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私の旦那さまは余命100日  作者: 若桜モドキ
五章:赤い毛糸玉現象
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塩対応

 私にとってアンディさんは、苦手というか怖い人だ。

 ルナさんがいると気を使うのか、あまり強く言ってこないけれど、彼女がいない時は本当に怖い。先生みたいだと思う。何をしてもダメなところを指摘してくる感じで、怖い。

 だけど私が間違っているのだから、あまり反論できないのも事実だった。




 例えば二人が来てしばらくした頃に、私は寝坊してしまった。前日、ちょっと張り切って読書していたら、ついつい夜更かししてしまったからだ。

 慌てて一階に降りて行くと、すでにお茶は用意されていた。

 用意したのはルナさんで、私にできるのは飲み終わった後の洗い物くらい。いや、それこそ私の仕事だと張り切ろうとしたら、ルナさんは当然のようにカップを回収して去ってしまう。

 最初から私に仕事をさせる気のない動きに、私は何もできなかった。


『ルナはお前の召使ではないぞ』


 そこに飛んできたのが、アンディさんのこの一言。

 読んでいた本にしおりをはさみつつ、彼は私をじろりと睨みつける。


『仮にも貴様はここの家主の妻だろう。そして僕とルナは客人だ、わかるか』

『はい……』

『客人に茶を用意させるとは、随分とお高く止まった奥方だな』

『も、申し訳ありません……』


 頭を下げている間、アンディさんは延々とあれこれ苦言を漏らした。

 やれ態度が悪い、やれもっとキビキビ動けないのか。料理も作れないのか、魔術もまともに使えないのか、家の掃除くらい自分で何とかできないのか、その他諸々。

 それぞれ、大なり小なり気にしていることだったので心にグサグサ刺さる。

 料理はゆっくりできつつあるけれど、魔術は全然。魔力を使う、ということは何とか人並みにこなせるようになってきたけれど、それを魔術にすることだけがうまくできていない。

 なので魔術で動かす掃除用具はぴくりとも動かず、セレスタイトさまに任せっぱなしだ。

 できることとできないことの明暗が分かれ始めた今日このごろ、アンディさんの、他の人では絶対に言ってくれない苦言は、わかっていてもやはり耳にも心にも痛く響くものだった。

 朝からの説教に耐えた私は、そのままリビングのソファーに沈む。


『朝からお疲れ様』


 そこにやってきたのはセレスタイトさま。

 彼は私の横に腰掛けると、ぽんぽんと叩くように頭を撫でてくる。


『あまり気にしなくていいよ、あれは彼女がやりたくでやったんだから』

『だけど』


 そうは言っても、お茶の準備は、お湯をわかすところから淹れるところまで、最初から最後まで私一人でできる数少ない家事だった。むしろ、私でもできる、と言ってもいいと思う。

 それをこなせないなんて、しかも夜更かししたせいで、と思うと気分は沈んだ。

 それじゃあ、と私の様子を見ていたセレスタイトさまが笑う。


『申し訳ないと思うなら、謝るより相手が好きなことをすればいいんじゃないかな』

『ルナさんが、好きな……?』

『好きなものを作るとか、好きなことを一緒にやるとか。ルナが何を好むのかは、流石に本人に聞かないとわからないけどね。でも謝られるより相手も嬉しいし、いい方法だと思うよ』


 大丈夫だよ、と微笑む姿に、私の表情も緩んでしまった。




 あの時、私はその言葉にとても救われた気持ちになった。

 あたしは妹さまと一緒ならそれでいいです、と言われた時は、複雑だったけれど。

 なぜなら、ルナさんと一緒にいるとなんだかこう、アンディさんの雰囲気というか、言い方がかなりきつく聞こえてしまうから。普段から厳しい彼が、その時は数割増しで厳しくなる。

 理由はわからないけれど彼はお姉さまを嫌っているようだから、妹の私が、妹弟子のルナさんと一緒にいるのが気に入らないのかもしれない。

 無理やり引き離そうとしないのは、ほかならぬルナさんがここに居たがっているから、なのだろうか。アンディさんはあれこれ口に出すのに、妙にルナさんに対しては甘い感じがする。

 兄が妹を甘やかす感じ、というか……。


「甘い、とは違うと思うけどね」


 城へ報告に向かった二人がいない、昼過ぎのリビング。

 私が淹れたお茶を啜り、セレスタイトさまは言う。


「ある意味では『甘い』とは思うけど、単にアンディ・エルテがヘタレなだけだよ」

「へたれ?」

「いざという時、急に逃げ腰になる感じの人かな。ルナにあれこれ口を出すくせに、いざ彼女からそれを嫌がるような素振りが変えると、急にしゅーんとなって何も言えなくなる感じ」

「……すごくアンディさん、ですね」


 今朝の『ワンピース事件』もそう。

 なんで、と言われた瞬間、あれだけきつい言い方をしていたのが消えてしまった。ルナさんが自分の提案を受け入れない、とわかった瞬間、彼の主張が消えてしまったようにも思う。

 私はそれを『甘い』と思ったのだけれど、セレスタイトさまは違うらしい。


「ま、放っといていいと思うよ」

「そうでしょうか……」

「ああいうことは当事者が自覚するか、主張しないとね」


 僕らが言っても意味ない、と呆れたように言うセレスタイトさま。

 私にはわからない、少し難しい話。だけど彼が放置しても平気というなら、もう少し様子を見ても問題ないのだと思う。実際、揉め事などにはなっていないわけなのだから。

 ただ、私への言い方ももう少しこう、柔らかくしてくれたらいいのに……。

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