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巡り巡る 〜漢字の意味が世界を変える世界〜  作者: 暇な鍼灸師


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第64章 英雄たちの過労と新たな歯車



■洋館・応接室



「……本当に、休んでいいんですか?」


髙橋俊明が、信じられないものを見る目で東義昭を見つめていた。隣にいる鈴木浩三も、泥だらけの顔で呆然としている。


「ああ。君たちは働きすぎた」


東はコーヒーを二人の前に置いた。


「明日から二日間、完全オフとする。泥のように眠るもよし、家族サービスをするもよしだ」


二人の顔に、後光が差したような歓喜の色が浮かぶ。


だが、東はすぐに釘を刺した。


「ただし……休み明けには、重要な仕事が待っている」


東は、サラが集めた「新人覚醒者リスト」をテーブルに叩きつけた。


「今回スカウトした、空間系と植物系の新人たち……彼らへの『講習会』を開いてもらう。

彼らが使い物になるかどうかは、君たちの教育次第だ」


東は二人の目を覗き込んだ。


「分かるかね?

彼らが一人前の労働者として育てば、君たちの負担は十分の一になる。

逆に、彼らが育たなければ……君たちは一生、今のデスマーチを続けることになる」


「「……ッ!!」」


それは、天国への鍵か、地獄への片道切符か。


鈴木と髙橋は顔を見合わせ、悲壮な覚悟で頷いた。


「や、やります! 絶対に育て上げます!」


「俺のノウハウ、全部叩き込んでやりますよ!」


「期待しているぞ」



■翌日・それぞれの戦い



鈴木は、山小屋には帰らず拠点(洋館)に残っていた。


食堂の隅で、山盛りのカツ丼をかき込みながら、ノートに猛烈な勢いでペンを走らせている。


「えーと、ここで土壌をケチると野菜が枯れる……と。

あと、肥料の配合は感覚じゃなくて数値化しねぇと素人には分からねぇか……」


(やるしかねぇ。この講習会は、俺の『睡眠時間』がかかった聖戦だ……!)


一方、髙橋は能力を使って一瞬で自宅へ帰還していた。


リビングでは娘がテレビを見て笑っている。妻が夕食を作っている音。


その平和なBGMを背に、彼はダイニングテーブルでパソコンに向かっていた。


「転移酔いの防ぎ方……座標ズレのリスク管理……。

よし、マニュアル化だ。俺だけが苦しむのはもう終わりだ……!」


彼らにとって、この二連休は休息ではない。


未来の自由を勝ち取るための、作戦準備期間だった。



■洋館・深夜



東が執務室で書類に目を通していた時だった。


懐の専用端末と、別室にいた田治見薫の端末が、同時に不快なアラート音を鳴り響かせた。


『BEEP! BEEP! WARNING!』


「……ッ!」


東は即座に立ち上がり、部屋を飛び出した。


廊下で、白衣姿の田治見と鉢合わせる。彼女の手には、飲みかけのウィスキーではなく、緊急医療キットが握られていた。


「東! 『角部屋』だ!」

「分かっている!」


二人は足音を忍ばせつつ、しかし全速力で洋館の最奥にある隔離病棟へと向かった。


そこは、一般の職員や六名たちには立ち入りを禁じている、開かずの扉。


ガチャリ、バタン。


二人が部屋に入り、素早く内鍵をかけた。


そこには、一人の男がベッドに横たわっていた。


金剛寺の元手下、氷川。


かつて幸田の両親を『氷』の能力で惨殺し音無を追い詰めるが音無のアッパーカットで敗北。その後、グレイに実験材料にされたが対策局が回収。数日前田治見の手術によって能力を司る一部を切除された男だ。


「……おい! 氷川! 聞こえるか!」


田治見が駆け寄り、ペンライトで瞳孔を確認する。反応がない。


モニターの心拍数は乱高下し、血圧が危険水準まで低下している。呼吸も停止していた。


「クソッ、バイタルが崩壊してやがる……!

昨日の定期検診じゃ正常だったんだぞ!?」


「原因は!?」

「今診る!」


田治見は両手を広げ、能力を発動した。


「……『田』・展開」


ブォン。


不可視の手術室テリトリーが部屋全体を覆う。

この領域内において、彼女は絶対的な執刀医となる。


「……『見』!」


田治見の目が、レントゲンやMRIのように氷川の体内を透過し、細胞レベルでスキャンしていく。


心臓、肺、血管、神経……。


「……な、……んでだ?」


田治見の額から、脂汗が流れ落ちた。


「どこも……悪くねぇ」


「何?」


「臓器も血管も正常だ! 脳の血流だって詰まってねぇ!

なのに……『生命力』だけが、底の抜けたバケツみたいに漏れ出してやがる!」


田治見は舌打ちをし、強制的に心臓を動かすよう『治』で命令を送る。


辛うじて脈は戻ったが、それは田治見が能力で無理やり生かしているに過ぎない。


「……クソッ、分からねぇ! 修復しようにも、壊れてる場所が見つからねぇんだよ!」


田治見はイラつき、壁を蹴り飛ばした。


彼女の能力をもってしても、原因が特定できない。それは未知の領域の異常だった。


東は、青ざめた氷川の顔を見下ろし、冷徹に計算を始めた。


「……手術をしたのは2ヶ月前。六名の歓迎会の夜だったな」


「ああ。脳の海馬と前頭葉を弄って、能力を発動させなくした。

……ギリギリ一般人として生活できるレベルまで回復していた」


「だが、今になって突然の崩壊……」


東の脳裏に、最悪の可能性がよぎる。


これは、物理的な手術ミスではない。


苗字という先人達が与えた因子を、我々が無理やり剥がそうとした反動ではないか。


もしそうだとすれば――。


「……まずいな」


東が低く呟いた。


「これが失敗すれば……六名の父親(清原)を解放する計画も、破綻する」


六名の悲願である「父を普通の人間へ戻す」というプロセス。


その実験台である氷川がこのまま死亡すれば、六名が生きたままお父さんを元に戻すことはできないと告げなければならない。


それは、あの不安定な少年の精神を崩壊させる引き金になりかねない。


「田治見。……何とか持たせろ」


「当たり前だ!……だが最悪の事態も考えて宗方をよこしてくれ。氷川の脳を能力が使える状態にして延命を図る!」


田治見はウィスキーを煽る余裕もなく、徹夜の延命措置に入った。


平和に見える洋館の片隅で、世界の命運を左右する「実験」の雲行きが、急速に怪しくなっていた。


延命処置と氷川の脳の改善を施して宗方を部屋の中に入れて氷川の部屋から東と田治見が出てくる。


二人は廊下を歩きながら今後の様々な可能性を考えてどうするべきか話し合っていた。


その廊下の死角に小さな影があった。


(…………そっかぁ……)



■洋館・作戦指令室(午後8時)



高級な革張りのソファに深々と体を預け、東義昭は琥珀色の液体が入ったグラスを照明にかざした。


「……順調だな」


東が氷川の不安を隠しながら満足げに呟くと、対面の長宗我部政宗が葉巻の煙を吐きながら頷いた。


「ああ。とりあえずはな。

『安価な基礎食料』の大量供給によって、エンゲル係数が下がり、浮いた金が消費に回っている。景気は鰻登りだ。

一方で、全農連の残党や既存農家は、我々の指導のもと『高級ブランド化』に舵を切った。

富裕層や海外への輸出が大当たりして、以前より儲かっている農家も多い」


東はグラスを傾けた。


「誰も不幸になっていない。

私の望んだ『Win-Win』のシステムが完成しつつある」


「国会の方も、まるで図書館のように静かだ」


長宗我部がニヤリと笑う。


「西園寺と轟という神輿を失った反対派は、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。

新法案も、一切の審議拒否なくスムーズに通っている。風通しが良すぎて風邪を引きそうだ」


「現場も落ち着いていますぜ」


K-Securityの制服を崩して着た勅使河原州宏が、報告書をテーブルに置いた。


「収容した覚醒者犯罪者どもですが、清原さんたちの『浄化結界』のおかげで、施設内じゃただの一般人です。

暴れる気力もなくして、大人しく刑務作業(軽作業)に従事してますよ」


「トラブルはないのですか?」


弁護士の高柳慎吾が尋ねると、勅使河原は苦笑した。


「ま、たまにイキがった新入りが騒ぎますがね。

そういう時は、黒田や横手が飛んでいって『指導』してます。

……あいつら、俺には頭が上がりませんが、新入りを締める時だけは水を得た魚みてぇに生き生きしてやがる」


「……はは。まあ、彼らが役に立っているなら何よりです」


高柳は心底ホッとしたように胸を撫で下ろした。


勅使河原という「話の通じるトップ」がいるおかげで、現場の法務リスクが劇的に下がっているのだ。


「ああ……平和だ」


東は天井を見上げた。


「退屈で、静かで、金とワインの味が美味い……理想的な日本になりつつある」


四人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。


それは、数々の修羅場を潜り抜けてきた者たちだけが共有できる、余裕と安堵の笑いだった。


コンコン。


その時、控えめなノック音が響いた。


「……失礼します」


ドアが開き、疲れ切った顔の鈴木浩三が入ってきた。


手には、少しよれたクリアファイルが握られている。


「お、お揃いで。……お邪魔でしたか?」


「いや、構わんよ鈴木君。どうした?」


東が手招きする。


鈴木は恐縮しながら部屋に入り、頭をかいた。


「あー、その……明日、新人の講習会があるじゃないですか。

俺、人前で授業なんてしたことねぇし、資料を作ってみたんですが……これで合ってるのか不安でして。

知識のある皆さんに、一度見てもらえねぇかなと」


鈴木はファイルを差し出した。


そこには、彼なりに必死にまとめた『植物操作のコツ』や『現場のルール』が手書きでびっしりと書かれていた。


「なるほど。殊勝な心がけだ」


東は頷き、隣の高柳に視線を送った。


「高柳。適任は君だ。見てやってくれないか」


「ええ、お安い御用です」


高柳は眼鏡の位置を直し、鈴木からファイルを受け取った。


「鈴木さんが現場で培ったノウハウですからね。内容は間違いないでしょうが……構成や法的な表現をチェックしましょう」


高柳は赤ペンを取り出し、資料に目を走らせた。


サッ、サッ、サッ。


静かな部屋に、ペンの走る音だけが響く。


最初は余裕の表情だった鈴木だが、次第に顔が青ざめていく。


高柳の手が止まらないのだ。


「……鈴木さん。ここの『気合で土を感じろ』という表現は、新人には伝わりません。具体的な数値か手順に置き換えてください」


「は、はい……」


「あと、この『肥料の配合比率』ですが、劇物取扱法に抵触する可能性があります。免許保持者の立ち会いが必要と明記を」


「あ、はい……」


「それから、休憩時間の規定が労働基準法ギリギリです。もう少し余裕を持たせないと、また私が労基署に呼び出されます」


「す、すみません……」


赤ペンで真っ赤になっていく原稿。


鈴木はどんどん小さくなり、肩を落とした。


(……ダメだ。やっぱ俺みたいな猟師上がりのバカには、教官なんて無理だったんだ……。

こんな穴だらけの資料じゃ、新人に笑われる……)


「……ふぅ」


高柳がペンを置き、眼鏡を外した。


鈴木はビクリと身を縮こまらせた。


「……書き直し、ですかね?

すみません、俺……やっぱりこういうの向いてなくて……」


「いいえ」


高柳は、意外にも穏やかな微笑みを浮かべていた。


「……素晴らしいですよ、鈴木さん」


「え?」


高柳は、真っ赤になった資料を愛おしそうに叩いた。


「確かに、表現の稚拙さや法的配慮の不足はあります。

ですが……『日本語として成立している』だけで、私にとっては感動的なレベルです」


高柳の目は、遠い場所を見ていた。


「黒田さんや横手さんの始末書を見たことがありますか?

『反省』の欄に、『次はバレないように埋めます』と書いてくるんですよ?

それに比べれば……鈴木さんの資料は、修正すれば十分に使える『一級品』です」


「は、はぁ……」


鈴木はポカンとした。褒められているのか、比較対象が低すぎるのか分からない。


「自信を持ってください。

骨子は完璧です。あとは私が、法的かつ論理的な文章に整えるだけですから」


高柳は時計を確認した。


「あと2時間。

2時間あれば、添削と清書まで完了させてみせます」


高柳の言葉に、鈴木の顔にパァッと色が戻った。


「ほ、本当ですか!?

いやぁ……ありがとうございます!

やっぱり高柳さんに頼んで良かった……! 俺一人じゃ朝までかかっても無理でしたよ!」


「ははは、任せてください。

これでも私は、弁護士……兼、K-Securityの家庭教師ですから」


高柳は楽しそうに再びペンを走らせ始めた。


その様子を見て、東と勅使河原も顔を見合わせて微笑んだ。


「……さて。鈴木君の講習会が成功すれば、我々の休みも増える」


東は残ったワインを飲み干した。


「明日は頼むぞ、鈴木教官」


「へい! 任せてください!」


鈴木は力強く敬礼した。


平和な夜は更けていく。


赤ペンで修正された資料は、明日の日本のインフラを支える教科書へと生まれ変わろうとしていた。



■対策局・食堂(午後0時半)



「ん〜っ! 今日のハンバーグも最高だな幸田ちゃん!」


谷が、デミグラスソースのかかったハンバーグを口に運び、幸せそうに頬を緩ませた。


同じテーブルを囲んでいるのは、音無賢人、白川真純、アレックス、そしてエプロン姿の幸田美咲だ。


「ふふ、ありがとう谷さん。今日は隠し味に味噌を入れてみたの」


幸田が嬉しそうに微笑む。


「…幸田の料理は、元々美味かったが最近の上達具合はすごいな」


アレックスが豪快に白米をかき込む。


そんな賑やかな食卓で、音無も静かにコーヒーを啜っていた。その表情は、以前のような氷のような冷たさはなく、どこか穏やかだ。


「……随分と丸くなりましたね、音無君も」


白川がしみじみと言うと、谷が身を乗り出した。


「そうだよな…

音無は最初本当に暗くてあまり喋らなかったけど、段々と喋る様になってきたよな?

良い事だと思うぞ?」


「……人聞きが悪いな」


音無は苦笑しながら、カップを置いた。


「俺はただ、無駄口を叩かなかっただけだ。……それに、あの頃は余裕がなかった」


「…変わったな音無」


アレックスが音無の背中をバンと叩いた。


「最初は俺のトレーニングにも『殺す気か』って目で睨んできたけど、最近じゃサッカーにも混ざるようになった。

……良い変化だ」


「……まあ、環境のおかげかな」


音無は食堂を見渡した。


鈴木が泥のように眠り、黒田たちが談笑している。


かつては殺伐としていたこの場所が、今は奇妙な「家」のように感じられた。


「それにしても、最近は暇になりましたねぇ」


幸田がお茶をすすりながら言った。


「K-Securityの出動アラート、今週は、5回くらいしか鳴ってませんよ」


「平和になった証拠ですよ」


白川が頷く。


「東さんの政策と、勅使河原さんの睨みが効いてるんです。

犯罪者は減り、覚醒者は労働力として社会に溶け込み始めた。

……もう、私たちが命懸けで戦う必要はなくなるのかもしれませんね」


「へへっ、失業しちゃうかもな」


谷が笑う。


「せっかく覚えた音だけで場所を探る盲目のスナイパーも出番なしか…まぁ平和が一番だからな」


「…そうですね」


音無も小さく笑った。


五人の笑い声が、柔らかな日差しの中に溶けていく。


地獄のような日々を乗り越えた戦友たちの、ささやかな安息の時間だった。



■六名の個室



一方、その頃。


陽の当たる窓辺のソファーで、三人の男たちが静かに過ごしていた。


「……うん。今日もいい天気だ」


清原が、読みかけの文庫本を置いて伸びをした。


その顔には、かつて妻を失った絶望も、息子が怪物になった苦悩もない。


ただの穏やかな中年男性の表情だ。


「そうだね、清原」


六名駿太は、ベッドに腰掛けて微笑んだ。


「外も静かだよ。悪い人たちは、もういなくなったみたい」


「そうかそうか。それは重畳だ」


清原は優しく笑い、淹れたての茶を啜った。


「ここでの暮らしは快適だが、やっぱり平和が一番だよ。

六名様も、宗方も、いつもありがとう」


「……なんですか急に?」


宗方が、無機質な声で、首を傾げる。


六名は、そんな父の横顔をじっと見つめていた。


その瞳の奥には、年相応の少年の光ではなく、全てを悟った老人のような静けさが宿っていた。


(……もう、大丈夫だ)


六名は心の中で呟いた。


東義昭が作ったシステムは完璧だ。


街から「掃除」すべきゴミは消え、覚醒者は管理され、誰も不幸にならない世界が出来上がりつつある。


(凶悪な覚醒犯罪者も減り労働者として覚醒者が社会に溶け込んでいる今「根源」を破壊する必要もなくなった…。だが先日のアズマックスと田治見先生のあの話から察すると氷川を使った能力の解除の実験は失敗…そしたら僕の最後の計画を…)


六名の最後の計画。


それは、「自らの死」による父の解放だ。


彼が死ねば、父にかけている「清原という別人格」の名付けも解け、彼は本来の父に戻るはずだ。


そうすれば、父はただの被害者として日常に帰れる。


(……でも、その時が問題だ)


六名は膝の上で拳を握った。


(僕が死んで、能力が解けた瞬間……お父さんは混乱する)


(急に知らない屋敷の中で目覚めて、記憶が戻って……。

そこにあのお母さんが殺された家の記憶がフラッシュバックしたら、お父さんの心が壊れちゃうかもしれない)


だから、あの家には戻せない。


新しい場所で、安全な場所で何不自由なく新しい人生を始めてもらう必要がある。


(そしたらココしかないよね……でも誰かに、説明してもらわなきゃ)


六名は頭の中で、信頼できる大人たちを思い浮かべた。


アズマックス?


――ううん。彼は合理的すぎる。


「貴方の息子は、貴方のために死にました。さあサインを」なんて淡々と言われたら、お父さんはショックを受けるかもしれない。


勅使河原のおじいちゃん?


――見た目が怖すぎるし、泣き出しちゃって話にならないかも。


幸田さん?


――優しすぎて、真実を話せないかもしれない。


六名は、少し考えて、一つの結論に達した。


(……白川さんがいいかな)


真面目で、誠実で、少し不器用だけど、人の痛みが分かる人。


彼女ならきっと、父に優しく伝えてくれるはずだ。


『息子さんは、立派でしたよ』

『貴方を守るために、笑顔で旅立ちました』

……と。


「……六名様? どうかしましたか?難しい顔をして…」


清原の声に、六名はハッと我に返った。


目の前では、清原が心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「ううん、なんでもないよ」


六名は、最高の笑顔を作った。


今はこの笑顔で、清原を安心させなければならない。


たとえそれが、別れの準備だとしても。


「……ただ、これからのことを考えてただけ。

みんなが幸せになれる、ハッピーエンドの方法をね」


「はは、六名様は優しいですねぇ」


清原が六名に優しい言葉をかける。


その温かさを、六名は魂に刻み込んだ。


あと少し。あと少しだけこの温もりを感じたら……僕は消えよう。


宗方だけが、六名の悲しい決意を悟り、悲痛な面持ちで沈黙を守っていた。

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