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魔力吸収された時の対策として呪いを掛けて貰う魔剣士

 アイラの目に入ったのはアーロンの股間であった。

 男であれば誰でも攻撃されると激痛で苦しむ部分である。


 もし、どんなに鍛えられた肉体を持つ男でも股間を攻撃をされると、のたうち回るであろう。

 彼女は首を絞められ意識が遠くなる中で、それをナイアに目で合図する……。


(アレだっ!)

(ソレを蹴り上げれば……)


 2人は意識が朦朧としていく中で武闘家の股間目掛けて同時に蹴り上げるのであった。


「うっ、うがぁああああっ!!」


 武闘家は彼女達を掴んでいた手を離し、両手で股間を押さえながら転げ回る。

 その隙に彼女達は距離を取ると、首に手を押さえ激しく咳をするのである。


「ゲホッ……ゲホッ……うう……」

「ゴホッ……ゴホッ……ああっ……」


 そして、呼吸を整えている間にアーロンは怒りで顔を真っ赤にし、彼女達を憎悪でもって睨みつけている。

 武闘家の顔をよく見ると激痛で脂汗を掻き、痛みで顔を歪めていたのである。


「よ……よくも俺のタマを蹴りやがったな!……」


 彼はそう叫ぶと股間を両手で押さえながらピョンピョンと飛び跳ねるようにしていた。

 その行動は痛みを逃す為に無意識でやっているのだろうが、滑稽で何処か悲しいものであった……。


「お前等、絶対に殺してやるっ!! 楽に殺してやると思うなよ!!」


 ある程度、痛みが治まったのか武闘家は半泣きになりながら怒り狂い、彼女達に襲い掛かるのである。

 しかし、彼の攻撃は単調で武術とは程遠く、ただの力任せの暴力であった。


 アイラとナイアはその攻撃を躱し続け、タイミングを計るのであった。

 ただ、一撃々が重く一発でも貰えば致命傷になるのは明白であった。


 そして、アーロンが渾身の力を込めながら彼女達に連続的に殴りつける。

 その時に、チャンス到来と見て2人は無言で頷くのである。


 武闘家の連打を避け左右に別れて回り込む。

 先ずはナイアが脱力し彼の腰の後ろ側……正確には腎臓の辺りに腕を鞭のようにしならせ強烈な拳打を叩き込んだ。


「うっ!……うぐっ!……」


 彼は激しい内臓痛で腰を曲げて苦悶の表情を浮かべる。しかし、そこでは終らない……。

 次にアーロンの顎が下がったタイミングでアイラが彼の顎に向けて深く沈み込んだ体勢から全体重を乗せる。

 地面を踏み鳴し、ドンッ!!という凄まじい爆発音が響いた。


 足裏から得た反発力が脚、腰、肘へと瞬時に伝わり凄まじいエネルギーへと変換される。

 古エルフは踏み込んで半身になると右腕を鋭角に折りたたみ武闘家の顎へと叩き込んだ。


「あぎいいいっ!……」


 肘が顎に直撃すると衝撃が顎から脳へと伝わるが彼も無意識でダメージを逃そうと首が90度以上曲がる。


「ぐううっ!……」


 だが、それでも逃すことが出来ないダメージで頭が跳ね上がり男の体が真横へと吹っ飛んでいく。

 そして、地面に落ちると白目を剥いて地面に横たわり仰向けとなるのであった。


「はぁ……はぁ……」

「ふっ……ふっ……」


 彼女達は荒く息をしていた。体全身が鉛のように重く立っているのもやっとである。


「つ、強かった……」

「ええ……化け物じみた肉体だったわね」


 2人は同時にそう言うと失神している男を眺めピクリとも動かないのを確認するのである。

 そして、一息つくとナイアの方から握手を求めてくる。


「まぁ……古エルフとダークエルフの共闘の証として……」

「ああ……そうだな」


 彼女達は握手をして互いに微笑む。そして、2人は健闘を称え合うのであった。


「「また、いつか戦おう」」と……。




 地面に大の字で倒れているアーロンが味方の兵士達から担いで運ばれレムルス達の元まで連れて来られた。

 武闘家に対して魔剣士と聖女は冷たい視線を送りながら言葉をかける。


「アーロン、お前までは負けるとは……」

「貴方まで負けるとは何たる体たらく……せっかくの神の力を……」

「あ……ああ、面目ねぇ……」


 2人に責められて彼は項垂れて申し訳なさそうに謝るのであった。

 そして、レムルスはウェイドとアーロンに叱責の言葉をかける。


「不甲斐ない……だが、俺がアベルを倒してやる。そうすれば、チャラに出来る」

「すまん、レムルス……お前が頼りだ」

「その聖剣でアイツをバッサリ斬り捨ててしまえ」

「任せておけ」


 彼の自信たっぷりな様子に2人は自分達の失態の憂き目から立ち直るために期待するのであった。


「その前にベルゼリア、俺がアベルから魔力を吸われる状況になったら前に言っていたカウンターになる呪術を施してくれ」

「分かった、直ぐにでも施そうぞ。だが……奴に呪術が掛かっても身に宿る存在の力次第で一時的でしか働かないかもしれぬ」

「それでもいい……俺は絶対にアベルを倒さないといけないんだ……頼む」

「うむ……承知したぞ」


 レムルスの決意に魔女は深く頷くのであった。

 そして、彼に向けて得体の知れない呪文を唱え体に手を触れる。

 ベルゼリアの手の感触からレムルスは何か不快なものが体に入ってくる感じを覚えていた。


(な、何だ? この嫌な感覚は……)

「よし、これで良いだろう」


 魔女がそう言うとレムルスの体から手を離しニヤニヤした不気味な笑みを向けていた。


「さあ、呪術をかけたぞ……これで魔力を吸われたとしても相手にも呪いが降り掛かるであろう」

「ああ……」


 彼はベルゼリアが何を行なったのか分からず生返事をするしかなかったのであった。

 すると、彼の体から薄っすらと黒い靄が漂い始めるのであった。

 レムルスは自分の体から漂う靄を見てギョッとするが、その靄は魔女が施した呪術だとすぐに理解するのである。


「これが……吸収した時に奴の中で呪いへと変わる……」

「そうだ……これで相手を弱体化でき、戦いを有利に運ばせよう」

「わかった……」


 魔女は黒い靄を喜んで説明し魔剣士も呪いの手ほどきを受けるのであった。

 そして、レムルスは『終焉の刃』の仲間達の方を向き話しかける。


「俺はアベルを倒し魔王軍を壊滅する……よく見ておけ」

「お前がアベルの首を取ってくる姿を待ってるぞ」

「俺達の仇を取ってくれ……」

「レムルス……貴方が真の勇者だという事を証明してきて。ああ、神の祝福があらん事を……」


 魔剣士が今まさに戦いに駆け出す後ろ姿を見て3人は希望を抱く。

 彼等の目には、その背中は勇者としての風格さえ感じさせるのであった。

 レムルスは決闘の場まで歩いて行く間、腰に差した聖剣『ディヴァイン・フォース』の感触を確かめながら思う。


(遂に……これで、2度目の奴との戦い……絶対に勝つ!)


 その剣は彼にアベルを屠るという決意を更に固めさせるのであった。

 そして、彼の前には自身を待つ魔王が立っていたのである。


「遅かったね……怯えて震えあがっているんじゃないかと思っていたよ」

「ははは……笑えない冗談だな」


 僕は素手で自然体で佇んでいる。彼は冗談にも怒っている風でなく普通に答える。

 そして、レムルスは聖剣『ディヴァイン・フォース』を抜いて構える。

 光り輝く聖剣を構え堂々とした態度で僕を睨みつけている。


「さあ……決着をつけようぜ」

「そうだね……」


 お互いに言葉を交わした瞬間、彼は聖剣に魔力を込め全身に朱色のオーラを纏う。

 刀身にもオーラを纏うと剣を肩の後ろに振りかぶり構える。


 ただ、朱色のオーラの周りに薄墨色の靄が掛かっている様に見える。

 その靄が彼が発しているオーラや魔力でない事に気付くとアジェも気付き、訝し気に呟いた。


『あの靄……何かおかしい。もしかして、何か特別な呪い?』

「わからないけど……気を付けた方が良いと思うよ」

『うん、わかってる』


 アジェも僕も、何か嫌な感じがして2人で警戒しながら相手の出方を待つ。


「うおおおおっ!!」


 気合を込めた叫び声を上げレムルスは『ディヴァイン・フォース』を握る手に力を込め聖剣を振るのであった……。

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