第38話「ハーバードの仲間たち」
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1. 2人だけの時間
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【官邸・執務室】
今日は吉村が所用で早く帰ったため、藤堂と美波の2人だけが残っていた。
藤堂は、天使から言われた言葉——「絶対悔いを残してはダメよ」を思い出しながら、
これからの総仕上げについて思いを巡らせていた。
その姿を見て美波が話しかけてきた。
「藤堂さん、何か悩んでいらっしゃるのですか?」
「いや、これからやるべきことを考えていたんだ」
美波「藤堂さんは以前私に話してくれました。
なぜ朝霧翔さんが藤堂誠司さんになったのか、そして、藤堂誠司さんと約束したこと……
今日は他に誰もいないので、もう一度詳しく教えてくれませんか。
これまでのことを全部」
「そうだな。ちょうどいい、私もこれまでやったことを振り返っておこうかな」
「美波さんに以前打ち明けたことも含めて、もう一度最初から話すよ」
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【天国での出会い】
「私は、ハーバード大学でアメフトの試合中に強烈なタックルを浴びて倒れた。
目が覚めたら、天国の入り口に立っていた。
しかし、天使の手違いで10年早く天国に来ていたことがわかった。
それで、藤堂誠司さんの体を使って生き返ることになった」
美波「そして、誠司さんから総理大臣になってくださいと頼まれたんですよね」
「そうだ。そしてもう一つ、家族のこともよろしく頼むと言われた。
それから、藤堂誠司として生きることになった」
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【家族と仲間との出会い】
「家に戻ると、家族がいた。そしてAIのアルテミスがいた。
アルは、それからずっと軍師として私を支えてくれた。妻の美咲も。
おかげで、最初の総裁選をなんとか切り抜けて総理大臣になった」
美波「総理になるまでも、大変だったんでしょうね」
「次に会ったのは田中丈太郎さんだった。
最初は謎の老人だったが、誠司さんの祖父の親友で"トルグ"の総帥だと知った。
トルグのメンバーの高橋俊介さん、磯村匠海さんとも出会った。
橘麗子さんには、官房長官をお願いした。
この指名は誠司さんが残した"藤堂プラン"の指示に従ったものだったが、大正解だった。
以後、とても頼もしい相棒となってくれた」
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【総理として最初の仕事】
「総理になって最初は日本を変えることに専念した。
"フェイク動画"の拡散もやった。
その後、中国との外交危機が発生したが、
あの李明さんの力を借りて事なきを得た。
それから、オフレコ取材を利用して利権まみれの族議員の実態を暴露した。
あの時は須藤厚生労働大臣に協力してもらった」
美波「その話はニュースになったので知っています。
その場面、見てみたかったです。
須藤大臣って、いつもは穏やかそうなのに、やる時はやる方なんですね」
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【ハーバードの仲間たち】
「ハーバード大学のイベントでアメフトの試合に出場させてもらった。
その時に協力してくれたのが、チームメイトのマリクだった。
翌日、ホワイトハウスでヘンドリクス大統領と会談したときには、
その試合でセンターをやっていたケニーがいた。
彼は大統領の首席補佐官だった。
もう一人、ライアンという巨漢のチームメイトがいて、
ライアンとはその後オーストラリアのレアアース企業で再会した」
美波「マリクさんは、藤堂さんの正体を知っているんですよね。
どんな反応をされたんですか?」
「あいつは……すぐに気づいた。
でも、何も言わなかった。それがマリクらしいところだよ」
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【メアリーとの出会い】
「田中さんの孫、メアリーと初めて会ったのは南米だった。
彼女はその後、誠司さんのお父さんが副社長を務める日東テクノロジーが
中東での植物工場事業を始める橋渡し役となった」
美波「メアリーさんは、本当に世界を飛び回っていますよね。
あの方の行動力には驚かされます」
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【長崎旅行と二度目の総裁選】
「娘の彩花との約束だった、長崎旅行にも家族で行った。
それから間もなく二度目の総裁選。何とか乗り切れた。
ところが直後に吉村さんが過労で倒れた。
それで、もう一人秘書を雇うことになった。それが美波さんだ」
美波「やっと、私が登場しましたね」
「木村環境大臣が薦めてくれたんだ。
木村さんの話を聞いてから、
あの時一緒にボランティア活動をした神宮寺美波さんだとわかったんだ」
美波「木村大臣と私が顔見知りだったという偶然が
私たちの再会を招いたということはわかりましたが、
政治を全く知らない私をよく雇うことにしましたね」
「木村さんが、私の秘書にぴったりだと思うと薦めてくれたし、
私も美波さんの人柄をよく知っていたから迷わず決めたよ。
美波さんも慣れない仕事で大変だったと思うけど、
よくやってくれて感謝しています」
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【八重樫との出会いと多層的国際秩序】
「それからは、全部知っていると思うけど、
八重樫幹事長という協力者を得たことも幸運だったよ。
私は元々"世界中から戦争を無くす"という大きな夢を持っていて、
総理大臣になってからは経済的相互依存によって戦争が防げるとの考えで
各国がWin-Winの関係になるよう活動していたんだが、
それでは戦争を防ぐことはできないとはっきり指摘したのが八重樫さんだった」
美波「それが、"多層的国際秩序"構想を生み出すきっかけなんですね」
「そうだ。
その後、SUNNY DAYのリーダーでトルグ・エージェントのレモンにも会った。
アイリーン・プロジェクトの活動開始に際して
TCDのアレキサンダーともリモート会談した。
その他にも色々あって、今の私がいる」
美波「大学で学業をしながらアメフトをしていたら突然天国に呼ばれて、
他人の体で生きることになって、しかも総理大臣になるなんて……
こういうのは奇想天外っていうのかな?
でも、すごいです。誠司さんの依頼を受けて総理大臣を無難にこなすというレベルではなくて、
今までの総理大臣がやらなかったような大きなことを成し遂げた」
美波は少し間を置いてから続けた。
「それで、さっき"これからやるべきことを考えていた"って言われてましたけど、
今度は何をなさるんですか?」
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【ハーバードへの招待】
「実は、ハーバードのチームメイトたちは毎年、
私……つまり朝霧翔の命日に記念イベントをしているんだ。
私が総理になってから藤堂誠司として試合に出たのがそのイベントだったんだけど、
今回は全員の前で"講話"をしてくれとの要請があったんだ。
それで、何をしゃべろうかなと考えていた。
もうチームメイトたちと会うのも最後だしね……」
美波「最後って?」
「もうじき総裁任期満了だからね。
党則で総裁は引き続き三期を超えて在任することができないと定められているから、
総裁を連続して務められるのは最大9年で、もうじきその9年が終わるんだ」
美波は静かにうなずいた。
「そうですか……」
その一言だけで、それ以上は何も言わなかった。
藤堂の「最後」という言葉の本当の意味を、美波はとっくに知っていた。
しばらくの沈黙の後、藤堂が言った。
「ところで、美波さんにお願いしたいことがあるんだが」
美波「お願いしたいこと?何でもどうぞ」
「実はね……」
藤堂は静かに、しかし真剣な目で美波を見た。
美波は藤堂の言葉を、真剣な表情で聞いた。
執務室に、静かな夜が訪れていた。
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2. ハーバードでの講話
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【ハーバード大学・メモリアルホール】
今日は朝霧翔の命日。例年通りハーバード・クリムゾンOBたちが集まって試合をした。
あの日以降は藤堂も実際にプレーすることは控えている。
この日はマリクの提案で日本の総理大臣「藤堂誠司」の講話がプログラムされていた。
赤レンガの尖塔がそびえる歴史的建造物。
内部は高い天井、ステンドグラス、荘厳な木造の梁。
卒業生たちがぎっしりと座り、ざわめきが広がっている。
壇上には、ハーバード大学の紋章。
その前に、藤堂総理がゆっくりと歩み出る。
美波は後方の来賓席に座っている。
司会者が紹介した。
「Ladies and gentlemen, 日本国総理大臣、藤堂誠司氏です」
大きな拍手が起こる。
藤堂は軽く会釈し、演台に立った。
そして、静かに、しかし確信を持って語り始めた。
「ハーバード大学の皆さん。
この歴史あるMemorial Hallでお話しできることを、大変光栄に思います。
私は先月、G7サミットで
"多層的国際秩序"という構想を提案しました」
スクリーンに、国連・G7・テーマ別ネットワークの三層構造が映る。
「私は、国連を否定したわけではありません。
むしろ、国連は普遍的な正統性を持つ唯一の国際機関です。
しかし——拒否権が発動されれば、
どれほど重大な危機であっても国際社会は動けない」
聴衆が静かに頷く。
藤堂は一歩前に出る。
「だからこそ私は、"国連だけに頼らない世界"を提案しました。
第一層は国連。
第二層はG7やQUADなど、価値観を共有する国々。
第三層はAI、気候、海洋などのテーマ別ネットワーク。
この三つを組み合わせることで、
世界は"止まらない秩序"を手に入れることができます」
聴衆の中から、感嘆の声が漏れる。
藤堂は、聴衆を見渡す。
「今日ここにいる皆さんは、世界の政治、経済、科学、文化を動かす人材です。
皆さんの中には、国連で働く人も、企業を率いる人も、国の政策を作る人もいるでしょう。
だからこそ私は、"多層的国際秩序"は政府だけのものではなく、
皆さん一人ひとりが担うべき未来の仕組みだと申し上げたい」
聴衆が静まり返る。
「世界は今、分断と対立の時代にあります。しかし、私は信じています。
秩序は、力ではなく"協力のデザイン"によって作れる。
そしてそのデザインは、アジアでも、アメリカでも、ヨーロッパでも、
志を同じくする人々が集まれば実現できる」
「私は、"日本を変え、世界を変えて子供たちのために明るい未来を築く"という
自身の大きな夢を叶えるため、総理大臣になって8年半が過ぎました。
まだまだ時間をいただけるならば、やるべきことはいくらでもあるのですが
残念ながら、総理大臣としての任期はあと半年を切ってしまいました」
「ここにいる皆さんも、私と同じように自分の夢に向かって精一杯力を尽くしていることと思います。
ご存じの通り、アメリカンフットボールは"ファイナルスポーツ"と呼ばれます。
体力だけでなく、極めて緻密な戦略が要求されるため、
頭脳戦とフィジカルの最強コンビネーションスポーツです。
フィールドにいる11人すべてに役割があり……」
藤堂は、アメリカンフットボールというスポーツの魅力を語るとともに、
世界中の国々が協力して未来を切り開くべきであることを力強く語った。
これまでの藤堂の「獅子奮迅の働き」を知っているからこそ、
チームメイト全員にその一言一言が響き渡った。
「最後に——
世界中の誰よりも優れた能力と知識を持っているハーバード大学のOBに対して
大変失礼ではあるのですが、ある人の言葉で締め括らせていただきます。
フットボールに魅せられた皆さんなら誰でも知っている名将ヴィンス・ロンバルディ、
そう、NFL史上最も偉大なヘッドコーチの言葉です」
The difference between a successful person and others is not a lack of strength, not a lack of knowledge, but rather a lack of will.
「"勝者と敗者の違いとは、能力の有無でもなければ、知識の有無でもない。
それは、意志の有無である"
つまり成功する人としない人の違いは、能力や知識ではなく、
やる気があるかないかなのです。
どのような困難に対しても必ずできると信じて立ち向かっていこうじゃあないですか!」
「Thank you very much.」
会場が一瞬静まり——次の瞬間、スタンディングオベーションが起こった。
美波は、藤堂の言葉に胸を打たれたように目を潤ませていた。
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3. 仲間たちとの別れ
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【講演後】
舞台裏に戻ると、ハーバード卒業生の一人が藤堂に声をかけてきた。
卒業生(国際関係学者)「総理……あなたの構想は、
国際政治の新しい章を開くかもしれません」
藤堂は微笑む。
「世界は、止まってはいけない。
そのための仕組みを作るのが、私の役目です」
そこへ同年代のチームメイトたちがやってきた。
マリク「さすが藤堂総理。今日の講演は大成功だ。提案者の俺の株がまた上がったぜ」
そして、耳のそばで小声で言った。
「今日のスピーチ、翔そのものだったぞ」
藤堂「ありがとうマリク。今日は世話になったな」
ケニー「藤堂総理。ドラープ大統領にはっきりNOを言った日本の総理がメディアで話題になっていますよ」
藤堂「メディアは過度に騒がないでほしいんだがな」
ライアン「今日は素晴らしいスピーチでした。
総理大臣の任期満了が近いということですが、
もしよかったら退任後はご家族でオーストラリア観光に来られてはいかがですか?
ご案内しますよ」
藤堂「ありがとう。その節はよろしく頼むよ」
藤堂は集まったチームメイトたちに改めて礼を言った。
「みんな、ありがとう。今日は思い出に残る日になったよ」
藤堂(心の声)
*マリク、ケニー、ライアン……*
*お前たちと過ごした日々は、朝霧翔の宝物だ*
*ありがとう*
建物を出た藤堂に、美波が静かに言った。
「総理……本当に、素晴らしい講演でした」
藤堂は深く息を吸い、ハーバードの尖塔を見上げた。
藤堂(心の声)
*世界は動き始めた*
*次は——日本がその中心に立つ番だ*
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第38話 完
次回:第39話「世界は変わりました」
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