第37話「NOと言える日本」
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1. NOと言える日本
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【首相官邸・執務室】
アイリーン・プロジェクトのメッセージが世界を揺るがしてから、数日が経っていた。
官邸内には、まだ緊張の余韻が漂っている。
橘官房長官が執務室に入ってきた。
「総理、世界中が大変な騒ぎになっていますね。あれは……やはり、トルグですね?」
藤堂は少し間を置いた。それから静かに頷いた。
「橘さんには、隠せないな。そうだ、アレキサンダーのTCDだ。
今回は敢えて橘さんや八重樫さんには黙っていた。
何があっても全て私が責任を取るから、知らなかったことにしてください」
橘「知らなかったことにはしますが、総理が全部背負う必要はないですからね。
みんなで協力して対応しましょう」
藤堂「ありがとう。もしものことがあったら力を貸してくれ」
橘「ええ、もちろんです。遠慮なく言ってくださいね」
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翌朝早く、執務室の電話が鳴った。
吉村が受話器を取り、表情を引き締めて藤堂に告げた。
「総理。ドラープ大統領からです」
藤堂は静かに受話器を取った。
ドラープ「トードー!久しぶりだな。元気か?」
例によって、豪快な声だ。
藤堂「ええ、お陰様で。大統領こそ、お変わりなく」
ドラープ「ところで、例のメッセージの件だ。
あのアイリーンとやらのことを、お前は何か知っているんじゃないか?」
藤堂は一瞬だけ間を置いた。
藤堂「大統領、私はただの一国の総理大臣です。
世界中で起きていることをすべて把握しているわけでは……」
ドラープ「はぐらかすな。お前にはどうも裏があるように思える……まあいい。
今日電話したのは別の用件だ」
ドラープの声が、少しだけ低くなった。
ドラープ「俺はイランへの軍事作戦を再開するつもりだ。
同盟国として、日本にも支持を求める」
執務室の空気が変わった。
橘官房長官と吉村が、息を呑んで藤堂を見つめる。
藤堂は、ゆっくりと、しかしはっきりと答えた。
藤堂「大統領。それは、日本の国益に反します」
ドラープ「……何?」
藤堂「日本は、その軍事作戦を支持できません」
沈黙。
受話器の向こうで、ドラープが息を吐く音がした。
ドラープ「トードー。お前は俺の友人だと思っている。
だが、同盟国として……それでいいのか?」
藤堂「大統領、同盟は対等でなければなりません。
日本はアメリカの決断を尊重します。
しかし、日本自身の判断も尊重していただきたい」
また沈黙。今度は長かった。
やがて、ドラープが口を開く。
ドラープ「……理由を聞かせろ」
藤堂「イランへの軍事作戦は、中東の不安定化を招きます。
日本はエネルギーの多くを中東に依存している。
また、日本が進めている"多層的国際秩序"の構築にとっても、
対話ではなく武力による解決は、大きな障害になります」
藤堂は続けた。
「代わりに、日本が外交的な仲介役を担うことを提案します。
アメリカと、中東各国との間に橋を架けることならば、
日本は全力を尽くします」
長い沈黙の後、ドラープがため息をついた。
ドラープ「……トードー。お前は頑固な男だな」
藤堂「大統領こそ、お分かりいただけると信じています」
ドラープは少しの間黙っていた。
そして、低く笑った。
ドラープ「……わかった。今回は、お前の顔を立ててやろう。
だが、次はないぞ」
藤堂「ありがとうございます、大統領」
電話が切れた。
執務室に、静寂が戻る。
たまたま執務室内にいた橘が、静かに口を開いた。
「総理……ついに、言いましたね」
藤堂「ああ」
橘「アメリカに対して"NO"と。
日本の総理大臣が、同盟国にはっきりとそう言える日が来るとは……」
橘は続けた。
「これが、"自立した同盟国"というものですね。
対立するのではなく、対等に物申す。
それが本当の同盟の姿です」
藤堂は窓の外を見た。
東京の朝の光が、静かに広がっていた。
藤堂(心の声)
*ようやく、言えた*
*依存から対等へ*
*その第一歩を、今日踏み出した*
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2.もうすぐ約束の10年よ
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【ある日・首相官邸】
洗面所で手を洗っていた藤堂は、
ふと鏡に映る自分の姿が薄らとぼやけて見えた。
「目が疲れているのか?」
ふと気づくと、隣にあの天使がいた。
天使「藤堂誠司のふりをしている朝霧翔くん。
忘れてないよね。約束の期限が近づいてきたよ。
普通の人は自分がいつ死ぬか知らないけど、
あなたは特別扱い、very specialなのよ。
絶対悔いを残してはダメよ」
藤堂「寿命を間違えるなんて、天使としてあり得ないミスをしたあなたに
説教される筋合いはないですね」
天使「あの時と同じ、君はいつも私にはキツイことを言うんだね」
藤堂「でも、そのミスが元で誰にも経験できない素晴らしい人生になりましたよ。
ありがとう。
言われなくてもわかってるよ。
あれからずっと、藤堂さんならこうするはずだと、
いや、藤堂さんが思っていた以上のことをやってやるというつもりで
精一杯やってきた。彼のメインの夢に関してはね。
もう一つ頼まれた事についてはまだ悩んでる。
最後に贈る言葉とかね。
これについては、彼の具体的なアドバイスをもらってないからね」
天使「私が口出しすべき事じゃないから、なんとも言えないわ。
次にあなたに会うのは例の場所、天国の入り口よ。
じゃあ、そういう事でよろしくね」
天使はそう言ってパッと消えた。
「相変わらず軽いやつだ」
藤堂は苦笑いしながら、立ち上がった。
藤堂(心の声)
*さあ、このvery specialな2人分の人生!*
*仕上げにかかるぞ*
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第37話 完
次回:第38話「ハーバードの仲間たち」
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