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気分転換に酒場に行くも魔王達が既にいた

 一方、魔王達がダルグの町に入って来ている事を知る由もなくアベル達は宿で過ごしていた。

 昨日から魔王が僕を拉致するかもしれないという危機を警戒しながら過ごしていた。


「はぁ……こうも用心していたら気が滅入ちゃうな……」

「魔王相手に、いくら用心してもし過ぎることはない……」


 アイラがそう言うとバルバラも頷きながら同意する。


「うむ、魔族という者は邪悪だからな……どんな卑怯な手を使ってくるのか用心を怠ってはならんぞ!」

「うん、そうした方が良いと思うよ!」


 2人の言葉にニルスも同意し僕は相槌を打つ。するとガラドが僕の肩をポンと叩き言う。


「気が滅入っとるなら酒場に行って気分転換でもするか?」

「えっ? けど、僕は余り酒が飲めないから気分転換にはならないですよ……」


 僕はガラドの言葉に苦笑いする。すると彼は残念そうな顔をして言う。


「なんじゃ、行きたくないのか……つまらんのう……」

「だったら、おいら達だけで行って楽しんで来るからアベルは宿で待ってれば」


 ニルスが皆に言う。しかし、アイラは納得いかないようで口を尖らせる。


「う~む……アベル1人だけで残すのは問題があると思うが……」

「アベルが行きたくないって言ってるんだから仕方ないんじゃない?」

「うん……じゃあ、わかった。僕も一緒に酒場に行くよ」


 仲間達と一緒に僕も渋々酒場に行く事にしたのである。

 酒場に着くと空は暗くなっているのに誰も寄り付かなかったのである。


「あれ? 誰も酒場に入っていない……?」


 僕が不思議に思って呟くとガラドも渋い表情を浮かべ言う。


「ふむ……今日は誰も酒を飲んでいないようじゃな……」

「みんな、大人しく家に帰っているのかな?」


 ニルスが不思議そうに言うと皆も渋々頷く。

 そして、酒場に入ると客は誰もおらずガランとしていたのである。


「あれ? 誰もいない……」


 僕がそう言って中を見渡すと隅のテーブルで酒を飲んでる一団が目に入る。


「あっ! あの人達は?」


 そう言ってそのテーブルに座っている一団をよく見ると魔術師風の男には見覚えがある。

 それは魔王の配下であるグレギギであった。しかし、角は生えておらず瞳の色も赤くないのである。


 そして、グレギギ以外にも戦士風の男や銀髪のエルフの女、大きめのローブを着てフードを深く被った2人……。

 特に目を引くのが黒くて長い髪をした端正な顔の男である。


 彼がどうやら一行の中で一番偉いようだ。彼は黙ってグラスを口につけている。

 僕は思い切って彼等に近付いていく。するとグレギギが僕に気付いて言う。


「おや? ようやく来てくれましたな……」


 彼は朽ちた神殿で会った時とは違い気さくに話しかけてくる。その事に僕は少し驚くが、すぐに返事をする。


「どうも……グレギギさん」


 挨拶を返すとグレギギは笑顔で頷く。そして、他の者達も僕に気付くと軽く会釈をしてきた。

 しかし、ガラドは彼等を見て警戒し鋭い目で睨み付ける。


「お主等……何を企てておるのじゃ?」


 ガラドの言葉にグレギギは平然とした態度で言う。


「別に……何も企んでいませんよ。あなた方も隣のテーブルで一緒に酒を酌み交わしましょう……」


 グレギギはそう言うと僕達に隣のテーブルを勧めてくる。

 僕を含めて全員、不信感で一杯であったが渋々椅子に座るのである。


「この町で酒を飲みに来た訳じゃないでしょう……本当の事を言ってくれませんか?」


 グレギギに質問すると彼は肩を竦めながら言う。


「やれやれ……貴方はつれないですね。では、本音を言いましょう」


 そう言って一呼吸おいてから話し出す。


「今日は魔王ギルバルス様と魔王軍の幹部達とで、貴方を魔王軍へ勧誘しに来たのですよ」


 グレギギの言葉に僕は衝撃を受ける。僕は思わず質問する。


「魔王軍へ勧誘? 何故、僕を……?」


 するとグレギギは笑いながら言う。


「人間でありながら魔力を吸収する異質な能力を持っている……そして、その実力も折り紙つきだ」

「それはどうも……」


 彼は僕を褒めちぎるが、その言葉に僕は深く警戒していた。


「そして、魔王様は貴方に興味が湧いたのです……是非とも願いを成就させて欲しいと……」


 グレギギはそう言うと寡黙で長い髪を後ろで束ねた黒髪の男が僕の目を見つめてくる。その目を見て思わずゾッとする……。

 彼の目からは深い闇の深淵が見え隠れし、その奥底には得も言われぬ暗黒の力が渦巻いている様に見えたのである。


 その感覚から彼が魔王なのだろう。彼自身が放出する魔力も今まで感じた事がない程のものを感じさせていた。

 僕は思わず身を強張らせると彼が虚無感を漂わせた目で言う。


「お前がアベルか……グレギギが言ったように人間にしては不自然な髪色と瞳の持ち主だな……」

「はい……この髪と瞳には訳がありまして……貴方達こそ魔族なのに角が無く瞳も赤くないじゃないですか?」

「それは……人間達に魔族だとバレないように変装しているのだ……」


 魔王がそう言うとグレギギも付け加え話し始める。


「そうだ……この酒場も勝手に入ってこれないよう魔王様が魔法で結界を張っている」

「なるほど……それで酒場に誰も入って来ないんですね……」


 今日は誰も酒場に近寄らない理由に納得すると、グレギギが話を続ける。


「さて……その力を魔王様の為に貸して貰えぬだろうか?」

「嫌です……僕は魔王に協力はしません」


 僕は警戒しながら、キッパリと反対する。

 すると魔王の周りに座っている銀髪の女エルフと髪を短く刈り上げた戦士風の男が言う。


「ふふふ……協力しなければ最悪の結果を招くわ。魔王様が人間の力を借りるなんて普通では考えられない事なの」

「ふむ……そう言う事だ。断れば命は無いものと思え」


 銀髪の女エルフの言葉に戦士風の男が同意するように言う。

 2人の言葉を聞いてフードを被った者達も頷いていた。


「協力する気がないなら仕方がない……力尽くで従わせるまでだ……」


 魔王はそう言い立ち上がると僕の方に、ゆら~っと歩き近付いてくる。

 僕と仲間達も、すぐさま立ち上がり身構えるが、その時……。


「我が魔力でもって幻に捕らわれろ……虚構を味わえ!」


 彼が魔法を唱えると、僕等の周りに灰色の霧が立ち込めて視界を奪う。

 そして、その霧は僕だけではなく仲間達にも纏わりついていく。

 僕は慌てて皆に叫ぶ。


「みんな! 気を付けて幻術だよ!」


 だが、僕は叫ぶと同時に魔力解除を使って幻術を無効化しようと感知するが……。

 流石、魔王が唱える幻術である。僕の魔力解除で打ち消す前に幻術の中に取り込まれていく。


 ギルバルスが唱えた魔法でアベル達の周辺は灰色の霧で覆われてしまう。

 その霧は徐々に広がり酒場の中に広がっていくと辺り一面を覆っていくのであった……。


「な……なんだ? この霧は?」

「何も見えんぞ!」

「ミエナイ……」

「安心せよ……儂の防御結界でお前達には幻術に掛からないようにしておいたぞ」


 ゴルガドやゲルグ、アガーンが視界を奪われ慌てふためくがグレギギが冷静に答える。


「流石は魔王様……強力な幻術ですね」


 ナイアも感心して言う。そして、魔王ギルバルスは霧の中で静かに佇んでいた。

 冷静になった魔王の配下達とは反対に僕達は彼の幻術に嵌まり、もがき苦しむ。

 僕にはあの時の光景が今、目の前で繰り返されようとしていた。


『お前は無能だから必要ないんだよ! この馬鹿が!』

『女になって嬉しいんじゃない……本当はオカマだったんじゃないの?』

『元男だと思うと気持ち悪ぃ……近付くな!』

『性別が変わっただけでなく、その瞳と髪色……半端者ね……不気味』


 そして、レムルス達の嘲笑と嘲り……それが過去の記憶から更に鮮明に聞こえてくる。

 僕は頭を抱えて呻くように言う。


「言わないで……もう、止めてくれ!」


 しかし、幻術は容赦なく僕の心を深く抉るのであった……。


「ああぁあっ! 好きで、こんな姿になったんじゃないんだー!」


 仲間達の誰も彼の苦しむ姿には反応せず、ただ茫然と佇んでいるだけであった。

 いや、彼等も幻覚を見せられ苦しんでいたのであろう。

 魔王の幻術は更に深く皆の心に入り込み苦しめていくのであった……。

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