表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛小説のオムニバス  作者: 蒼井スカイ
第1集 星夜の巡り合わせ
1/17

0.星空観測ツアー

4つの恋愛小説を1つにまとめた作品のうち、最初の作品を投稿します。本投稿を含む全7話となっていますので、時間のある時に楽しんでいただけますと幸いです。

「綺麗……」

「本当に――とても綺麗だ」


 夜空には満天の星が瞬いている。こんなに心を動かされる景色を見たのは初めてだった。何よりその感動を共有できる相手に巡り会えたことが奇跡だったと思う。



 私、巡藍(めぐりあい)は40代半ばにしてようやく自由な暮らしを手に入れた。20代に一人暮らしをしていたが、心労が重なって会社勤めを辞め、それ以来長らく実家暮らしをしながら親の脛をかじって生きてきた。


 世のアラフォー女性は子育て真っ最中か、キャリアウーマンとしてバリバリ働いているかのどちらかが多いだろう。

 いい歳して独身で実家暮らしなど、世間の笑いものと言われても反論の余地はない。


 でも、私は決して自分の人生を諦めた訳ではない。親には随分、迷惑と心配をかけたとは思うが、この歳になってようやく1人でも生きていけるだけの経済基盤を築き上げることができたのだ。


 1年前、細々とWebライターの仕事の傍ら、何度目かの応募でようやく掴んだ『ラノベ大賞』のグランプリを受賞した。受賞後は受賞作品の書籍化やコミカライズ化の話がトントン拍子に進み、大賞の賞金に加えて、書籍化・コミカライズ化の印税収入で収入は大幅にアップした。


 売れ行きも好調で、続編の出版も決まっている。これまでド底辺をノロノロと歩いていた身としてはあまりに分不相応な逆転劇で、これは夢ではないかと疑ったくらいだ。

 だが、これは間違いなく現実で、ようやく暗く深い泥沼から出ることができた気がした。


 グランプリ賞金が口座に振り込まれ、その金額を確認すると当たり前だが、告知通りの金額から源泉徴収されて残った金額が送金されていた。講座残高を照会して、改めてグランプリを受賞したのだと実感した。


 これまで諦めずに頑張ってきた自分を甘やかすため、1人で旅行をすることにした。迷惑をかけた両親には旅行後、ゆっくり親孝行をするつもりだ。旅行の行き先は以前から行ってみたいと思っていた場所を選んだ。

 その場所は観光地とはいえ、宿泊施設もなければおまけにお目当ての場所に行くには乗合バスで30分程の移動が必要だという。幸い、予約した旅館でツアーが組まれていたため、それに申し込めばいいのだと安堵した。


 スマホで『星空観測ツアー』のパンフレットを確認すると、ツアー予約を躊躇してしまった。パンフレットには「恋人や夫婦、家族連れのお客様が多数参加!」と書かれていたからだ。お一人様の自分が参加すれば、それはそれは居心地が悪いだろう、というイメージが先行して申し込みのボタンをタップできなかったのだ。


 画面をスクロールすると、ある言葉が目に留まった。それは「お一人様参加の方も大歓迎!」というどこにでもある謳い文句である。隅々まで見ないと見落としそうな文字の配置と小ささであったことはこの際スルーした。

 正直なところ、「自分だけお一人様だったらどうしよう」とも悩んだが、お一人様も歓迎されていると奮起し、綺麗な星空をこの目で観たいという気持ちもあって、ツアーに申し込んだ。


 コンテストで大賞を受賞して気が大きくなっていたのかもしれない。まぁ、星空を見上げてる時は皆1人である、とそんな言い訳で自身を無理矢理納得させることにした。




 旅行の予定は少し羽根を伸ばしたくて二泊三日で組むことにした。宿は一泊5万円以上で、少し奮発した。


 旅館は1部屋ごとに離れの造りになっていて、棟と棟の間にはそこそこ距離があるため、他の客の声や生活音に邪魔される心配がない。


「はぁ、宿代を奮発して本当に良かったなぁ。客室に源泉掛け流しの温泉もあるし、お料理も期待できそう」


 旅館に着くと、やさしい笑顔で出迎えてくれた高齢の仲居さんが客室に案内してくれた。やはり宿の評価は温泉や客室、料理の質も重要だが、宿のスタッフの人柄や対応が良いかどうかという点が何より重要だと噛みしめていた。


「巡様は今夜の『星空観測ツアー』にご参加いただいていらっしゃいますよね?」

「はい、とても楽しみにしてきました」

「そうですか、今夜は天気もいいですし、きっとご満足いただけると思いますよ」

「あの、今夜のツアーでは私のように1人で参加される方もいるんでしょうか?」

「えぇ、確か、もう一方いらっしゃったと思います」

「はぁー、良かったぁ。私だけ1人だったら気まずいなと思ってたんです」

「そうでしたか、当宿では1人参加の方はお2人だったと記憶していますが、他の宿から参加される方もいらっしゃると思うので、そんなに心配されなくても大丈夫だと思いますよ」

「それを聞けてホッとしました」

「では午後6時にロビーへお越しください。現地までは当宿の車で送迎させていただきます。他のお客様も乗り合いとなりますので、ご了承ください。

 夕食はツアー後、客室か当宿併設の割烹料理屋のどちらかで召し上がれますが、巡様はどちらでお召し上がりになられますか?」

「客室か割烹料理屋のどちらか――う〜ん、悩みますね」

「割烹料理屋は全席半個室になっておりますので、お1人でも気楽にお食事なされると思います。それに、ライトアップされた中庭を眺めながらのお食事も素敵ですよ」

「じゃあ、割烹料理屋でお願いします!」

「ツアーまでまだ時間があるか、大浴場の温泉に入ろうか、それとも客室の温泉に入るか、う〜ん、悩む」



 ******



「ツアー参加の方はこちらです。ご予約のお名前を確認させていただきましたら、こちらのバスへお乗りください。」


 バスは大人20人乗りで、それらの席のほとんどがカップルで満席だった。そのため、挨拶もなく、自分一人がお一人様であることが周知された訳であったのだが、不幸中の幸いと言うべきか、カップルたちはパートナーとの会話に夢中である。私は二人乗りの席を1人で乗ることができたことに安堵した。


 初夏でツアーも始まったばかりではあるが、思いの外ツアーの人気は高く、乗合バスは合計2台で行くようだ。


――仲居さんは私の他にもう1人お一人様の参加者がいると言ってたっけ。こっちはカップルばかりだから、あっちのバスにその人が乗ってるってことか。その人も今頃私と同じく肩身の狭い思いをしてるのかも。


 まだ見ぬもう1人のお一人様も自分と同じ居づらさを感じているかも、と思えたら不思議と笑えてきて、バスに乗ってから感じた孤独は徐々に薄らいでいった。



「では今、午後六時半を少し回ったところです。星空観測は1時間の予定となりますので、時間を確認の上、行きと同じバスの同じ席にお戻りください」


 運転手は駐車場で待機のようだ。バスを降りた参加者は他の宿からの参加者とごちゃ混ぜになる形で、星空観測の場へ歩を進めていく。


 駐車場からでも見上げれば雲1つない夜空に無数の星が瞬いている。ここからでも十分に綺麗である。ついつい美しい夜空に魅入っていると、他の参加者に遅れを取ってしまった。慌てて、後を追った。




 星空観測の場に着くと現地の案内人が待機しており、好きな場所で観ていいと言われた。まだ空は明るみが残り、足元ははっきり見えている。


 すでに多くのカップルたちが程良い間隔を空けて座ったり寝転んでいたりする。


 星空観測ツアーの醍醐味はここにある。平らな地面に寝転んで星空を好きなだけ観れるところだ。だから、ツアー参加には必須アイテムがいる。

 それはレジャーシートと膝掛け、飲み物だ。膝掛けはレジャーシートの上に敷けば、ゴツゴツする地面の硬さを和らげてくれるし、風が出てきて肌寒くなれば身を包むことで保温アイテムとしても有効だ。他にも防寒着や寝袋なんかもおすすめだ。

 星空観測は1時間だけの短い時間だが、飲み物があれば多少は空腹を満たすこともできる。

 私はこの手の準備については昔から抜かりがない。今夜も有意義な星空観測のため、全て準備して持ってきた。


 各々が地面の上で横になる中、座ったままのカップルがいるのはレジャーシートを持参しなかったからだろう。

 内心で「準備は抜かりなくしないとね」と軽口を叩いて、準備万端な自分を誇らしく思ったりしていた。


――それにしてもほとんどというか、私以外皆カップルじゃない? やっぱりこういうロマンチックなツアーとなると、お一人様は肩身が狭いなぁ。いっそのこと、お一人様専用ツアーでも作ってくれたらいいのに……。


 そんな都合のいい考えを巡らせていると、突然、自分の心の声が空から降ってきたようで驚いた。


「お一人様専用のツアーがあれば良かったですよね?」

「へっ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ