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私の旦那さまは余命100日  作者: 若桜モドキ
三章:お嬢さま、主婦を目指す
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再び、黒の侵入者

 結局、昨日もセレスタイトさまによる料理がテーブルに並んだ夕食だった。

 実に美味しそうに焼けた肉とみずみずしい野菜。甘みのあるとろりとしたスープと、今日の夕食も状況に似合わず豪勢だった。これが罪人の食事だなんて、誰が信じるだろう。

 こちらを気遣うようなセレスタイトさまの視線を感じつつ、私は静かに食べ物を口に運び続ける。そうしなければ、泣き言か、あるいはもっと迷惑をかけることを言いそうだった。


 あれから、別の料理にも手を出してみた。

 火の調節ができないのでそれはセレスタイトさまに任せ、卵をフライパンという深皿のような調理器具で焼くだけの、とてもシンプルな料理に挑戦してみたのだ。

 目玉焼きと呼ばれるそれは、私にとっても馴染み深いもの。

 何度か朝食に出されたそれは、とても美味しい。

 しかし私が作ると、同じように作ったはずなのになんだかあまり美味しくなかった。

 セレスタイトさまが作る目玉焼きは、黄身の部分がとろりとしている。白身も簡単にちぎれるくらい柔らかい。だけど私がやると黄身は固く、白身の裏は焦げる寸前という具合だ。

 卵料理は簡単だと言うけれど、ただ割ったものを焼くだけの調理で、こんなにも差を見せつけられるとがっくりと気分も落ち込んでしまう。しかも手取り足取り火加減を中心に手伝ってもらってこの有様。せめてそれくらい、一人で作れたらいいのだけれど……まだ難しい。


 だけど魔力の使い方は、本にも書いていなかったからわからない。

 本に記されていることなのかすら、目にしたことがないので不明だ。

 そもそも、私でもできることなのだろうか。身体は弱いし、運動もままならない。少し使っただけで倒れてしまったりしたら、もう料理は簡単な手伝いだけしなさいということかも。

 でもそれでは、あまりにも役立たずが過ぎる。

 料理の前に、まずはそこを教えてもらうところから始めるべきかもしれない。

 魔術が扱えて、これといって損することはないだろうし……お姉さまと再会した後、専門的な技術があれば生きていくための術になるかもしれない。

 でも、やっぱり料理……。


「おーおー。いい匂いしてんなぁ」


 そんな一言と共にリビング側からひょっこりと現れた人影に、思わず手にしていたコップを落としそうになる。何度となく起きたこととはいえ、いきなりだとやっぱり驚いてしまう。

 現れたのは黒い外套を腕に抱えた、クゥリさま。

 彼は勝手知ったる我が家という風に、少し離れた椅子にどかりと腰掛ける。

 その瞬間、床に緑色の葉っぱのようなものが落ちるのが見えた。

 ここに入ってくるためには結界以外にもいろいろ悪路を進まなければいけないらしく、私たちにとっては唯一の外との接点である彼には感謝しても足りないと思う。

 セレスタイトさまにとってもそれは同じようで、出迎える彼の視線は柔らかい。


「やぁ、いらっしゃい。荷物は外においてくれていいよ」

「もう置いてきた」

「そうか。いつも頼みごとばかりしてすまないね」

「いいよいいよ。貴族でもない俺には、これくらいしかできないし」

「なにか食べていくかい? それとも飲み物だけでいい?」

「これから街まで行くの面倒だからなぁ……エメレとも相談したいし、食っていく」

「了解。ヴィオレッタ、お願いできる?」

「は、はい!」


 がたんと立ち上がり、キッチンへ向かう。

 料理は保存庫で一日くらいなら保存できてしまうので、少し多めに作ることが多い。次の日のお昼などに、そのまま出したり少し味付けを変えたりして再び食卓に並べられている。

 一応、最低限の食料などは届けられているけれど、本当に最低限だ。

 日々を生きるのに、必要な分だけ。

 別途でクゥリさまが持ち込んでくれる様々なものがなければ、食べるだけで精一杯という感じだったかもしれない。もしそうなら、料理練習なんてしようとも思わなかっただろう。


「ところでクゥリ、一つ頼みがあるんだけど」

「ん?」

「ヴィオレッタに魔術、というか魔力の使い方を教えてくれないか?」


 食器を引っ張りだしていると、セレスタイトさまのそんな声が聞こえた。


「はぁ? いや、そんくらいお前が教えればいいじゃないか」

「僕の場合は『使えない』というのが想定外の領域というか、魔力は自在に使えて当たり前という世界しか知らないから。だから魔術は教えられるけど、その前段階はわからないんだ」


 呼吸の仕方を教えろって言われても困るでしょう、とセレスタイトさま。

 私には魔力の使い方がわからないけれど、それを当然のものとして扱っているセレスタイトさまからすると、それは息をすることと同じくらい『普通』らしい。


「お前ってホント天才っていうか、名門っていろいろ規格外なんだなぁ」

「使えるのが当たり前、の世界だからね」


 できないものは排除されるんだ、と小さくつぶやくような声が聴こえる。

 セレスタイトさまさえ排除される可能性があるなら、私なんて排除以前に内側に入れてもらうことすらできなかっただろう。いくら魔力があっても、使えなければあまり意味は無い。

 静養の合間に、少しでも魔術に関する勉強をしておけばよかった。

 ……いや、何かしらの理由をつけて、止められたかもしれないけれど。


「んー、俺の教えられ方がどこまで参考になるかわからんが、それでいいなら」

「大丈夫だよ。僕よりはずっと万人向きじゃないか」


 少し自信なさげに、クゥリさまが答える声。

 セレスタイトさまの、ありがとう、という、やっぱり柔らかい声がそれに答えている。

 何やら私が知らないところで、何かが決まったらしい。

 だけどこれは、好都合なのかも。クゥリさまにはまだ聞きたいこともあるし、魔力の使い方を教わりながら話もできる。このチャンス、大事にしなければもったいない。

 よし、と軽く気合を入れてから、私は二人の元へ戻っていった。

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