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星と煌めきの空  作者: 香坂
選択と真実の物語
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 木の匂いがほのかにする廊下を進み、辿り着いた先にあったのは本に埋もれた書斎のような場所だった。


 壁をくり抜いた本棚がズラリと並び、それでも仕舞いきれない本の数々が机と床の上に高々と積まれている。そして恐らくベッドだったものの上にも本が散乱しており、本来の用途を成していない様にここでの生活ぶりがまざまざと感じられた。


 それに小屋の中は外から見るよりもずっと広いようだ。さっきの部屋の倍の広さはあるんじゃないだろうか? 本に埋もれていなければもっと広く見えたかもしれない。



 キョロキョロと見渡していると突然レイアルが振り向き、スイのすぐ横を指差す。


「さっさとその衣を脱ぎな。フィーリスでもないのに着てるところを見るのは気色悪いんでね。ほら、そこに洋服掛けがあるだろう?」


 言われて見てみると先端が枝分かれした長い棒が立っていた。しかし、すでにレイアルのものと思われる洋服が掛かっていて掛けられそうな場所が空いてない。

 それは彼女もわかっているはずなのだが指した指は下ろされるはことなく、早くしろと顔が言っている。


 仕方なく羽織っていた上着を脱いで既にある服の上に覆い被せるように掛けると、レイアルは満足そうにフンと鼻を鳴らした。


「まったく、その衣が何なのか知らないのかい? 知ってて着てたなら大分悪趣味だが……その様子だと知らないみたいだね。少し安心したよ。さぁこっちへ来な。これからのことについて話そうじゃないか」



 手招きされて恐る恐る近づくと、黒い石を渡される。ズシリとした重みが手のひらに収まった。


「その魔石に神力を込めてみな。いわゆる浄化ってやつだ。お前さんの神力の強さがどれほどのものか簡易的にだが確認させてもらうよ」


「魔石……? これが魔石なんですか?」


「あぁ、魔石も初めてかい。言い換えるなら魔物の核だね。生き物の体内で魔力の純度が高まるとできる核石、それが魔石さ。魔石を持った生き物は魔物となり魔毒を発生させ、フィーリスが浄化する。この世の理だよ」


「魔物ってそういうふうに生まれるんですね……」


 知らなかった。少し前まで魔物を魔物と認知してなかったから当たり前と言えば当たり前だが、聞くことすべてが知らないことばかりだ。


 渡された魔石は不透明なのか中まで真っ黒なのか見分けがつかない代物だった。天井のお洒落な照明にかざしてみても何も見えない。



「ほらさっさとしな」


 レイアルに急かされ、スイは魔石を握りしめた。浄化なんてしたことないけど心の中で祈りながら神力を込めてみる。


 すると手のひらの感覚が柔らかくなり、黒かった石がみるみるうちに白く変化した。


「うわっ」


 黒くて硬い石だったものが白くて柔らかい砂に変わったことで、形を成さなくなったそれは手のひらからどんどんこぼれ落ちていく。慌ててもう片方の手で押さえたが間に合わずに床にある程度落ちてしまった。


 かき集めようとして屈みかけるとレイアルに静止される。


「そんな細かいもの手で拾おうたって無理だよ。ちょうどいいから見てな。これが魔法だよ」


 パチンと指を鳴らすと床上に小さな旋風が生じる。スイ達にとってはそよ風程度の強さだが、落ちた砂をかき集めながら舞い上がり、机の上にまで来ると風が止んだ。


 少量の砂が見事にまとまっているのを見て魔法のすごさに目を丸くしていると、レイアルが愉快そうに笑い声を立てる。


「そんなに感動されるとやりがいがあるね。だけど神力を使えるお前さんにも似たようなことができるだろう? ただ使う力が違うってだけさ。魔力から魔法への変換に多少コツはいるけどね。それにしても随分と強力な神力を持っているみたいだね。石が砂になっちまったよ」


 レイアルは砂をひとつまみすると呆れたようにスイを見た。

 だがそんなことを言われてもスイには力の強弱などわからない。シグリにいろいろ調べてもらった時には何も言われなかったのだ。


 自分じゃよくわからないと正直に答えると、レイアルはため息をつき机に軽く腰掛けた。


「そういえば元々は人間だったとか言ってたね? 本当に何も知らないくせに自称ラオザームだとか……もしかしなくともラオザームのこともよくわかってないんじゃないかい?」


 疑念の視線が突き刺さる。


「その様子だとどうせフィーリス共にラオザームだと言われてそれを鵜呑みにしたってところだろう?」


 その通り過ぎてぐうの音も出ない。


「まったく、無知は罪なりとはよく言ったものだね。いいさ、教えてやるよ。だがその前にあいつらから何を言われたか話してもらうよ。ラオザームかどうか調べる手立てがないのは向こうも同じはずだからね。それなのにラオザームだと言われたんだろう?」


「初めにラオザームだと言われたのはプネウマです。ルトアとカルラ……あ、一緒にいてくれてたフィーリスなんですが二人はラオザームについて何も知らなくて、フィーリスの庁舎にいた長官達も詳しくは知らないって話でした」


 続きを話そうとしたところでレイアルが勢いよく手を突き出してきた。



「ちょっとお待ち。プネウマに会ったのかい? それにカルトアと一緒にいたってことは……助けられたフィーリスがあいつらってことになるね」


 カルトア? もしかしてカルラとルトアのことだろうか? というか二人とレイアルさんは知り合いだったのか。


「はい、プネウマに会いました。無理やり連れて行かれたって感じでしたが……そういえば神力を使えるようになったのはプネウマに会ってからだったと思います」


 それまで自分の中にある力の存在に気づきもしなかったのだ。今思えばあの時———体が光り始めた時、引き金となるようなことをされたのかもしれない。

 何をされたのかさっぱりわからなかったが、そう考えると辻褄が合う。


 その可能性をレイアルに伝えると、彼女もまた納得したように頷いた。


「なるほどね。話が少しずつ見えてきたよ。スイ、お前さんがラオザームだとプネウマが言うのならそれはほぼ間違いないだろうね。そしてそのラオザームについてだけど」


「先生ぇー! ご飯出来ましたぁー!」


 レイアルの言葉を明るく遮ったのは扉の向こうから呼ぶハスナの声だった。

 重要な話をしていたからか、レイアルは苦虫を噛み潰したような顔になり軽く首を振る。


「……飯の用意ができたみたいだからこの話の続きは食べてからだよ」


 ため息混じりにそう言う彼女は、ほら行くよとスイの背中を叩き扉の向こうで待っているハスナの元へと向かった。




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