死産された勝利者①
雨の降りしきる世界に、乾いた音が鳴り響いた。
男は自分の胸に開いた穴に視線を落とし、それから後ろに振り向く。
男の背後には拳銃を構えた男児が座っていた。男児の隣には保安官の死体が転がり、伸びた安全帯が男児の握った拳銃に繫がっている。拳銃からは硝煙が上がり、男児の胸部は骨が折れて陥没していた。
男は自らの最後を悟り、そして笑みを浮かべた。
「まあ、いいんじゃないか?」
顔面を彩る血の斑点を雨に流しながら、男は夏の青空のように爽やかな笑みを浮かべた。悔いも無念も一片たりとも存在しない、大往生の笑みだった。
男の体が傾斜し、濡れた路地に倒れる。雨に混ざって、男の体から赤が流れていく。今しも死にゆく男は、仰向けの大文字になって、まるで草原で昼寝でもしているようだ。
「どうして笑っていられるんだよ!」
ふざけているとすら思える男の笑みに、男児は怒りと憎しみを爆発させた。
「お前のせいでお父さんもお母さんも死んだんだ! 友達だって、知らない人だって、ボクより小さい子供だって、沢山沢山死んだんだ! なのに、どうして笑っていられるんだよ!」
「それが俺の決断だからだ」
男児に説く男は年長者の顔になっていた。たった数日間のつき合いとはいえ、二人は兄弟のように親しい関係になっていた。男児の疑問に応じるのは、男の役目であり義務だった。
「自分の行動に責任を持つのが大人の条件だ。だから俺は後悔していない。成功も失敗も、喜劇も悲劇も、どんな結末だろうが笑って受け入れられる」
幼い男児に男の言葉は理解できかねた。十年経っても理解し、実行できるだろうか?
「俺を殺したのは、お前だ」
男児の肩が跳ねる。十二歳という幼さにとって、それは重すぎる罪だった。
「これから先、その重さを背負って生きるのも、忘れて生きるのも好きにしろ。だが、俺を殺した事実からは逃げられない」
その言葉を最後に、男は何も語らなくなった。
男の遺言は男児の心に撒かれた種だった。それは長い年月をかけて成長し、やがて男児の一生を左右する一言として実を結ぶだろう。
男が手にしていた燭台、輪廻転生の兵錬武《死産蜂蟻ツェペルツェリン》は、主を追うように自ら砕け散った。




