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私の旦那さまは余命100日  作者: 若桜モドキ
三章:お嬢さま、主婦を目指す
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対立関係

 一通り魔力についての軽い講義を受けた後、お茶とお茶菓子を追加。

 未だセレスタイトさまが戻ってこないことを確認した上で、私はひそりと口を開く。


「それで、お姉さまのこと、なのですが……」

「セレスタイトのやつ、ミオリアさまのことは、まだ?」

「はい……」


 私の言葉に、そうかぁ、とため息をこぼすクゥリさま。

 彼の予想では、そろそろ話していると思っていたらしい。

 けれどセレスタイトさまは、お姉さまとの思い出話こそ時々してくれるけれど、何があったのかとか、そういう核心的なところには一切言及せず、未だに私は何もわからない状態だ。

 流石に『意図的に隠されている』のだろうとは、少し思い始めている。

 その理由まではわからないけれど。

 ただ、以前にもまして聞いてみる勇気が消えた、と思う。

 なんやかんや理由をつけて、はぐらかされる様子しか思い浮かばない。私に話術というものがあればそこを突き崩すこともできるだろうけれど、そんなもの私にあるわけもないし。


「俺も調べてはいるんだが、ミオリアさまの話題はタブーみたいな感じというか、どうも貴族の中ではまだミオリア派とヤヨイ派の対立が、本人不在のところで今も続いてるらしい」

「対立、ですか?」

「そりゃあ、幼い頃から王族と同じくらい仕事をしてきたミオリアさまだ。やってきたことに吊り合うだけの人気はある。王子に変わって慰問とかもしていらっしゃったからな」


 聖女だった曾祖母の血に加えて、ふさわしい行いを重ねてきたというお姉さま。

 だからこそ人々は扱いに困っているのだろう。

 ……あぁ、やっぱりお姉さまは、私が知るままのお姉さまだった。人をそこまで惹きつける人が、私に嘘をつくような、そんな悪い人であるはずがない。

 じゃあ王子の言っていた言葉はどういう意味なのか、という疑問はある。

 彼の様子に、嘘の感じはしなかった。だから私は混乱したのだから。彼にはお姉さまを悪し様に言うだけの、何かがあったのだろう……と、今はそこまでしかわからない。

 その王子が新たな婚約者に選んだヤヨイさまは、本物の聖女。

 こことは違う世界、異世界から現れたという、神さまが選んだ人。

 当然、彼女のことを支持する人も多い。異世界から人が来るというのは、確か伝承に『まるでこの世界のものとは思えぬ存在』といった記述を添えて、聖人や聖女がそう語られることがあるくらいだったけれど、市民に異世界から来たと言っているのだから証拠があるのだろう。

 そこから対立が発生しているという。


 曰く、それらしい働きを続けてきたミオリアこそが『聖女』であろう、と。

 あるいは、神さまが遣わしたヤヨイこそが『聖女』であると。


 そのせいか、私たちがここに来てから、ヤヨイさまは人々の前に姿を見せることが増えてきたらしい。クゥリさまも、何度か目にしたという。私が知るヤヨイさまは、驚くくらい顔色がよくなくて倒れそうな姿だったけれど、クゥリさまの話では少し改善しているとか。

 それでもどこか疲れた印象は強く、お姉さまほどの活動はできていないらしい。

 向かう場所も、あまり負担の掛からないようなところだという。


「一部じゃ、そもそもヤヨイさまの素性自体が疑わしい、なんて話もある」

「それは、どういう……?」

「異なる世界から何かを呼び込んでしまうような、あるいは迷い込ませるきっかけになるような現象といえば、国王命令がないと行われない規模の神事くらいしか考えられない」

「神事……」

「他所の国ではそうでもないが、この国では魔術師はある種の『神官』としての役割もになっている。だから神事には魔術師がつきものだ。だが、ここ十年それらしい話も記録もない」


 世界の壁を超えるには、理論上想像を絶する力が必要であるとされているという。上位も上位、最上位の魔術師を十人近く集めなければならない。けれど、それほどの魔術師を呼び集めるには相応の『命令』が必要になるため、間違いなく王命であろう、とクゥリさまは言う。

 ヤヨイさまが姿を見せたのが一年ほど前になり、しかしその前後――さらに十数年ほど遡って記録を調べてみても、そういった大規模な神事の話は一切ない。

 そもそも神事ともなれば国を挙げての大騒ぎになるので、だからこそヤヨイさまはどうやってこの世界に来たのだというところで、真偽を疑われてしまっているらしい。

 ただ、クゥリさまの見立てでは魔力の量は桁外れだったそうなので、下手に異世界だなんて着けなくても普通に聖女か、それに準ずる存在とみなされた可能性は高いとのこと。

 あえて異世界とした理由は、やはりわからないという。


「神事ってほどじゃないが、結構前に上位魔術師が十人くらい集まって神の言葉を賜わろうとした『らしい』って噂ならあったけどなぁ。ただそれは普通に失敗したって話だし……そもそもそれくらいじゃ、さすがに世界を超えさせるだけの力にはならないな」

「神さまの言葉を賜るだけでは、力が足らないのでしょうか」

「そうだなぁ……たぶん、神さまそのものを呼び出すくらいじゃないとな。世界と世界を隔てる壁はそれくらい厚くて硬い。簡単には崩れたりしないように、そうなっているらしい」


 この辺りはセレスタイトの方が詳しいぞ、とクゥリさまはいう。

 セレスタイトさまはどちらかと言うと研究に重きをおいた魔術師らしく、特に今では使われなくなった魔術の類を調べていたとか。異世界から何かを、誰かを呼び出すという魔術も、分類的にはもう使われなくなった魔術――旧魔術と呼称されるものになるという。

 旧魔術は多くが『迷信』だったりと、期待された効果がないものだとか。

 ただ、すべての魔術はそこから研究とか医療を重ねてきたもので、彼のように旧魔術を専門的に調べたり研究している魔術師は少なくないのだという。

 あと新しい魔術を作るには、やはり古いものをしらなければいけない、とのこと。

 確かに苦労してできた新しい魔術が、実はすでに存在しているとなると苦労した意味がなくなってしまう。新しいことをするためには、古いものも知らなければならない。

 魔術師とは大変な業界らしい。


「そんなわけでヤヨイさまは、実はこの世界の人間をそれらしく育てたんじゃないか、なんて話もある。実際、この世界のことは何も知らなかったようだし、今も覚えるのに苦労なさってるって話だ。お嬢さん以上に外界から切り離して育てれば、異世界人っぽくなるだろう」


 その言葉に、私は小さく頷き、考えこむ。

 初めて外に出た時、初めて身内ではない人と出会った時。

 私の中には確かな不安と、恐怖が渦巻いていた。それでも他者を介して、私は普通より足りないながらも外の世界とつながっていたと思う、感じることもできていたと思う。

 だけど、この世界の人を異世界から来た人に見えるよう育てて、そこに何の意味があるのだろう。異世界の知識が目当てだとしても、それがこの世界でも通用するとは限らない。

 ヤヨイさまは魔力があるから、聖女と認められている。

 もしクゥリさまが聞いた噂の通り、ヤヨイさまは異世界人に見えるよう、隔離され、管理して育てられただけだったとして。つまりこの世界で生まれ育った人、だったとして。

 今後、聖女ではない、という扱いになったなら。

 彼女はどういう立ち位置になるのだろう。

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