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私の旦那さまは余命100日  作者: 若桜モドキ
三章:お嬢さま、主婦を目指す
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魔力の使い方

 食事の後、荷物を整理しに向かうセレスタイトさまと別れ、リビングで私はクゥリさまを先生に据えた『魔力講座』を受けていた。といってもそこまで本格的なものではなく、しばらくは知識を中心に伝えることになるだろう、という。

 いずれ、庶民向けの簡単な指南書を持ってくるとのことで、今日は魔力についての簡単な説明と、あとはクゥリさまが調べてくださったお姉さまに関する情報が中心だ。

 二人分のお茶と、セレスタイトさまが作り置きしているお茶菓子を添え、勉強会が始まる。


「魔術は結構一般的な技術の一つだ。庶民でもそれなりに使える。ただ『魔術師』を名乗るにはまず一定の位を持つ魔術師の弟子になり、それから資格を手に入れる必要があるな」

「では、セレスタイトさまやクゥリさまにもお師匠さまが?」

「もちろんいるぞ。同じ家名持ってる魔術師は多いから、だいたい『名前』に『師』をつけて呼ぶことが多い。年齢よりも魔術師としての格で立場の上下が決まるんだが、貴族だとどうしても爵位の関係性も関わってくるな。とりあえず弟子持ちは『師』呼びするのが無難だ」


 クゥリさまのお師匠さまは、白いひげが大変豊かなご老体なのだそうだ。すでに七十を超えていらっしゃるらしく、老いを感じさせない仕事ぶりで周囲を驚かせていたらしい。

 ただ、クゥリさまの世代が成長したのをきっかけに第一線を退いて、王都から少し離れたところにある屋敷で弟子数人とのんびり暮らしているのだとか。

 そうでなければこんな風には動き回れない、と遠い目をするクゥリさま。

 どうも、お師匠さまのことが苦手な様子だった。


 一方、セレスタイトさまのお師匠さまについては、クゥリさまも詳しいところを知らないのだという。ノア家の本家筋に生まれた方で、十年ほど前に亡くなられたのだとか。

 以降セレスタイトさまは新しい師を持たず、独学でやっているのだという。

 クゥリさまに私の先生役を任せたのも、そこに所以するらしい。

 独学なので人に教えることに向いていないから、と。あの時、セレスタイトさまが言っていた『万人向き』というのは、どうやらそういう事情から出てきた言葉のようだ。


「ま、詳しいところは今度本を見ながらってことで、口で伝えられる部分からやるか」


 食事の後にメモをまとめていたのか、文字を書いた紙切れを取り出すクゥリさま。

 そこには『魔力について』、『その危険性の説明』などが書かれているのが見えた。魔力の危険性、とはどういう意味なのだろう。魔術が危険なのだろうことは、わかるのだけれど。


「まず魔力というものは、誰にでも備わっている力だ。それはわかるか?」

「はい」

「魔力は意識すれば、なんとなーく感じることができる。重要なのは、それが自分の中にあるということを『確信』することだ。でないと、不安定になって何かと問題になる」

「問題?」

「意図しない魔術が暴発するとか、生命に危険が及ぶラインを越えて魔力が失われるとか。本人のみならず周囲にも影響を与えかねない、重大な事故の可能性が高くなるんだ」


 クゥリさんの説明によると、魔力とは一定の量を喪失すると命も危うくなるという。目に見えない血液である、とする人もいるくらい、地味に生命活動に重要な要素だ。

 扱い方一つで人の命すら左右するため、不安定な気持ちで扱うことは推奨されない。

 例えば過剰に気落ちしている時、あるいは苛立っている時。

 つまり心が静かでない、そういう場合。

 そういう状態では魔術を使うべきではない、とされている。無理に使って暴発し、本人がケガをするのは自業自得だが、大抵の場合、本人だけの被害ですまないからだ。

 ましてや『暴走』、あるいは『暴発』なので、制御もままならない。

 抑えることのできない力は、どれほどの被害を出してしまうのか予測できないのだ。


「特にお嬢さんは気をつけた方がいいぞ」

「そう、なのですか?」

「こういう時、一番怖いのはセレスタイトやお嬢さんみたいに、魔力が豊富な連中だ」

「私や、セレスタイトさまみたいな……」

「例えば俺なんかが暴発させても、せいぜいこの部屋がちょっとめちゃくちゃになって、俺やお嬢さんが少し擦り傷もらったり痣ができたりする程度。死ぬことはないだろう」


 俺は魔力の量がそんなに多くないからな、とクゥリさま。

 けれどそれがもしセレスタイトさまだったら、この部屋どころか屋敷ごと吹き飛んでいてもおかしくないという。当然、ここにいる私たちの命は保証されない。

 魔力が多いということはそれだけ魔術も協力になる。上位の魔術を使えるという意味でもあるし、下位魔術でも魔力を割増して威力を底上げするという力技も可能だ。

 暴走はある意味その力技の一種なので、当然手加減とかいう概念は存在しない。

 セレスタイトさまは、若手魔術師の中ではトップクラスの実力を持っているという。そんな人の暴走した魔術に襲われたら、たとえば私ならきっと骨も残らないのだろう。

 恐ろしい、と思う。

 私だけではなく、誰にでも存在する力は、実は使い方を間違えると危ないものだ。

 それを上手に使えば幸せを招くことは、ここでの生活で学んでいる。料理もそうだし、掃除などの作業だって魔術で簡単に片付けることができている。おかげで生活は快適そのものだ。


 私は、人より魔力が多いらしい。

 じゃあ、私も使い方を覚えなければ、うっかり……なんて。

 そんな可能性も、あるのだ。

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