ACT 6.VS 86
放課後、京子は封筒を開けた。
放課後に校舎裏で待ってます。中の紙にそう書かれていた。
京子は校舎裏へ向かった。
そこには、隣のクラスの土井 浩太がいた。
「これはあなたかしら?」
「うん。俺と付き合ってくれない?」
「無理。好きな人いる」
「そうか」
土井は去っていった。
京子は教室に戻り、帰りの支度をする。
「京子、どこ行ってたんだ?」
「校舎裏。土井くんに告白された」
「マジかよ。で、何て答えたんだ?」
「好きな人いるから無理って」
「好きな人いるの?」
「うん」
「……そうか」
ところで──と、続ける啓太郎。「今夜行くだろ?」
「どこへ?」
「どこへって、峠に決まってるだろ? お前んちのハチロク出してくれよ」
「いいけど、攻めないわよ」
「わかってるって」
学校を出て帰路に就く二人。
「じゃ、また後でな」
「うん」
京子は啓太郎と別れて帰宅した。
「お父さん、ただいま」
「おう、お帰り」
「今夜、車使うわね」
「うん、わかった」
京子は二階へ上がって部屋に入った。
カバンを置き、椅子に腰掛ける。
パソコンを立ち上げ、メールの確認をすると、一通の着信があった。
そのメールを開く。
今夜、私とバトルして下さい。冬名で待ってます。
メッセージはホームページに設置したメールフォームからのものだった。
差出人不明。
京子はメールを閉じ、パソコンを終了した。
その夜、京子は啓太郎を拾って冬名峠の山頂にやってきた。
先客がいた。
先客がこちらへとやってくる。
「あなたが伊丹さんね?」
「はい……」
「私、黒田 茜。メールは届いてますか?」
「ええ、まあ」
声をかけてきたのは若い女の子だった。京子たちと同い年くらいだろう。
「早速だけど、バトルして下さい」
「え? でも今日は……。連れもいるし」
「京子、折角だし、バトルしてやれよ」
「啓太郎が言うんなら……」
京子はトレノを位置につける。
相手の車は同じ86だった。違うのはフロント部分。カローラレビンという車種であることだ。
啓太郎がカウントを行い、両者がスタートする。
先行は茜のレビンだ。
二台の86が最初のコーナーを鮮やかなドリフトでクリアする。
次のコーナーも難なくクリア。
そうしていく内に、五連ヘアピンに差し掛かる。
(あれやるか)
京子のトレノがオーバースピードでコーナーに突入する。
(オーバースピードよ!)
トレノはタイヤを側溝に引っ掛けて曲がっていく。
(何が起きてるの!?)
驚き戸惑う茜をよそに、トレノはあっという間にレビンを引き離していく。
(速過ぎる……)
レビンは減速して停車。
「……楽しみがまた一つ増えたわ」
レビンが再び走り出す。
麓でトレノが待っていた。
「速いのね」
茜に言われるが、「そんなことないわよ」と、京子は答えた。