ACT 8.ランエボ
日曜の昼。
京子は啓太郎が運転する85で冬名峠に来ていた。
制限速度で登っていると、バックミラーに写る猛スピードで近付いてくる車に京子が気付いた。
「啓太郎、後ろから来てるよ。行かせてあげて」
「うん」
85を脇に寄せる啓太郎。
追い抜いていく車はランエボだった。
(不思議な動きをする車だ。4WDか?)
やがて85は頂上にある冬名湖の駐車場に辿り着いた。
そこには先客がいた。
先程のランエボ。車種はエボフォーだ。
ランエボから二人の男が出てくる。
二人が85へと近付いてきた。
「ここいらで一番速い走り屋を知らないか?」
ランエボの運転手が啓太郎に訊ねた。
「もしかして冬名の86に挑戦するつもりですか?」
笑って涙目になる運転手。
「86だ? この時代に86なんてあり得ねえよ! 86なんてアウトオブ眼中! 頼まれたってバトルなんかしねえよ!」
邪魔したな──と、ランエボに乗って立ち去る二人。
「何なんだよあいつら!」
怒りを露にする啓太郎。
「気にしなくていいよ」
「あんなこと言われて京子は悔しくないのかよ?」
「行くか」
85を駆る啓太郎。
「なあ、京子」
「なに?」
「もしあいつとやることになったら、絶対勝ってくれよな」
「挑まれたらね」
85は伊丹家の前に止まる。
京子が車を降りる。
「じゃ、また明日」
京子は家に入る。
「ただいま」
「おかえり」
階段を上ろうとする京子。
「京子、今晩、冬名でランエボをちぎってこい」
「お父さん、それどう──」
「さっき冬名スタースピードとかいうチームのやつから電話があってな。なんでもおまえが黒のFDを負かしたんで、ランエボのチームがバトルをしたいってな」
「……わかった」
その晩、京子は86で冬名峠にやって来た。
外に出る京子。
「おまえ、昼間の……」
「伊丹 京子」
「芹沢 清一だ。俺が走る」
「清一、プランCで行け。こいつはできる」
「86相手にプランCだと? 本気か、昭一」
「ああ。こいつにはただならぬ何かを感じる。ヘマすんじゃねえぞ」
二人はそれぞれ自分の車に乗ると位置に着いた。
カウントダウンが始まり、ゼロと共に発車する。
86が先導した。
レースは難なく序盤を終え、中盤に差し掛かると、ランエボを駆る清一はイライラし始めてきていた。
(何でこんな遅いやつの後ろをチンタラ走らなきゃなんねえんだ!)
ランエボがスピードを上げて前に出た。
距離の長い直線セクション。
離されていく86。
(へっ! 前に出て正解だったぜ。86なんかにゃ負けねえってんだ)
やがてコーナーに差し掛かる。
コーナーを三つクリアしたランエボ。
清一はバックミラーを見た。
(追い付ける訳が……!?)
直線セクションで離したはずの86が、ランエボの後ろに張り付いていた。
(そんなバカな! 追い付けるはずが!……そうか。俺のコーナリングが遅いってことか。上等じゃねえか)
ランエボが限界ギリギリの速度でコーナーをクリアしていく。
続いて86も溝落としでランエボに食い付く。
(クソ! 離れるどころか張り付いてやがる!)
やがてレースは終盤に差し掛かる。
最後の側溝のコーナーで、86がランエボのバックミラーから消えた。
(ハチロクが消えた?)
その時、86がランエボの真横に並ぶ。
次のコーナーは86がインを占める。
86がコーナーでランエボを完全に抜いてゴールをした。