表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/164

お孫さま、初めての積極的討伐 1

 二人は青い顔で慌てていたが、一代で揚羽屋の身代を築いたのだから想像も追い着かないような苛烈な道だったと思う、と付け足して安堵してもらえた。

「詳しくは訊かないでおくよ」

「えぇ、そうなさっていただけますと……」

「おじいさまは私にはお優しいばかりだけれど、世界を相手に商いをするのにそれだけでは成り立たないくらいは私にもわかるよ」

 優しい、の部分で信吉は首を傾げていたが言葉にはしなかった。







 夕食を終えて、信吉は店に戻る。ゲストベッドルームを使うと言っていた信次も店に所用があるとのことで一度宿を出た。

 この宿のスイートにはメインの寝室の他に客用か使用人用か判断しかねるが別の寝室が備えられている。かなり控えめのバストイレ付きだ。

「大番頭さまがお使いになるゲストルームはリビングを通らずホワイエからも入ることが可能です」

「信次さんが私に用がなさそうだったら知らせなくて結構。央京からの疲れもあるでしょうし休んでもらってください」

 帰還の挨拶は不要、これで信次は戻り次第休める筈だ。

「畏まりました」






 翌朝。今日は生卵をもらいに行く。最初から斃しに行くつもりで魔物に会うのは初めてだ。遠出をするわけではないから服装は普段通りに、袖だけ襷で纏めて。

「おや?」

 打飼袋には射籠手が増えていた。弓を引く際、袖が弦に触れないように手首から肩までを覆うものだ。有難く使わせていただこう。

 早朝の方が油断しているとのことで朝食は戻ってからだ。

 いつ戻ったのかわからないが信次はゲストルームの方で休めたようだ。目敏く、射籠手を見ていたので今朝気付いたと話しておいた。

「本日お戻りになりましたら紋を入れさせてくださいまし」

 布帛製の射籠手、刺繍を施すそうだ。

 宿の獣舎には青藍と信吉が居た。

「サイラスさんはギルドに寄って、検問所で落ち合う手筈です」

 今回、信吉は同行しない。行くのは自分、サイラス、セルジュと見学だと強引に同行を決めた信次。ルフと巣の周りの状況を確認したいとのことで解体職人の彼も来るそうで、サイラスは迎えに行ったようだ。

 信次は揚羽屋が持っている馬を借りてきているがセルジュはあの金色のグランドエクウスだ。こちらも信吉が連れてきた。二頭のグランドエクウスを、同時に引くことになるなんて考えたこともなかったと言っていた。

「きれいな毛並みだ、大事にされているのがわかる」

 セルジュの許可を取り、首を軽く撫でてやる。

「いい子だね、名は?」

「ヴィナスと名付けております」

「今日は魔物の傍まで行ってもらうことになるけれど危なくなればセルジュさんと逃げるんだよ」

 自分の我が儘でセルジュやサイラスを付き合わせてしまうことになって、かなり心苦しい。自分だけで行ってくるつもりだったのに。

「若旦那……寧ろセルジュさんと居るのが一番安全でございますよ」

 信吉が呆れた様子で言う。

「ルフ程度、セルジュさんが本気になったら消し飛びますからね」

 セルジュを見遣ると小さな笑みが返された。

「同時に周囲の土地も吹き飛んでしまいます故、なにも致しませんが」

 英国紳士を思わせるようなセルジュだがそういえば龍だった、ひとの姿もとれる龍。

「あぁ、地図を書き換えなきゃならないような事態は避けたいねぇ」

 セルジュは穏やかに頷いていたが信吉は、どうしてその話を出掛けるのに雨じゃなくてよかったねくらいの長閑さで出来るんですかと遠い目をして言っていた。



 検問所ではサイラスと解体職人が待っていた。専門職とはいえ心得はあるようで鎖帷子に胸当てを着けている。

「おはようございます、若旦那」

「サイラスさん、おはよう。待たせてしまったみたいだね?」

「いえ。少しお耳に入れておきたい事情が出来ました」

「?」

 どうやら、自分たち以外にもルフの討伐を狙っている者が居るそうだ。

「先日の灰まだら討伐に失敗した二パーティーの片方からの情報です」

 灰まだら討伐失敗に虚偽報告までしていた。討伐失敗については受注なしの緊急依頼の為、特に罰則はないが虚偽報告は他者を命の危険に晒す重大な違反行為だ。その虚偽報告をした方のパーティーが、灰まだら討伐失敗の損失補填と罰金諸々の借金返済の為、一攫千金を狙って昨日から街を出たままだそうだ。

「加担しろと誘われたそうですが、情報提供側の冒険者パーティーには罰金がありませんから貯えで凌げました。そもそもまだメンバーの全員が治療中です。初心に返れと諭されたつもりで休養すると申しておりました」

 だが虚偽報告をした方はそうではなかった。貯えでは足りず借金を抱えた。

「有力な討伐者候補が見つかったからルフについては手出しを禁じたんだがな」

 職人は苦々しい表情で唸っていた。灰まだらに勝てない者がルフを仕留めるのは不可能、常識だと。

「とりあえず、向かいましょう」

 行って、現場を見てみないことにはわからない。



 途中、道沿いに設けられた広場にはテントやら焚き火やら、野営している状態がそのまま残っていた。サイラスと職人の二人が調べ例のパーティーのものだと判明する。

「え? この規模で五名が野営するんですか?」

 小さなテント、二人が入ればいっぱいだ。焚き火の周りには寝袋のようなものが三つ。

「テントがあるだけマシでございます。寝袋しか持たない冒険者もおりますよ」

 セルジュの言葉に驚いて、言葉が出ない。

「なんであんなに驚いてんだ?」

 職人がサイラスに訊く、野営で風呂に入っていることを知るサイラスは苦笑するしかない。






 辿り着く前からその周囲は異様な状態だった。不意に荒れ狂う風、怒りの波動、薙ぎ倒された木々、飛び散る瓦礫。ルフが巣を掛けたのは潰された集落だと聞く、その残骸だろう。

「あいつら、下手うちやがったな……」

 当然その中心に居るのは、早朝で寝ぼけている筈が怒髪天を衝く勢いで怒り狂う巨大な鳥だった。


すき焼き、食べました。勿論お店じゃなくおうちでのすき焼きですが。

白菜だけじゃなくて大根も気にしなきゃいけませんでしたね……

あ、我が家はニンジンは入れてないです。我が家のすき焼き鍋のキャパ的に

具を増やすのは無理… ちなみに我が家の〆は卵とじではなくおうどんです。

おうどんのあとまだ汁気あったら、ご飯もいれてさっと炒めます。美味しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ