友美を探して!
次の日は、二人とも昼まで寝ていた。
わたしが起きた時、友美はいなくて代わりにメモが飲み掛けのビールの上に載っていた。わたしは、一瞬、友美がいなくなったと思って焦った。
メモには、こう書いてあった。
「友美さんは浦上先生のところに連れていきました。帰りは両親が迎えに来るそうです。アスト」
ほっとして、わたしは、その飲み掛けのビールに口をつけた。ぬるくてまずかった。
「追伸。空き缶は片付けて、きれいにしておいてください」
メモの続きには、そう書いてあった。わたしは、しぶしぶ立ち上がり空き缶を片付け冷蔵庫から昨日の残りのビールを取り出し一気に飲み干した。
それからシャワーを浴びた。ぬるめのお湯が肌に跳ね返って気持ち良かった。
そろそろ帰らなくちゃ。わたしの父親には、あれ以来電話していない。あまり干渉はしない親だったけれど、いくらなんでも電話ぐらいしないと後で何を言われるか分からない。わたしは少し気分が落ち込みながらシャワーから出た。
着替えは、バッグの中だった。
わたしはバスタオルで体を拭き裸のままバッグを開けた。その途端ドアが開いた。
「あ、すまん」
アストが、わたしを見てドアを閉めた。
「いいわよ、別に」
わたしは、そう言って、すぐにしまった、と思った。アストは少し躊躇したが入ってきて背中を向けた。
「ありがとう。友美を送って行ってくれて。」
アストは、振り向かないまま答えた。
「ああ。起こそうかとも思ったけど、気持ち良さそうに寝ていたから」
「うん。良く寝たわ」
「友美さん、一応、田辺に頼んできた」
「そうね、家に帰りたくないって言っていたものね。あとで田辺君に連絡しておくわ」
わたしはシャツを着てジーンズに足を通した。
「もう振り返ってもいいわよ。」
アストは振り返り、ほっとしたような顔になった。
「今さら気を使わなくてもいいのに」
わたしは、そう言った。
「そういうことを言うから、どうしていいのか分からなくなるんだ、奈々」
わたしは靴下を履いた。
「何が?」
「友美さん、奈々に優しくしろって言ってたけど、昨日、何を話したんだ?」
わたしは、靴下をひっぱっていた手を止めた。
「別に、いろいろと。」
「言っておくけど、おれは今、誰とも付き合って無いぜ」
「そう。関係ないわ。」
「あ、そう」
アストは、そう言うと、わたしに近寄って頬を撫でた。わたしは動かなかった。アストは、そっとわたしにキスをした。
「それ以上したらレイプだからね」
わたしは唇を離したアストに言った。
「奈々、寝起きにビール飲んだだろう」
「飲んだわよ。悪い?」
「別にいいけどな」
アストは、そう言うと体を離した。わたしは急にさみしくなった。
「ねえ、アスト。」
「何だよ」
「わたしのこと、好き?」
アストは、じっとわたしを見つめた。
「当り前だろ。そう言ったじゃないか」
わたしは、そっとアストにもたれかかった。
「じゃあ、もう一度キスして」
アストは顔をわたしの方へ向けてキスをした。わたしは、そっと目を開けた。それから、さっと立ち上がってバッグに脱いだほうの服を詰め込んだ。
「電話しなくちゃ。」
わたしは、そう言って田辺に電話をかけた。
電話を掛け終わると、わたしはアストに言った。
「お腹が減っちゃった。何処かに連れて行って」
サイゼリアでスパゲッティーを食べて、それから大学に行った。田辺に会って話し合うためだった。
相変わらず薄暗い階段を上がり三階の端のドアを開く。
「あれ?田辺くん、一人?」
わたしの後ろからアストが入ってきて、そのまま脇を通り過ぎるとソファーに座った。
「ええ。そろそろ友美さん、来てないといけない時間なんですけど」
「探した?」
「いえ、カウンセリングが長引いているのかな、と思って」
「連絡は?」
「まだです」
「ご両親は?」
「あ、僕が家まで送って行く事になっていますけど」
「そう」
わたしはアストの隣に腰をかけた。なんか嫌な予感がした。
「何時に来るはずなの?」
「友美さんですか?三時です。」
時計は三時三十分を指していた。
「遅いわ」
「ええ」
田辺は落ち着いた顔で答えた。その、あまりの落ち着き方が余計に不安にさせた。彼の態度は当てにならない。
「ちょっと、見てくる」
わたしは、そう言うと立ち上がった。
「え?邪魔しちゃ悪いですよ」
田辺はそう言ったけれど、わたしは構わずドアから外へ出た。階段を駆け下り文学部棟へ走った。嫌な予感は、ますます膨れ上った。学生相談室のドアを勢い良く開けると、この間の女性が、さっとこちらを見た。鼻に掛けた眼鏡の奥から、「また、この女」と言っている。
「浦上先生は?」
「いませんよ」
女性は手を振って早く出ていけ、と促した。
「小早川さんは?」
「一緒に出ていきました。もう、これ以上問題を起こさないでほしいわね」
「出て行った?どこへ?」
「さあ。一時間くらいで戻るって言ってましたよ」
「それはいつの事ですか?」
「ついさっき・・・」
それだけ聞くと、わたしは走り出した。背中の方で「ドアを閉めなさい」と言う声が聞こえた。わたしは構わず走った。
何故、浦上先生は友美を連れ出したのか。
わたしは携帯電話を取り出そうとして、バッグの中に入っていないことを思い出した。あれは、あの施設で・・・。
息が切れて苦しかったけれど再びサークル棟へ駆け戻り一気に階段を上がる。ドアを力任せに押し開けた。
「友美を探して!」




