イェリア側にいた女子生徒から黄色い声がする。
「えー! 見えなかったあ!」
「ルカさまぁ! こちらにもお願いしまーす」
スージーヌとニーティル側からは懇願の声だ。その声にびっくりしたルカナーテがスージーヌたち側にびっくり顔を晒してしまった。
「きゃあ! あのご表情も貴重だわぁ!」
「ルカ様ぁ! 最高でーす!」
ルカナーテは扇で顔を隠してしまった。
「「「可愛らしいっっ!!!」」」
キャッキャッと喜ぶ声が響いた。
「ルカ。ごめんなさいね。みんな、ルカを毎日見れるのは今日で最後だから興奮気味ですの。赦してあげて」
「もぉ! リア。後でちゃんと説明してくださいませね」
ルカナーテとイェリアがそこだけに聞こえる声で話し、ルカナーテが反対側を見ればスージーヌとニーティルも笑顔で頷いていた。二人はそれほど仲がいい。先程の催促咳もイェリアだ。
イェリアがさっと右手を上げるとその黄色い声が止む。
「さあ、パーシット・アビネン公爵子息様。メイセット様のご指示でしょう。ルカナーテがどんな虐めを行ってきたのか『ぐうの音も出ないほど』ご説明いただきましょう」
イェリアの微笑みにパーシットが怯んだ。
「わたくしどもはルカナーテ様のご行為を存じあげているつもりでしたが、わたくしどもより
上なのでしょう?」
スージーヌはルカナーテの行動をメモしてあるだろう手帳を胸に抱いた。
「それとも腕力に頼ります? わたくし一人ではホセカロ・メイテント侯爵子息には敵いませんが。うふふ」
ホセカロは学園内では武術で右に出る者はいないと思われるほどの腕前である。ルカナーテたちの後ろに並ぶ面々を見たホセカロは顔を青ざめさせた。
「イェリア様。紅薔薇蕾会もルカ様親衛隊ですよ」
「ニーティル様。紅会は、親衛隊ではなく護衛隊ですわ。本当に素晴らしいお手前ですもの」
辺境伯令嬢ニーティルは紅薔薇蕾会の前会長である。
紅薔薇蕾会は女性騎士を目指している者たちの会だ。男子生徒たちと共に汗を流してきた女子がいつでもルカナーテたちの前に立てるようにと人垣の最前列に並んでいた。一対一ならホセカロに負けるが、現在、ホセカロの周りには彼らを守ろうとする者などおらず、鍛錬をしてきた女子生徒ならこの人数がいればホセカロに勝てるだろう。
紅薔薇蕾会のメンバーは現在任務と考えているようでイェリアの冗談にも顔を変えず舞台上を睨んでいる。




