カウンセリング
尾行もされなかったようだった。
撹乱したから、とわたしは思った。所詮、彼等は普通の男の子達だから、ああいうのになれているわけでは無い。どうしたらいいのかなんて本当はわかっていない。
ただテープをとりあげろ、とか、捕まえろ、とか言われただけなんだろう。何人いても同じことだ。
それに彼等は嘘をつかれなれている。誰かが言ったことを鵜呑みにしてしまうのに慣れている。自分達の核の部分、セミナーが教えてくれたことについてでなければ、あっさりとだまされてしまう。
彼等は自分達の信じたいことを信じている。いや信じようと日々努力しているのかもしれない。
事務所に戻ると連絡を受けた田辺と友美が来ていた。もちろん友美には詳細を伝えていたわけではない。ただセミナー側と話をつけたから当面、狙われることはないと伝えただけだ。
「じゃあ、私が戻っても処罰されないの?」
友美が言った。
「さあ。わたしは、わたし達を追いかけるのをやめるように言っただけよ」
「どうして、私が帰れるようにしてくれないのよ」
友美は、食い下がった。
「それは出来ないわ。お金を出したのは友美のお父さんだもの。帰ってきて欲しいと言っているわ」
「そんな」
「もうすぐ迎えに来るはずよ」
「私、帰らない」
「駄々をこねないで」
わたしは、友美を睨むように見た。友美は、事務所の汚いソファーに悪態をついてどさっと座った。
田辺が居心地悪そうに、わたしに近づいてきた。
「あの、浦上先生が来るって言っていましたけど・・・」
浦上って、誰だっけ、と一瞬思った。
「ああ、大学のカウンセラーの」
「そっちの方面の研究をしたことがあるから、自分がやってもいい、とおっしゃってました」
「あ、そう」
友美は憮然としたまま、じっと座っていた。わたしは、ちらっと時計を見た。
「友美、ご両親が来るまでに三十分くらいあるわ。ちょっと二人で話をしない?」
「どうして?話す事なんてないわよ」
こっちを向きさえもしなかった。
「今日になって、いろいろ分かったことがあるのよ。事務所のメンバー全員で調査した結果を読んでね」
「何がわかったっていうの?」
やはり壁をみつめたまま友美は言った。
「浦上先生のことよ」
「それがなんだっていうの?いい先生よ」
「そうかしら?」
そう言った途端、ドアがノックされた。それと同時に、高橋と佐久間が立ち上がった。
「僕らは、そろそろ帰ります。明日も朝が早いので」
そう高橋が言うと佐久間も頷いてドアを開けた。入れ替わりに浦上が入ってきた。
「浦上先生、遅くにすみません」
そう言って立ち上がったのは田辺だった。事務所にはわたしと友美、そして田辺と、今入ってきた浦上の四人になった。
「いや、いいんだよ。小早川さん、久しぶりだね」
そう言うと、友美の隣に座った。
「すみません。汚いところで」
田辺は、そう言うと、冷蔵庫からコーラを取り出した。
「どうぞ」
「あ、すまんね」
それを受け取ると、プルタブを抜いて、一口飲んだ。
「ご両親はまだかな?」
「ええ、あと三十分もすれば来るはずです」
わたしは、そう言うと部屋の隅のほうに座った。ソファーには空きが、もう無かったからだ。
「じゃあ、さっそくだけど、小早川さん。もう一度カウンセリングを受ける気はないかな?」
浦上は、そう言うと友美の方を向いた。友美は、じっとその若い講師の顔を眺めていた。
「浦上先生は、私の団体に戻ること、反対しませんよね」
見つめたまま、友美は言った。
「そうだね。君がそうしたいなら、そうすればいい」
友美は、にっこりと微笑んだ。
「よかった。じゃあカウンセリングを受けてもいいわ」
「ただし一週間は時間を置くこと。その間は私のオフィスに毎日来て話をすること。いいかな?」
友美は顔を曇らせた。
「一週間?どうしてすぐに戻ってはいけないんですか?」
浦上は、にっこりと微笑んだ。
「それは一週間経てばわかるよ」
友美は納得出来無そうな顔をしていた。わたしは、その様子を端のほうから見ていたけど手を上げた。
「浦上先生。先生はどんなカウンセリングをするんですか?」
浦上は、こちらを見て不思議そうな顔をした。
「どんな、と言われても一言では言えないね。いろんな要素があるし、その人その人に合わせていろいろだからね」
わたしは、思っていることが顔に出ないように気を付けながら、さらに聞いた。
「催眠術もお使いになるって聞きましたけど」
浦上は頷いた。
「うん。場合によってはね。けれど、催眠術と言っても、別に特別な事ではないんだよ。リラックスしてもらうのが一番重要な要素だね」
「そうなんですか?」
わたしは、何も知らなそうな顔で言った。
「カウンセリングの効率を上げるために使っているんだ。大学の中でやっていると、やはり時間が足りないからね。もっとも効率的な方法があれば、それを実践しているよ」
わたしは言うべきことが見つからなくなって黙った。
友美と浦上は、しばらく雑談をしていたが、浦上はちらちらと腕時計を気にしていた。友美の両親は時間に遅れていた。
やがて、浦上は立ち上がった。
「すまないけど、まだやらなきゃいけないことが残っているんだ。小早川さんのご両親には蓮田さんから伝えてくれないか?一週間、友美さんのカウンセリングをするということで」
わたしは頷いた。
「わかりました。伝えます」




