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復讐の始まり、または終わり  作者: 月食ぱんな
第八章 別れと再会(十九歳)
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070 ルーカスのいない日々

毎日追いかけて頂き、ありがとうございます。

更新の励みになっております。

 フェアリーテイル魔法学校を退学し、山積みになる問題を一つずつ解決していく。そんな日々を繰り返しているうちに、気付けば三年ほど経っていた。


 十九歳になった私は、王族派あらため、解放軍と名乗るモリアティーニ侯と、父の下で兵士として働いている。


 勿論、戦闘職として全線で。


 そのお陰で、ローミュラー王国内で、私に賭けられた懸賞金はうなぎ登り。グールにとって、最も恨み、恐れる者として名を馳せているという状況だ。


 今思えば三年前。私はフェアリーテイル魔法学校を卒業した後の進路をどうするか漠然(ばくぜん)と悩んでいたように思う。


 あの頃の私は今よりずっと世間知らずで、周囲の思惑通りになるのも嫌だった。


 何よりローミュラー王国が抱える問題を他人事だと据えており、幼い頃より抱えていた、自分の復讐心を満たす事を、将来の目標としていたはずだった。


 けれど、私が王立学校で起こした事件をきっかけに、グールに都合の良い法案や政策が、議会で次々と承認されてしまった。


 その中でも特に問題視されているのは、グール達による人間狩りが合法化されてしまったことだ。


 食料として、そして一介の使い捨ての兵士として人間はグールに襲われるようになった。


 次第に、グールになれば今よりもっと楽に生活出来ると吹聴(ふいちょう)され、自らグール化を望む人間の声もあがりはじめているという有様。


 グールと人間が敵対し、真っ二つの勢力に分断された現在。ローミュラー王国はもはや、平和な国ではなくなっている。


 結局のところ、私が解放軍に参加しているのは、そうせざるを得ないから。


 私がギルバートを殺害し、グールが一つにまとまってしまったことへの後ろめたさ。そして、ランドルフを倒すためには、同じ目的を持つ解放軍に所属していた方が、都合が良いから。


 そんな理由で現在私は、解放軍に所属する兵士として生きている。



 ***



 グールに住まいを奪われ、王都から逃げ出した人間達は、解放軍の本拠地となる、モリアティーニ侯爵領を中心とする、西側の地域に続々と避難し、新たな生活拠点を築き始めている。


 そんな中、私が住むのは王都から少し下った場所にある、解放軍の本拠地となる要塞だ。


 ローミュラー王国各地に点在する魔法転移装置がある場所の一つで、王国内の人間達がグールから逃げる為に。そしてクリスタルのある、白の園へと転移出来る場所として、とても大事な拠点となっている。


 王都へ向かう為に渡る、大きな川を見下ろす岩山を、削り作られた要塞は、自然そのものに溶け込んでいるかのような、風貌(ふうぼう)をしている。

 玄関口となる正門は重厚な鉄製で、その上には、我ら解放軍の紋章の入る、ブルーの旗が凛々(りり)しく風にたなびいているのが印象的だ。


 そんな要塞の中庭では、かつてローミュラー王国に属していた騎士団の面々、それから王立学校の騎士科に所属していた、人間の生徒達が中心となり、日々鍛錬を積んでいる。


 王城を彼方(かなた)に据えるその場所との間には、グール達側の、魔法転移装置が置かれた要塞が存在し、常に緊迫した状況が続いている。


 つまり、私が居を構える要塞は、グール対人間の間で繰り広げられる戦争の、最前線といえる場所。とは言え、一時に比べると、西側への移住希望者の数も落ち着き、グール側とは、膠着(こうちゃく)状態が続いているといった感じだ。


 そんな要塞の中、現在私は、自らに与えられた部屋にいた。


 むき出しの木の床の上に置かれている大きな家具は、ベッドにクローゼットに小さな机だけ。決して豪華とは言い難い部屋ではあるが、そもそも寝に帰るだけ。そんな私にとってみれば、個室を与えられている事の方が重要で、十分満足する日々を送っている。


「いったーーい」


 私は目元に激痛が走り叫ぶ。


化膿(かのう)したら困りますので」

「大袈裟なのよ」


 ベッドに腰を下ろす私の顔めがけ、ピンセットで挟んだアルコール綿を、ペタペタと突く相棒を睨みつける。


「ルシア様は女の子なのですよ。怪我をするなら見えない所がよろしいかと」

「あら、ドラゴ大佐。女の子だからという考えは時代錯誤(さくご)も甚だしいわ」


 私は肩に乗り、ミニチュアサイズの軍服に身を包む、ドラゴ大佐の背中をつまむ。


「では言い方を変えます。ロドニール少佐がまた悲しい顔をしますので、お控え下さい」

「ロドニールはもっと関係ないじゃない」


 私はドラゴ大佐をそっとベッドに下ろす。


 そして解放軍の常装(じょうそう)。深緑色に染まる、軍服の第一ボタンを外す。


「関係ありますよ。ルシア様の婚約者ですからね」

「まだ婚約してないし」

「えぇ。しかし、いずれはご結婚なさるのですよね?」

「……わかんない。周囲がそう願っているだけだし」


 私は袖口(そでぐち)のボタンを外しながら、ルーカスの事を思い出す。


 ルーカスが忽然(こつぜん)と表舞台から姿を消して三年。


 王位継承権第一位。ランドルフ唯一の跡継ぎであるルーカスの行方について、報じる新聞は皆無という状況だ。


(グール達にとってみれば、跡継ぎの王子が行方不明だなんて、大問題だと思うのに)


 グール達が騒ぐ様子がない。


 その事を私は、ルーカスが何処かで生きている証拠だと思う事にしている。


 何よりクリスタルの中にある、ミュラーが管理する、亡くなった人間の、人生を記録したデータが格納される部屋の本棚に、ルーカスの生涯を(つづ)った本が、未だ収納されていないのだ。


(だから何処かで生きてる)


 私は相変わらず左手にはまる、マンドラゴラの葉がモチーフとなった金色の指輪を眺めた。


(生きている限り、きっとまた会える)


 そしてルーカスに会ったら、「心配させるな!」と、私は必ず一発殴ってやる。とまぁ、私自身は、ルーカスに会えると信じている。


 けれど私のそういった事情とは関係なく、主にモリアティーニ侯を中心とし、私とロドニールの婚約話が持ち上がっているという、幾分(いくぶん)困った状態である事も確かだ。


『全線で戦うお主はいつ死ぬかわからん。フォレスター家の子孫を早めに残せと、神も願っておるじゃろう。それにロドニールとの結婚は、人間に希望を与えるだろうからな』


 先日、モリアティーニ侯に個人的に招集され、そう告げられてしまった。


 以前ルーカスと結婚しろ。そう言っていた口で良く言うよ、と思わなくもない。


 しかし、この変化が現実なのだ。


 グールと人間が平等。

 そんな呑気な未来はもう見えない。


 暴走するグールを倒し、人間がこの戦いに勝つ。

 それしか、人間が人らしく生き残れる道はないのだから。


「おいたわしい。まだルーカス元帥のことを」


 目に涙を溜めたドラゴが、私に温めた布を差し出す。私は布を受け取ると、ゴシゴシと汚れた顔を拭き取る。


 目のキワの傷口が開き、みるみるうちに、白かった布が赤く色づく。


「あああああ。もっと優しく拭いた方が」

「確かに」


 私はとりあえず、布で出血した目元を押さえておく。


「ルーカス元帥の事を未だ忘れられないのですね」

「同郷のよしみ。その程度で心配なだけよ。だからあなたが気にする必要はないわ」

「またまた、強がりを。この三年間ずっとルシア様に付き添ってきたのですから。私には全てお見通しですよ。あぁ、切ない!!」


 私が育ててしまったせいか。それとも温室を飛び出し、苛烈(かれつ)な生育環境に置かれているからか。


 一代目ドラゴ大佐より、人間味溢れる二代目ドラゴ大佐は、ポケットから取り出した小さな布を目尻に当て、おいおい涙を流している。


「はいはい。気持ちの代弁ありがとう。でも本当に大丈夫だからさ。それよりも何か新しい情報はあった?」


 私がドラゴ大佐に尋ねた時。

 コンコンと部屋のドアが叩かれた。

お読みいただきありがとうございました。


更新の励み、次作品への養分になりますので、続きが気になるなー、おもしろいなー等、少しでも何か感じていただけましたら、★★★★★からの評価やブックマーク、いいね等で応援していただけるとうれしいです。

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