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空想配達便  作者: 月蜜慈雨
空想配達便

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15/16

大会で優勝したい話





 こんな都市伝説がある。もし検索サイトに、空想配達便と検索したら、強く願った人にだけそのサイトが現れ、空想を配達してくれる。



 この全国大会で優勝したい。そしたら、まだこの世界にいられる気がするから。

 毎日練習している。

 曲は、ドヴォルザークの新世界。ファーストヴァイオリンの一番端っこで必死に弾いている。

 指揮者の棒がまるでつまようじのようだ。

 それを横目で追いつつ、激しく指を動かす。



 今度出る大会で優勝すれば、奏者に箔が付く。実績が出来る。それは私に、まだヴァイオリンを続けていいという証明に見えた。

 今日も私が、誰かがミスをし、監督が激を飛ばし、皆で疲弊した集中力の中、練習時間が終了した。



 いつも帰りの電車の中、思う。もしも優勝出来なかったらどうしよう、と。

 そんなとき、このサイトの存在を知った。

 悲観になりすぎても良くないと思って、怪しいと理解していながらも、名前と配達日を入力した。

 ほんの戯れだった。そんなことをしても、優勝なんて出来ないのは分かっているのに。

 それでも希望めいたものが欲しかった。



 その時は練習中の訪れた。

 ピンポーン、チャイムが鳴る。

 ヴァイオリンをケースに置いて、おもむろに玄関のドアを開ける。



「はい」



 ドアを開けると、そこには全身黒装束の怪しい人が小さな小箱を抱えて立っていた。

 異様だった。空想配達便を頼んだことを後悔した。

 怪しい人は割と普通の声で、夕凪ひなさんですか、と本人確認してきた。



「間違いないです…」



 少し指先が震えた。

 怪しい人は、小さな小箱を私に差し出して、こう言った。



「小箱を開けると、空想が出てきます。人によりますが、空想はおよそ30分ほどです」



 そう言って怪しい人は去っていた。

 手の中の小箱が、やけに重く感じた。



 一時は無視しようとした。でも、無視すればするほど気になって、結局練習を中断して小箱を開けることにした。

 何があってもいいように、スマホを片手に、私は小箱を開けた。



 そこは、大会の会場だった。

 照明が強く光って、私たちは発光しているかように熱を持っていた。

 一心不乱に演奏していた。

 指揮者が振る棒の先を追う。指が激しく動く。弾く腕は脈動しているようだ。

 


 誰もかれもが、楽しくて仕方がなかった。



 やがて最後の一音が終わり、万雷の拍手が響き渡る。

 高揚が身体を突き抜けた。

 そのころにはもう、優勝とかそんなことは考えていなかった。

 空想はそこで終わった。



 戻ると、そこは現実だった。

 急いで練習を再開する。

 あの熱を追いたくて。

 


 誰の為ではない。私の為に。

 今日も明日も、弾き続けたい。

 そう祈った。



 明日もまた、頑張れそうだ。







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― 新着の感想 ―
「私たちは発光しているかのように熱を持っていた」という言葉が印象的です。その熱を追い求めて、自分がめいっぱい楽しく弾けたとき、結果として優勝もついてくるのかも知れないですね。 心に響くエピソードを読…
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