友美を探すのよ。
アストと田辺は一緒に振り返った。
「どうしたんですか?汗だくですよ」
田辺は唖然とした顔で言った。
「浦上先生が友美と一緒に出かけたわ。追わなくちゃ」
田辺は浮かせかけた腰を再び下ろした。
「じゃあ、いいじゃないですか。手間が省けて。送って行ってくれるんでしょう」
わたしは頷いた。
「そうかもしれないわ。でも、わたし達は仕事として引き受けているのよ」
「そうだな」
アストが、そう言って携帯電話を取り出した。
「電話してみればいいだろう」
そう言うが早いか番号を押し始めた。わたしは息を整えた。アストは耳に電話を当てていた。
「出ないな」
わたしは、いらいらして怒鳴った。
「友美を探すのよ」
田辺とアストは重い腰をあげた。
「大丈夫だと思うけどな」
そういうと、アストは車のキーをつかんだ。
「田辺は駐車場を確認してくれ。浦上先生の車はシトローエンだったか?奈々」
「そうよ。昨日、見たわ」
「ダークグリーンのシトローエン、エグザンティアだ」
「そんな、カタカナばかり言われても・・・。知りませんよ、そんな型の車」
田辺は困ったような顔で言った。
「じゃあ、校門を出たところで聞こう。一緒に行くぞ」
わたし達はサークル棟を出ると走った。わたしが走り出したから二人は嫌々続いて走り出したのだ。校門には守衛がいる。アストの車は校門の前に路上駐車してあった。
「すみません」
事務所に戻ろうとしていた守衛に、走りながら声をかけた。
「どうしたんだい?」
足をとめて、六十をいくつか超えていると思われる守衛は言った。
「浦上先生は?」
「ああ、さっき出て行ったよ」
「助手席には誰か乗っていましたか?」
守衛は不思議そうな顔をした。
「ああ。乗っていたよ。どうしたんだい?レポートでも出し忘れたんかい?」
わたしは、曖昧にうなずくと、礼を言って走り出そうとして、もう一度振り向いた。
「どっちに?」
「ああ、北へ」
アストの車に乗り込むと、わたしはアストをせかせた。
「絶対に追いついて。」
「どうしたって言うんだ?おかしいぞ、奈々」
「北って言ったじゃない、守衛さんは。」
「それがどうした?」
アストは車を走り出させた。
「友美の家に行くなら北側へは出ないわ。校門の前の道を南へ出た方が早いの」
アストは首を振った。
「偶然だよ、偶然」
仕方無さそうな顔だったけれど、彼はちゃんと急いで運転した。
「奈々先輩」
後部座席で田辺が言った。
「もう一度電話してみましょうか、浦上先生に」
わたしは、頷いた。
「ええ、そうして」
「じゃあ・・・」
田辺は携帯を取り出した。わたしは黙った。
「あ、もしもし」
相手は電話に出たようだ。
「あ、はい。分かりました。よろしくお願いします」
電話を切ると田辺は両手を広げて見せた。
「送って行くそうですよ。家まで」
そう言った途端、わたしはシトローエンを発見した。運転席のアストが言った。
「だから言っただろう。送って行っただけなんだよ」
「そうかもしれないけど。見て。あれでしょう?浦上先生の車。尾行して」
「なんで?」
アストは嫌そうに言った。わたしは首を振った。
「わからないわ。なんとなく嫌な予感がするの。それに、これは友美の家に行く方角じゃないわ」
「たしかにな。遠回りだよな」
アストがそう言うと、後部席でも声がした。
「ドライブですよ」
「そうかもな」
アストは頷いた。
「でも、『トランステクノロジー』の事務所は、こっちにあるのよ」
わたしは、そう言った。
「ああ、ホームセンターもスーパーもこっちだけどな」
諦めたような声でアストが言った。
「いいから、追跡してよ。」
「わかった、わかった。するよ、奈々」
そう言うとCDを挿入した。
CDからはラブソングが流れ始めた。
いらいらした。




