奈々、監禁される
ひどく眠かった。
あの水には睡眠薬でも入っていたんじゃないかしら。それともシチュー?
違う、これは単純に眠いんだ。
今、何時だろう。
わたしは階段に腰をかけていた。出口を塞がれた階段の一番下。明りが届かない薄暗い場所。
洋一が笑っている。
バイクに寄りかかって、手を振っている。
でも、彼の声は聞こえない。
波の音も聞こえない。
誰かが、わたしの肩をつかんで揺り起こした。昨日とは違う男。確か、運転席の後ろの席にいたやつだ。無言でわたしに部屋の方を差していた。わたしは、ふと顔をあげた。後ろのドアは・・・。
閉まっていた。
わたしはしぶしぶ立ち上がると、わたしの独房に向かって歩き出した。
黴臭いベッドで、どのくらい眠ったのだろう。
明りが無いから、今が何時なのか分からなかった。
いつの間にか、噛りかけのパンは無くなっていて、新しいのになっていた。
でも、メニューは一緒。
わたしは、再び目を閉じた。寝ていたほうがいい。いつまで閉じ込めて置くつもりか知らないけれど、ここで出される食事は出来るだけとりたくない。そのためには体力を使わないようにしないと。
一番体力を使わない方法は、眠ることだわ。
再び目が覚めた。
床に置かれた食事は、さっき目が覚めたときと同じに見えた。同じメニューだから、それが入れ替えられたのか、それともさっきのままなのか判別できなかった。
食べないと、どれだけ時間が経ったのかさえ分からない。
わたしは、のそのそと起き上がって、パンを掴んだ。
パンを一切れと、シチューを半分。
それだけ食べた。シチューのプラスチック度から推測すると、たぶん、昼食だったのだろう。
でも、分からない。ひょっとすると夕食かも。
でも、それなら、部屋の鍵が、そろそろ開くはず。夜中は階段の前まで行けるんだから。
わたしは、食事をとると、再びベッドに横になった。
階段の前まで行けたから何だって言うのよ。結局、外には出られないじゃない。
わたしは、再び眠りに落ちた。
変な夢を見た。
誰かを殺して、それで、必死にそれを隠そうとしている夢だ。
捕まると、何処かに閉じ込められてしまう。
わたしは、思わず微笑んだ。
もう、すでに閉じ込められているじゃない。
今、何時だろう。
第一、昼か夜かも分からない。
相変わらず、音は何も聞こえない。眠りすぎて、頭が痛い。横になっているほうが楽だけれど、全然眠くない。
歩いたほうがいいかもしれない。
わたしは、そっと立ち上がって、ドアの前まで行った。
食事が新しくなっていることに気がついた。
じゃあ、夜なのかしら。
そっと、ドアノブを回す。
開かなかった。
服がべとべとして気持ち悪い。もう、二日くらいは着替えていない。それどころか、服を脱いでさえいない。
シャワーが浴びたいなあ。
言ったら、使えるかしら。
無理かな。
本当に、いつまでこんな所に閉じ込めておくのかしら。
いつまで・・・。
どのくらい経ったのかしら。何日?二日?三日?それともそれ以上?あんまり外に出ないと、ビタミン不足になるわよ。第一、こんな食事じゃ、栄養失調になる。
いったい、いつまで閉じ込めて置くつもりなのよ。
いい加減にしてもらいたいわ。
いい加減にして。
いい加減にして。
いい加減にして。
「いい加減にしなさいよ。」
わたしは、思わず叫んだ。
こんなんじゃ、気が狂うわ。
「出しなさいよ。」
「ここから、出しなさいって。」
わたしの声は、コンクリートの部屋の中で、ワンワンと響いた。耳が痛い。それが、余計にいらつかせた。
「いい加減にしなさい。」
わたしは、叫ぶと同時にベッドを蹴った。それから、ベッドの上の柔らかくもない枕を掴むと、思い切りドアに向かって投げた。それは、ドアに当たって、ばしん、と空しい音を立てて、弾みもしないでその場に落ちた。
わたしは、立ち上がり、シチューの入れ物を壁に投げつけた。壁に黄色い染みがついた。
殺風景なコンクリートの壁よりましだわ。
わたしは、ふうっと、息を吐いて、ベッドに腰を下ろした。
こんなに暴れたのに、誰も来なかった。




