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私の旦那さまは余命100日  作者: 若桜モドキ
五章:赤い毛糸玉現象
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彼の奇妙な行動

 朝になった。

 こんなに憂鬱な朝を迎えているのは、何時ぶりだっただろう。ましてや連日そんな感じなのだから、せっかく丈夫になってきた身体も参ってしまうような気がしている。

 身支度もそこそこに部屋を出ると、すでに一階から物音がしていた。

 この時間、セレスタイトさまはまだ部屋から出てこない。読書をしていたり、早朝にしかできないという作業をしていたり、と理由は様々だ。

 ただ、実際にそれらをしているのを見たことがないので、もしかすると寝ている、という可能性もあるけれど。でも夜は遅くまで起きているようだから、寝ていても問題はないと思う。

 彼でないなら、新しくここで暮らし始めた二人のうちのどちらかだ。

 彼女か、彼なのか。

 ……彼女であればいいなと思う私は、悪い子かもしれない。


「おはようございます」


 そっとリビングを覗きつつ、挨拶をする。

 扉に背を向けるようにしてソファーに座っているのは、どう見ても『彼』だった。

 声をかけられたからには、相手が誰であれ反応しなければ我慢ならないのか、ちらりとこちらを一瞥すると、とても小さな声で『おはよう』とつぶやいた。

 振り向くときに髪が乱れてしまったのか、淡い若芽のような色をしたそれをさっとかき上げつつ姿勢を戻す。頭の傾き具合からして、今日も朝から読書中のようだった。

 読んでいるのは、たぶん自分で持ち込んだ本。

 彼の言動について考えると、セレスタイトさまの本を、という可能性は低く思う。

 邪魔をしないように、私はそそくさとキッチンへと逃げる。

 彼――アンディさんは、やっぱり何も言わなかった。


 こそこそとお湯を沸かして、私はお茶の準備を始める。

 アンディさんがいるということは、そろそろルナさんと……セレスタイトさまも、部屋から出てくる頃合いだからだ。料理はまだ一人でこなせるものではないので、一人でもできるところは私一人で何とかしている。例えばそう、全員に朝の飲み物を提供する仕事、とか。

 棚から茶葉の入った入れ物を取り出し、ポットの中へ。


 セレスタイトさまは銘柄にはこだわらないのか、適当に店で薦められたものを買っているだけだと言っていた。たまに好みにあう味が見つかるのが楽しい、とかなんとか。

 私にもこれといった好みはなく、どれも美味しいと思ってきたけれど、周囲がこだわる派ばかりだったのもあって、有名所の茶葉は一通り味わってきたと思う。

 特にお姉さまのこだわり具合がすごくて、手紙と一緒によく届けられていた。

 お姉さまオススメのものは変わった加工をした茶葉が多くて、こうして毎日普通のものを飲んでいると、あれはかなり風味が違っていたのだなと感じる。

 薬臭いというか……美味しいものではあったけれど、好みが分かれそうな味だった。

 飲んだ後は少し身体が楽になった心地になるのも、薬っぽい気がする。

 あれは、どこの茶葉だったのかしら。


「おはようございます、妹さま」


 お湯が湧くのを待っていると、背後からルナさんの声がした。

 振り返ると、寝巻き代わりに使っているらしいワンピース姿のままのルナさんが、ひょこひょこと歩いてくるのが見える。そして、その後ろから慌てて駆けてくる、アンディさんも。


「ルナ、なんて格好で出歩いているんだ!」

「ワンピース」

「そうじゃない! ちゃんと着替えてから降りてくるようにいつも言っているだろう!」

「めんどう」

「――!」


 何かを言いかけ、だけど言えない。そんな顔になったアンディさんは、ぽかんとしたまま成り行きを見守っていた私に気づき、更に慌てたようにルナさんの手をとる。

 どうやらどこかに連れて行きたい様子で、だけどルナさんは動こうとしなかった。

 なぜそんなことを言われるのだろう、といった表情をしている。

 私というと、アンディさんの言葉に同意する立ち位置だ。ワンピース姿は、そのままでうろうろするには少々布地が心もとないというか、屋内だからギリギリ許容範囲というか。

 もし私がそんな格好をしていたら、はしたない、と叱られると思う。

 ただ、ルナさんは貴族ではないようだから、感覚が少し違うのかもしれない。それに薄着すぎるとは思うけれど、そんな反応をしなければいけないような格好でもないと思う。

 小さい頃は私も、たしかあんな感じの服を着ていた……はずだし。


「アンディ、痛い」

「着替えてくるんだ、部屋で」

「あたしは別にこのままでいい」

「僕が! そのままだと! 困るんだよ!」


 その言葉にルナさんが、軽く首を傾げ。


「なんで?」


 至極もっともな問いかけをする。

 直後、アンディさんは数秒ほど硬直した。硬直し、それがほどけていくにつれて驚くほど顔色が赤くなっていった。あ、とも、う、とも聞こえるか細い声が、短いのに震えている。

 いつのまにか掴んでいたルナさんの手を離した彼は、よろよろと数歩後退。

 床、ルナさん、床、ルナさん、という感じに視線を動かして。


「魔術師たるもの、身なりからしっかりしなきゃいけないんだぞ!」


 という叫びを吐き出すと、そのままリビングの方へと駆け戻って行く。がたん、と聞こえたのは何かにぶつかった音なのか、ものを落とした音なのか、あるいはころんだ音なのか。

 いずれにせよそんなに慌ててどうしたのだろう。

 残されたのは、よくわからない、と互いの顔を見合う私とルナさん。

 多分、風邪を引くかも、と心配されたのだろう、ということで話は終わった。

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