表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/49

赤と銀①

 単車に跨ったディードは瓦礫や鉄骨を追い抜いて下降し、着地。衝撃で床が砕けて破片が飛び散り、降り注ぐ瓦礫と鉄骨の間を縫ってディードが単車を走らせる。

 劇場の底から見上げたディードの視線は、直線でロナに向けられていた。

「ロナさんが《白銀の影》の一人だったなんて、俄かには信じられなかったが……」

 ディードは周囲を見回した。両脚を失ったシェラに、血塗れのクラーブ、クラーブを担ぎ出すカスツァーと、全員の視線が、表情が、敵対する銀一色の兵錬武がロナだと告げていた。

「どうやら、勘違いとか陰謀とかじゃないみたいだな」

「盗み聞きしていたのなら話が早いわ」

 鋼の騎兵となって走るディードの前面に飛び出す人影、エトゥンミュレの身代わり。ペルテキアが出鱈目に振り回われ、身代わりどもが次から次へと屠られる。

 ペルテキアが翻る。伸びた長柄の先にいるのはシェラだ。シェラが長柄を摑み、上空に放り上げられ、落下地点に先回りしたゼフィラーダが後部座席で受け止める。

「気をつけろ凶暴眼鏡、ロナはどういう手段だか」

「手品の種は割れている」

 瓦礫の合間を縦横無尽に走るディードを爆撃が襲う。爆撃は意思を持ってディードを追いかけ、身代わりどもが待ち構える真正面に誘導していた。

 ディードは容赦なく身代わりを撥ね飛ばし、浮き上がったところをペルテキアで両断、包囲網を突破。身代わりが爆裂し、さらに爆撃と銀血がディードとシェラを追いかける。

「ロナさんは一切の攻撃動作を見せていないだと? どこがだ。

 ロナさんはさっきから、露骨に能力を披露しているだろうが」

 ディードの言葉を受けて、ロナは初めて焦りらしい焦りを見せた。

「撹乱だと思っていた身代わり能力が、実は攻撃能力まで持っていたとしたら?」

 言われてシェラは気付いた。これは先ほどと同じだ。ロナはエトゥンミュレが複数の能力を持っていることを一度に披露することで、それ以上の能力はないと錯覚させてきた。

 そして今回も爆撃能力と撹乱能力の同時暴露で、その二つが別物だと思いこませたのだ。

「爆撃の正体は身代わりを形作る粒子、空中機雷だ」

「ドッペルゲンガー、もう一人の自分を見た者は死ぬ。そういうことか」

「それが分かったからといって!」

 ロナは激昂を放って身代わりを繰り出した。エトゥンミュレの表面に隙間なく敷き詰められた射出口から空中機雷を散布し、立体的な砂絵のように身代わりを作り出す。

 劇場のそこかしこに出現した身代わりどもが一斉にディードとシェラに襲いかかった。自爆能力を持つ身代わり相手に接近戦などありえない。ディードは単車を高速で走らせながらペルテキアを振り回し、身代わりを次々に迎撃していく。

 銀血が壁と鉄柱を薙ぎ払い、ペルテキアと単車が観客席と床材を粉砕する。身代わりがまとめて奈落に叩き落とされ、床下から盛大な爆裂と突風が上昇してくる。二階席は落下し、垂れ幕は燃え上がり、天井には巨大な亀裂が走って、すでに劇場の面影はなくなっていた。

「この手の設置型能力は、閉鎖空間でこそ絶大な効力を発揮する」

 劇場全体から軋み声が響き出した頃になって、周囲はディードの意図に気付いた。

「だったら、この劇場を破壊すればいい」

 ディードはゼフィラーダから跳躍。劇場の中央へ降下し、怒号を上げて床板に大斧を振り下ろす。床が粉砕されて亀裂が放射線状に走り、さらに壁を駆け上がって天井に蜘蛛の巣を描く。

 先ほどからの戦闘で限界に近付いていた劇場は、最後にして最大の衝撃を受けて崩壊を始めた。壁が次々と連鎖的に崩れ落ちて外界が露となり、上階が崩落して天井が沈む。その天井すらもすぐに割れ砕け、瓦礫が落石となって降り注ぎ、青空と陽光が飛びこんできた。

 巨神の断末魔じみた轟音が響き渡り、濃霧のような白煙が拡散していく。瓦礫の荒野と成り果てた劇場の中央で、破壊神となった真紅の兵錬武が悪辣に笑っていた。

「これで不可視の空中機雷はほぼ無力化された」

 かつて劇場があった空間には銀色の粒子が漂っていた。身代わりを形作る空中機雷だ。ロナが薄暗い劇場に誘いこんだのは、空中機雷の粒子を見えにくくする目的もあったのだ。

 見上げられたディードの視線の先、空中にロナが立っていた。足裏から射出した空中機雷を断続的に爆裂され、その反動で空中に静止しているのだ。

「いくぞ冷血眼鏡」

「言われるまでもない!」

 ディードに促され、シェラはゼフィラーダの非環珠に視線を合わせた。

 原則的に一人の使用者が複数の兵錬武を使用することはできない。一度でも別の兵錬武に変身して肉体の最適化が更新されてしまうと、以前の兵錬武との適合率が低下して変身できなくなってしまうからだ。

 ただし厳密には一つだけ、この現象を回避する方法がある。それは複数の兵錬武の最適化と、使用者元来の体質が完全に一致する場合だ。

 そしてその条件を満たした者のみが、兵錬武の次の可能性に踏みこむことができる。

「変身!」

 シェラはゼドノギラスに変身した状態で、さらにゼフィラーダに変身する。ゼフィラーダが失われた四肢を補完し、上半身に無数の銃口を有し、下半身を単車にした、誰も知らない兵錬武がそこにいた。

 これが兵錬武における裏技的要素、二重変身だ。

「ロナ・カークケイトぉっ!」

「ディード・ド・ドレッドレッド!」

 ディードとロナは激情のまま相手に飛びかかった。跳躍したディードと、下降したロナが空中で激突。突き出されたそれぞれの得物がそれぞれの頬を掠めて背後に抜け、そして両者の中間で爆裂が弾けた。



 悪霊は手ずから淹れた珈琲の香りを楽しみつつ、ザッカーマンへの追求を続ける。

「革命軍に資金提供をしていたお前は、当時の有力貴族の家族構成を把握していた。そして偶然にもアイゼリカ・ダーシュが秘書として現れ、その知人にフィオナ・オーベルがいると知り、二人の復讐心を利用することを思いついた。

 お前は《新生の轍》を騙り、二人に真製と偽った第三世代型試作兵錬武を提供した」

 悪霊は珈琲を一息に流しこんだ。最後の一滴まで飲み干して、満足げな吐息を吐く。

「誤算だったのは、自分が復讐の標的になったことだ」

 それがザッカーマンには不思議でならなかった。自分が《血の王庭》事件に関わっていた事実は巧妙に隠したはずなのに。

「種を明かすと、俺が偽造名簿を使って彼女たちに教えただけだが」

 悪霊は悪戯げな笑いを零す。ザッカーマンの行動も誤算も、全てが悪霊の掌の上だった。

「自らが標的になってしまい、お前は焦った。そこで一計を案じた。

 お前は運転手と飼い猫を殺し、自作自演のザッカーマン襲撃計画を作り上げた。

 真製兵錬武を所有する《厄介者の群》に護衛の依頼を行い、《白銀の影》を脅迫して強引に対立させ、アイゼリカの休日と会談の予定を繰り上げることで両者を激突させた。

 お前はまんまと自分の身を守ることに成功したというわけだ」

 悪霊の説明は全てが真実だった。だからこそザッカーマンにはわけが分からない。

「お前の行動は回りくどすぎる。事件の全貌を詳細に把握し、黒幕が私であることを知っておきながら、一方で《白銀の影》に兵錬武を提供し、もう一方で事件の解決に協力して、これでは、これではまるで!」

 まるで、両者の激突を煽っているようではないか。

「お前の目的は何だ?」

「当初は俺たちの名を騙る身の程知らずを突き止め、処分することだった。しかし途中から少々事情が変わってね」

 悪霊は執務机に腰を下ろし、ザッカーマンと同じ方向に目を向ける。二人の視線の先に設置された画面の中で、真紅と白銀の兵錬武が激闘を繰り広げていた。それぞれの体から銀と赤の液体が飛び散り、ソニス市を斑に染めていく。

「シャルピニオとマグニクスは、民間人が考えたにしては中々に面白い能力だ。だが、エトゥンミュレの能力が立体映像による撹乱というのは面白味に欠ける。

 だから我々が本物の真製兵錬武にすり替えさせてもらったのさ。使用者への擬態機能を持ち、兵錬武を扱い非環珠と能力を奪い、なおかつ空中機雷による撹乱能力を備えたドッペルゲンガーの兵錬武《彼方世界のエトゥンミュレ》にな」

「! そうか、お前らの目的は……!」

「そう、我々の目的もお前と同じく、第三世代型試作兵錬武の性能を推し量ることだった。俺たちはお前が育て、成った実を、横から掠め取ったというわけさ」

 悪霊のはしゃぎようは、まるで友人の家に泊りこんで試験勉強をする学生のようだ。

「ああ、そうそう。実はもう一つだけ目的があった」

 悪霊は本当に今の今まで忘れていたという風に、画面の中に視線を戻す。

「十年前に〝冒険者〟の蒔いた種がどれだけ育ったのか。その経過観察のための当て馬として、俺たちは《白銀の影》に真製兵錬武を提供したんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ