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魔王の一団がダルグの町に転移する

 霧が深く立ち込める中に城が見えている。その城の色は錆の様にくすんだ赤茶色をしていた。

 その形状は複数の塔が中心に向かって螺旋を描くように建ち並び、中心に一本の尖塔に収束している。


 中心の尖塔の中で、1人の男が玉座に座っていた。男には魔族特有の角が生えている。

 黒い長衣を着て瞳は赤く髪の色は黒色で長い髪を後ろで束ねていた。

 その男の容姿は端正な顔であるが表情は乏しく目に虚無感が漂っている様に見える。


 表面上は若く見えるが、その雰囲気は年老いているようにも感じられていた。

 座っている彼の元に黒いローブを着た初老の男がやってくる。


「どうやら……失敗したようだな、グレギギ」

「はっ! 申し訳ございません……」


 グレギギと呼ばれた男は膝をつき頭を下げる。すると魔王が口を開く。


「まぁいい……奴の元に私自ら行けばいいのだ」

「ですが……ギルバレス様自ら行かなくても……生け捕ってもよかったのでは……」

「いや、それでは奴も奴の仲間も死に物狂いで抵抗するだろう……だから私自ら行く必要があるのだ」


 魔王はグレギギにそう言って玉座から立ち上がる。すると、彼の前に数人の人物がやってきて跪き頭を深く下げる。

 1人は魔族の様で頭に角が生えた男である。彼の外見は歴戦の戦士のような雰囲気で武具を身に纏い左頬には傷跡がある。


 凛々しい顔付きからして、ただの戦士には見えない風貌をしていた。もう1人は美しい女性であるが肌が褐色で長い銀髪を後ろで纏め垂らしている。

 彼女の耳は長くエルフの様な見た目だが邪悪なエルフと言われるダークエルフである。

 彼女は微笑んでいるが、その顔には邪悪さが滲み出ていた。


 そして、もう2人は魔族でもエルフでもない正確に言えば魔物である。

 体が大きい方は肌が緑色で鼻が豚のように潰れたような顔をしていて下顎から牙が伸びている。


 彼は人間からオークと言われる魔物であった。ただ、彼の纏う雰囲気は普通のオークの様な下品で粗暴な印象はない。

 むしろ、武人としての威厳と出で立ちを醸し出している。


 その隣の魔物も人型であるが、こちらも肌の色は緑色で顔は醜悪で鼻が長く目は爬虫類を思わせる瞳孔をしている。

 耳は尖っており巷で言われるゴブリンが人ぐらいの大きさになったような感じである。


 彼の目からは普通のゴブリンみたいに知性が足らない狂暴な魔物ではなく知性が感じられる。


 ただし、邪悪で狡猾な魔物であるのには間違いなかった。

 その4人が跪く中、魔王は玉座に座り直し彼らに命令する。


「お前達に命じる……私と一緒にアベルと言う人間を捕らえるため一緒に来るのだ」

「はっ! お任せを……」


 魔族の戦士の男が頭を深く下げながら返事をすると隣のダークエルフも頭を下げる。

 そして2人は立ち上がると頭を下げて言う。


「このゴルガド・ミギスに御任せ下さい」

「ナイア・カッラールにも御任せを……」

「ゲルグに御任せあれ……」

「アガーン、ニモ……」

「うむ、お前達は我が魔王軍の中でも選り抜きの者達だからな……期待しているぞ」


 ゴルガドと名乗った戦士が魔王に向かって深々とお辞儀をするとナイアと呼ばれたダークエルフも頭を下げる。

 その後、オークの戦士と大柄なゴブリンも頭を下げるのである。


「明日、魔王様と一緒に私が用意した魔法陣の中に入って人間達の町近くまで転移して貰う……いいか?」


 グレギギが念を押すように魔王に目配せしながら言うと皆頷く。


「うむ……では、明日に備えて準備をしよう」


 そう言って魔王は玉座から立ち上がり自室へと戻るのであった。




 神殿から戻ってきた僕達は昼食を取るため酒場へと入る。そして、席に座って注文を済ますとガラドが口を開く。


「グレギギとやら……あやつから情報を引き出せる事はできなかったの……」

「そうだね……でも、アベルを狙っているのは間違いなさそうだね」

「うむ!……奴は魔王の使いと言ってたな。魔王ギルバルスとやらは、どのような人物なんだ?」


 ニルスがガラドの危惧に同意するとバルバラは皆に質問する。


「うむ……私が知っているのは高度の魔術、呪術、妖術に長けた魔王と言うぐらいだな」

「へ~、けどアベルだったら却って魔法を使ってくる相手には問題ないんじゃないの?」

「そうじゃの……アベルは、どんな魔法でもたちまち吸収してしまうからの」


 古エルフが簡単に答えハーフリングとドワーフが僕の特徴について話し合う。それに対してバルバラが発言する。


「確かにな……だが、油断は禁物だぞ! 魔王と言うからには魔族の最高権力者だからな……」

「たしか、グレギギという奴は魔王直々にアベルの元に来ると言っていたな……」


 アイラもそう言いながら腕を組んで考えながら呟く。


「なんか、嫌な予感がするんだけどな……」

「儂もそう思う……その内いずれ、アベルに会いに来るじゃろうて」


 僕がアイラに同意するように言うとガラドも頷く。

 皆が魔王が僕の所に来るだろうと言ってくるので警戒心が湧いてくる。

 そして、食事を済ませて酒場を出ようとするとガラドが真面目な顔で言う。


「アベル……暫くは1人で行動しない方がいいじゃろう」

「えっ? 何でです?」


 僕はガラドの言葉に首を傾げる。すると、ニルスも言う。


「そうだね……1人で行動すると魔王に捕まってしまうかもしれないよ」

「うむ! アベルは私が守るから大丈夫だ!」


 バルバラが胸を張って言うと彼女は僕の手を取って安心させようとする。

 そして、皆でそのまま店を出るのであった……。




 翌日になりダルグの町外れに6人の人物が転移してきた。

 全員が異彩を放つ男女である。その内、2人の見た目は魔物であるので人の目につくと厄介である。


 魔王、グレギギ、ゴルガドも魔族であり角が生えている為、目に付きやすい。

 それ故、グレギギがわざと町外れの人気のない場所に転移してきたのである。


「皆……転移してきたな」


 魔王はそう言うと魔法陣が消え去る。そして、彼は周りを見渡して言う。


「では、早速だがアベルの元に行くぞ……」

「魔王様! ちょっとお待ちください!」


 グレギギが慌ててギルバルスに言う。


「何だ? 何か問題があるのか?」

「はい……我等は魔族でありますので角や瞳の色を隠さないと人間に怪しまれます」

「ふむ……確かにそうだな……」

「それと、ナイアはダークエルフで御座いますので人間の町で、その容姿を見られても怪しまれます。ゲルグ、アガーンに至っては魔物ですので言うまでもありますまい……」

「なるほどな……確かにお前の言う通りだ。では変装するとしよう……」


 魔王がそう言って呪文を唱えると頭部の角が消え瞳の色も茶色になり人間に擬態する。

 グレギギは自身とゴルガドの角に呪文を唱えると角を消し瞳の色を黒や茶色にして人間に擬態する。


 ナイアにも唱え褐色の肌が人間と同じ色になり見かけはエルフと変わりない。ただ、髪色は銀髪のままであった。

 そして、あらかじめ用意していた2つの茶色いローブをゲルグ、アガーンに着せる。彼等はフードを深く被り顔を隠す。


「よし! これで準備は整ったな……では、アベルの元に向かうぞ!」


 魔王がそう言って先頭を歩き出すとゴルガド、ナイア、ゲルグ、アガーンが続く。

 その後ろにグレギギが付いてくる。

 そして、彼等はダルグの町に向かって歩き出したのである……。




 茜色になった空のダルグの町に6人の魔王を含めた一行がやって来た。

 その一団を見た町の人々は新たな冒険者達かと思うが、その表情や雰囲気から彼等が只者ではない事に勘づく。

 そして、住民はザワザワと騒ぎ始めるのであった。


「ねぇ……あの人達って……冒険者? それとも旅人?」

「冒険者にしては……何か変じゃないか?」

「先頭を歩く人物は高貴な人物かもしれないな……気品を感じる。その後を、護衛の戦士やエルフと魔法使いがついて来るぞ。フードを被った奴等は怪しい身なりだがな……」


 彼等は変装した魔王一行を眺めながら口々に噂する。

 ただ、歩いているのが変装した魔王達だとは思う者は誰もいなかったのである……。

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