忍者旅に出る
「ハヤト。新婚旅行はどこがいい?」
「どこでも好きなところでいいぞ」
すべてはこれがきっかけだった。
言葉通りに、ハヤト一家はトゥーナが造らせてみたという自動車で、ひたすらに長い道のりを走っていた。
「ハヤトこれ楽しいわね」
「お前ちょっと!このスピードヤバイから!!メーター振り切ってるし」
車につけている速度を表示するメーターは、ハヤトの言う通り振りきれて、故障を疑うほどである。
ちなみに時速で言うならば、160は出ているであろう。
「交通事故の死亡率は車が一番高いんだぞ。…ったく」
などと愚痴るハヤトの裾を、娘のゼロナが引っ張ってくる。
何かと振り返ると、口元を押さえてリバースの体勢だ。
「気持ち悪いですパパ…」
最悪だ。トゥーナの荒々しすぎる運転と舗装知れていない道路に酔ったのだ。
「トゥーナストップ!!」
「スピードアップ?これ以上出ないわよ」
まったく聞いちゃいない。
どころか一番してはいけない方の勘違いをしていた。
メーター振り切ってくれてて良かったのか悪かったのか。
「いいから止まれぇっ!!!」
強引にブレーキを踏みつけて急停車。
中のものすべてが宙を舞う。
車を降りて、リバースしたゼロナの背中を擦ってやる。
「何よだらしない」
「原因お前だ。俺が運転する」
ハヤトは二度とトゥーナに車の運転させまいと誓った。
交代したハヤトの運転は、スピードを抑えた比較的安全なもので、ゼロナも乗り物酔いはなく風に当たって外を眺めている。
「ところで俺たちはどこに向かってるんだ?」
「サンベルっていう大きな街よ。そこはウィリアナよりずっと大きい街だから色んな人種がいるわ」
エルフとか、ワーウルフとかそんなところだろうと理解しておく。
「昔一度行ったけどかなり面白い街よ」
「そこに何しに行くんだ?」
「10年に一度の十の種族が会議をするの。別名従属会議。今後の十年間どの種族が世界の権力を争うのよ」
「つまり俺に出ろと?」
「うんそう」
しれっと言う。
別に戦闘狂になった覚えは一つもないのに、こういうときはハヤトの出番なのだ。
「ていうか俺で良かったのか?他の国から苦情とかないのか?」
確かに、種族の未来を決めるのならば、各国から推薦のあった人間を選抜するべきだ。
トゥーナの一存で決めていい問題ではない。
「今年はウィリアナって決まってたの。本当なら私が出るはずなんだけど」
「そういうことか。お前に怪我させるくらいなら俺が出る」
「ありがとハヤト」
運転するハヤトの肩に頭をそっと寄せるトゥーナ。
そのまますやすやと寝てしまった。
気づけばゼロナも後ろで寝ている。
「あっトゥーナ寝たら場所わかんねぇ」
今さら気づく。
トゥーナというナビが機能しなくなったので、車を停めてハヤトも座席に体を預けて空を見上げることにした。
ハヤトたちの車には、確かに天井というべきものがついているが、開閉可能にトゥーナが改造させた結果、天井だけ開けられる非常に近代的な車の完成である。
エジソンもびっくりすることだろう。
「俺たちは夜刀神に導かれてきた。じゃあこの世界の人たちはなんなんだ?」
ハヤトたちは紛れもない地球生まれの人間。
夜刀神は、この世界のことを知っていてこの世界に送り込んだ。
ということは、創造主は夜刀神だろう。
それなら何のために、造り、ハヤトたちに番号をつけて生み出したのかがわからない。
考えれば考えるほど謎めいてくる。
「いないやつのこと考えても仕方ないか」
ハヤトは諦めて、自分も寝ることにした。
そのとき、妙な殺気を感じた。
直後車が突如爆発を起こした。
ハヤトは二人を抱えて、どうにか脱出に成功する。
「なんだ一体!?」
それに応えるように、声がした。
「貴公らは何者だ。ここは神聖なサンベルの領地であるぞ」
どうやら到着したようだ。
最悪の到着だが。
「俺はウィリアナ公国国王ハヤトだ」
「嘘をつくな。言葉遣いからして王らしくないではないか。それにそのゴツゴツした馬はなんだ?そもそもそれは馬なのか?」
信じてもらえない。当然だ。
まず、ハヤトの身なりは王らしさの欠片もないハヤトが変装用に使っていた服。
言葉遣いは、元から王族ではないを差し引いてもはっきり言って口が悪い。
しかも従者も無しでは疑われてもおかしくない。
「俺は最近国王になったんだ!」
激しく抗議するが、上から目線でまるで話を聞こうとしない。
だんだん腹が立ってきて、服の下に忍ばせている忍刀に手がかかりそうになる。
「大体ウィリアナと言えば、絶世の美女と言われるトゥーナ姫が…」
「呼んだ?」
実は一連の会話はトゥーナは、寝た振りをして聞いていた。
ハヤトの腕に抱えられながら、自分が呼ばれて反応した。
「と、トゥーナ姫!?まさかご本人がおられるとは。大変失礼申しました」
トゥーナの顔を見ると、その男は手のひらを返したように、態度を変える。
ハヤトは面白くなかった。さらに、トゥーナがどや顔してこっちを見たのが、余計に面白くなかった。
そんな女が嫁というのは自慢の種だろうが。
「どうよハヤト。これが私の実力よ」
男がどうやら案内してくれるらしく、車が爆破したので徒歩で行くことになった。
ゼロナは未だにハヤトの背中におぶさって寝ている。
「へーへースゴいですよ~。どうせ俺は王にもアナタの旦那には見られませんよ~」
ハヤトは拗ねた。
こうまですると、子供とやってることは変わらない低レベルである。
「見てもらえなくてもハヤトは私のハヤトよ」
「そうか」
ハヤトは恋人気分というのを味わっていた。
自分が幼なじみと、もしかしたらこうなっていたのではないか。
いつの間にかトゥーナに幼なじみの影を重ねていた。
(俺は今どっちが好きなんだ…?)




