魔王と対決について取り決める
「何故……お前と勝負しないといけないのか?」
「それは、僕が貴方より強いと世に証明したいからです。そうすれば魔王軍の配下達も納得するのでは?」
「……うむ、確かにそうかもしれんな」
彼は顎に手を当て少し考え込んだ。そして、僕の目を見詰めて言う。
「いいだろう。お前と勝負してやる」
「ありがとうございます! ただ、僕と貴方だけの戦いでなく仲間達と貴方の部下達との戦いも許可してください」
「それは構わんが、私の配下達は強いぞ……」
「構いません……僕の仲間も強いですから」
彼は僕の言葉に少し気分を害し目を細め凝視してくる。
魔王から睨まれて怖気つかず冷静でいるのは難しかった。
見詰められている間、ずっと冷や汗を掻きっぱなしであったのである。
それでも僕は何とか平静を装い仲間の強さを誇示する。
「ほう……お前は余程、仲間を信頼しているようだな……」
「とはいえ、あくまでも殺し合いはしませんので……いいですか?」
ギルバルスは少し間を置き、そして頷きながら言う。
「よかろう……お前の仲間達と私の配下達で命を奪わない対決を行うとしよう」
「僕の我がままに付き合って貰い、ありがとうございます」
「但し、お前が勝っても負けても私との約束は必ず果たしてもらうぞ」
彼は僕を見詰めてニヤリと笑い言った。僕はその不敵な笑みに少し恐怖を感じる。
だが、ここで引くわけにはいかないので僕も彼に負けずに笑って見せる。
「ええ、もちろんですよ」
「フッ……変わった人間だな……」
そんなやり取りをした後、魔王は僕に退室するように促す。
「さあ……もう退室してよいぞ」
「はい、分かりました」
僕は頭を下げお辞儀をすると彼に背を向け扉に向かう。そして、部屋を出ようとすると後ろから声がかかるのであった。
「アベルよ……」
その声に振り向くと彼は椅子に座って僕を見ていたが、その姿は何故か物悲しげに聞こえ僕の心を鷲掴みにした。
「えっ? 何です?」
ギルバルスに見詰められ動揺しながらも返事をする。
すると、彼から意外な言葉が発せられたのである。
「アベル……私はお前のような人間を待っていたのかもしれんな」
「えっ?」
僕は彼の言葉に驚いてしまった。まさか、魔王からそんな言葉が発せられるとは夢にも思わなかったのだ。
そして、彼は僕を見て言うのである。
「いや……何でもない。さあ、早く出ていけ……」
「はい……失礼します」
再び頭を下げお辞儀をすると、そのまま部屋を出て行く。
そして、外で待機していた兵士達に連れられ監禁された部屋まで戻って来た。
部屋に入ると中ではアイラが心配そうな顔をして僕に近付いて来る。
彼女が待っている間、僕がどんな目に遭っているか不安になっていたようだ。
その為、部屋に入って彼女の顔を見た時、自然と顔が綻んでしまったのである。
「アイラさん……ただいま!」
僕が笑顔でそう言うと彼女も微笑んで答える。
「おかえり……アベル」
「心配かけて、すみません……」
僕は彼女に謝るが、彼女は首を横に振る。そして、僕の目を見て言うのである。
「いや……無事で何よりだ。それで、魔王はどうだった?」
「うん……思ったより悪い人じゃないみたいです」
「そうか……それは良かった」
アイラは少し安心したのか胸を撫で下ろすのであった。
魔王とのやり取りを彼女に説明し、魔王の配下達と決闘を行う事になった事を伝える。
「そうか……魔王はアベルの力を使って魔王という役目から解放されたいと思っているのか」
「そうですね、それが彼の本意みたいです……それとアイラさん達と魔王の配下との対決を勝手に決めてしまいましたけどよかったですか?」
「ああ……構わない。君が決闘を承諾したのなら、その勝負に勝つまでだ」
彼女は僕の目を見て頷きながら言った。そして、続けて僕に言うのである。
「ただ、他の者は大丈夫なのか? 相手は魔王の精鋭達だ……」
「はい、大丈夫だと思います! ニルスはともかく、ガラドさんやバルバラさんも強いですから」
「そうだな……ニルスはちょっと心配だな……」
「魔王と約束しましたが殺し合いはしないという取り決めです」
アイラは少し心配そうな表情をするも白い歯を見せ言う。そして、僕も魔王と決めた約束事を話したのである。
そして、お互いの目を見て頷き合う。これから魔王達との対決に臨む為の士気を上げる為に……。
その後、僕達は魔族の兵士に連れられガラド、ニルス、バルバラが監禁されている部屋に行く。
この時、僕は手枷を外されて解放されていた。すると途中で兵士達が僕に向かって言ってくる。
「この廊下をまっすぐ行った先だ」
そう僕に告げ部屋の前まで来ると兵士は扉の鍵を開ける。ガチャリと音がし扉が開かれると中からニルスが飛び出して来るのであった。
そして、彼は僕を見るなり抱き着いてくるのである。
「アベル! 無事だった!?」
僕は少し驚いたものの、すぐに彼の背中に手を回し優しく言う。
「うん……大丈夫だったよ」
「よかった……」
ニルスは僕の胸に顔を埋め抱き着いたまま呟く。彼の顔が胸に当たっているのが気になって恥ずかしくなる。
これも肉体が女性化したからなのだが……。しかし、ニルスはわざと抱き着いてないか?
僕は、しがみつく彼を少し強引に離すと顔が少しニヤついていたので意図的にやったなと勘づく。
それから、ガラドとバルバラの無事を確認するため中に入って2人の前に行く。
そんな僕にガラドとバルバラはニヤリと笑い両手を広げて言うのであった。
「おう! アベル……無事だったか」
「魔王から何か、されていないか心配だったぞ」
「はい! 全く大丈夫です!」
2人が笑顔で話しているのを見て僕は嬉しくなり、思わず微笑んでしまう。
そして彼等に向かって近付きながら僕も声をかける。
「皆、無事でなによりです。大事な話があるので伝えに来ました」
「話とは何じゃ?」
ガラドが興味深そうに聞き返してくる。バルバラも僕の顔をジッと見詰め言うまで待っている。
そして僕は、魔王と話し合った内容を彼等に説明するのである。
「何!? 魔王の部下達と決闘するんじゃと!?」
「はい……その通りです」
「やったろうじゃない! 奴等の相手になってやるよ!」
ドワーフは少し戸惑ったようだが、バルバラは血気盛んに答えるのであった。
ニルスも2人のやり取りを黙って聞いていたが、やがて僕に近付いて来て小声で言うのである。
「その……おいらも戦うの?」
「うん、そうだよ……ニルスも戦うんだよ」
「そっか……でも、おいらは魔王の手下と戦って勝てるかな?」
彼は自信なさげに僕に言う。僕はそんな彼に安心させるように笑顔で答えたのである。
「そうだね……ニルスはガラドさんと一緒に組んで戦うように話をしてみるよ」
「ほっ……本当?」
不安気なハーフリングはドワーフの顔を見詰めて言う。
心許なげな表情のニルスの肩に手を置いて宥めるように話を続けるのである。
「うん、そう話をつけるよ……ガラドさんいいですか?」
「ああ……構わんぞ」
僕の目を見て頷くドワーフに僕も頷き返す。そして、バルバラが決闘について聞いてくる。
「一体、魔王の配下の誰と戦うんだ?」
「多分、酒場にいた魔王とグレギギさんを除く人達じゃないですかね?」
「となると……あの場に居たのはエルフの女と戦士風の男とフードを被った怪しい2人の男達だな」
バルバラが腕を組みながら考え込んでいる。すると、ガラドも同意して言うのである。
「うむ……そうなると、バルバラは戦士の男と勝負かの……アイラの相手は女エルフというところじゃな」
「ああ、そうだろうな」
バルバラが頷き答えるとガラドは僕に言う。
「で、儂とニルスの相手は正体が判然としないのぉ……」
「そうですね……それも魔王から聞いておきます」
僕も頷きながら同意する。そして、ニルスも不安気に呟く。
「おいら達……勝てるかな?」
「大丈夫だよ……ニルスとガラドさんなら」
僕は彼の肩に手を置いて笑顔で答える。すると彼は少し強張った顔で笑うのである。
こうして僕達は魔王の部下達と対決する決意が固まったのであった……。




