国王ハヤト
今回から新章入ります。
次回からはとにかくバトルの連続と、有終の美を飾るラストまでを全力で駆け抜けます。
ああ…こんなに緊張するのはもう何度目か。まだ慣れない感覚に気持ちが浮わつく。
ハヤトは経験したことはないが、生徒会長が全校生徒の前に立つのもこんな感じなのだ。
政治家がカメラの前で演説するのもこんな感じだろう。
「ハヤト様いえ…国王様お時間です」
国王様。そんな呼び方をされたのは人生の中で数えても指が折れたりしないくらいない。普通に初めてで、呼ばれ方はまだまだ慣れない。
しかしこれからはそう呼ばれるのだ。
ハヤトはトゥーナと結婚の約束をした。
同時にそれは、このウィリアナ公国の国王になるということなのだ。
これから戴冠式で、トゥーナから王冠をもらい初めて王になり、夫婦になるのだ。
女中が呼びに来たということは、その時間がきた。
ハヤトの心臓は、張り裂けそうなくらいに激しく鼓動している。
「パパ」
忘れてならないのは、ハヤトの義理の娘ゼロナの存在だ。
トゥーナが子供が出来なければ、ハヤトの連れ子のゼロナは次の国王ということになる。
継承権は、バールのロゼンジを差し置いて、子供がいない限りゼロナが最上位である。
ゼロナは捨て子から姫までのしあがったのだ。
これもハヤトとの邂逅が起こした奇跡である。
「おうゼロナ可愛いぞそのドレス」
「ありがとうパパ。でもどうやったら一日家開けたら国王になれるんですか」
一日放置していたことを根に持っているらしい。
そういえばあの日すぐ帰るとか言ったような…。
いや。あれは勝手に泊まりを決行したトゥーナが悪い。
と、自分に言い聞かせる。
「悪かった。これからはママもいっしょだ。もう寂しくないだろ?」
「はい。頑張ってくださいねパパ」
娘の期待には答えねば。
なんだか気持ち軽やかになった足取りで、ハヤトは式場へと向かう。
「準備はいい?」
「お、おう…」
さっきまでの軽やかさはどこの空。体に掛かる重圧が何倍にも膨れ上がったように感じる。
カーテンに仕切られた向こうには、民衆が今か今かとハヤトを待っている。
ハヤトの緊張など知ったことではない。
仕切っていたカーテンが開かれ、バルコニーの下に人の群れが見える。
「傾聴せよっ!!これより国王戴冠式を執り行うっ!!」
司会役の兵士が、マイクのようなもの(拡音器というらしい)に向かって叫ぶ。
これが不良品なのか、こういうつくりなのか、なかなかにうるさい。
「国王様のお言葉を賜るッ!!」
そんな大声で言わなくても聞こえてるよ。
ていうか緊張してるからホントやめて。
ハヤトはバルコニーに向かって歩き出す。
本当に怖い。まだ戦っているほうがよっぽどマシだ。
後ろから頑張ってという声が聞こえて、震える脚を前に出す。
「国王様」
ハヤトは拡音器の前に立って、一度深呼吸する。
「今日から俺が国王だ!!俺が国王になったからには誰も死なせやしねえっ!!俺が守ってやる」
しばらくの沈黙。どんなことを言うのかと構えていた人々からすれば、度肝を抜かれる思いだったろう。
しかし、裏も表もないまっすぐなハヤトの思いが、人々の心に届いた時、大きな拍手が巻き起こった。
そしてハヤトは内心やりきったと、安堵に胸をなで下ろしていた。
しかし、まだ式は終わりではない。これから大事なイベントがもう一つあるのだ。
「女王様より王冠授与を賜りますっ!!」
この拡音器のデカさなら叫ばなくてもいいと思うのだが。
それよりも、一大イベントの王冠の授与兼結婚式があるのだ。
声は聞こえたが、ハヤトはトゥーナの艶姿は一度も見ていない。
どんな格好でどんなに綺麗に着飾っているのかと想像すると、自然に緊張が戻ってきた。
「女王様の入場っ!!」
ハヤトの後ろのカーテンが再び開かれ、奥から薄いピンクのドレスを纏ったトゥーナがゆっくりと、品のある女王たるゆったりとした歩き方で歩いてくる。
ハヤトは一瞬などではなく、歩いてくる間ずっとトゥーナを見つめて目が離せなかった。
それほどにトゥーナは綺麗だった。
「バッチリなスピーチねハヤト」
「綺麗だなトゥーナ。目が離せないくらいに」
「ありがとう」
ハヤトの本音が素直に嬉しかったようだ。
露骨に嬉しそうな顔をつくる。
「女王より王冠が授与されます」
ハヤトは騎士のように片膝をついて、トゥーナに頭を差し出すような姿勢になる。
その頭にトゥーナはそっと、王冠を乗せた。
これがハヤトは国王として国から認められた証である。
「ハヤト愛してる」
「俺もだよ」
二人は熱い口づけを交わした。
結婚式を兼ねているので、誓いのキスのはずだが、これではまるで恋人同士のキスにしか見えない。
それで文句を言うような空気の読めないやつは、この場にはいなかったようで、民衆からは大きな拍手が起こった。
「はぁ~…疲れた」
ハヤトは式が終わって自室に戻ると、ベッドに倒れるように横になった。
よくやった方だとは思うが、精神的疲労は尋常ではない。
ハヤトは目を閉じてしばらく寝ることにした。
「…ヤト」
目を閉じると、何かが呼ぶ声が微かに聞こえる。
目は開けられないので、耳だけ傾ける。
「…ハヤト」
聞こえてくるのは女性の声。
それもなぜか懐かしさを感じる声だ。
ハヤトはその声も、その主も知らないはずなのにだ。
不思議さに寝ながら小首を傾げる代わりに、眉根を寄せる。
「ハヤト」
また聞こえる。
お前は誰だ。ハヤトは声に出さず聞いた。
意外にも、声はハヤトに答えた。
「私は貴方を知るもの。貴方を創りしもの」
余計意味がわからない。
言葉がとにかく不明瞭過ぎるのだ。
創りしものが一番わけがわからない。それは夜刀神としてなのか、それともまだ見ぬハヤトの母親という意味か。
ハヤトは生まれついて母親がいない。
だから、いきなり母親が現れたところで、なんだいたのか程度に感じる感性しか持っていない。
自分が神のバックアップなどと言われたのだ、今さら親が神だろうが、驚くことなどあるものか。
「あんたは俺に何の用だ」
「八番目の夜刀神。七番目を探しなさい」
「七番目?」
そういえば戦王の話には、七番目七夜刀の話が出てこなかった。
行方不明とか、そういうことだろうか。
「彼の者は邪なる心を持ち、夜刀神にして夜刀神に仇なす者。故に八夜刀貴方に願います。
七番目を見つけ、倒してほしい」
そこで声は途切れた。
同時に、ハヤトはちゃんと寝ていたらしく、そこから目を覚ます。
すぐ横を見ると、トゥーナとゼロナがまさしく川の字に寝ていたので、起こすのも悪いと思いハヤトも静かにもう一度目を閉じた。




