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第23話「高齢者介護問題」

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1.日本の介護問題

________________________________________

【ある日の夜・藤堂邸】


家族4人そろっての夕食は、久しぶりだった。

「陽菜ちゃんが言ってたんだけど」

彩花が言った。

「陽菜ちゃんのお父さんが、今度厚生労働大臣のところに陳情に行くらしいの」


「朝霧さんのお父さんって、何の仕事をされているの?」

美咲が聞いた。


「詳しくは知らないけど」

彩花が答えた。

「お年寄りの介護サービスなどをしている会社に勤めているって言ってたわ」

「それでね、陳情の件お父さんによろしくお願いしますって言うのよ」

「一応頼んではみるけど、厚生労働大臣のところへ行くのだから」

「横から口出しできないと思うわって言っておいた」


「彩花の言うとおりなんだ」

藤堂が言った。

「娘同士が友人だからといって、ひいきすることはできないんだよ」

「基本的には、大臣に判断を任せているんだ」

「私が横から口出しすれば、冷静な判断の妨げになるかもしれないからな」

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【夕食後・書斎】


「アル」

藤堂が言った。

「私の父、つまり朝霧の父が厚生労働大臣のところに陳情に来るらしいんだ」


「会いに行くの?」

アルが聞いた。


「いや、会わない」

藤堂が答えた。

「陽菜には会ってしまったから仕方ないが」

「両親には会わないと決めている」

「陳情については、もちろん気にはなる」

藤堂が続けた。

「しかし彩花にも言ったんだが、私から口出しもするつもりはない」

「それでも厚労大臣の方から相談を受けるかもしれないので」

「高齢者の介護に関する問題を整理しておきたいんだが」


「いいわよ」

アルが答えた。

「日本は高齢化が進んでいるから、老人介護の問題はかなり深刻よ」

「課題は少なくないわ」

「日本の介護問題を一言で言うと」

アルが説明した。

「『高齢者の増加スピードに対して』」

「『制度・人材・財源・技術のアップデートが追いついていない』」

「という状態ね」

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【介護制度のボトルネック】


「日本の介護制度の、どこがボトルネックなのか?」

藤堂が聞いた。


「結論から言うと」

アルが答えた。

「日本の介護制度の最大のボトルネックは」

「『制度の前提が介護保険開始時、つまり2000年のまま止まっているのに』」

「『社会構造だけが激変した』こと」

「制度設計そのものの構造的欠陥は、5つに集約される」

アルが続けた。

1. 「家族介護」を前提にした制度設計が崩壊しているのに、制度が追いついていない

2. 介護保険が「軽度者の生活支援」に使われすぎ、重度者に資源が回らない

3. 医療・介護・福祉の縦割りで、利用者が制度の狭間に落ちる

4. 自治体ごとに制度運用がバラバラで、地域格差が巨大化

5. データ連携がほぼゼロで、制度がアップデートされない


「つまり」

藤堂が言った。

「介護制度の見直しができていないから」

「人材・財源・技術のアップデートも現実に追いついていない」

「ということだな」


「そうよ」

アルが頷いた。

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【介護人材不足の解消策】


「介護する人材が不足しているって聞くけど」

藤堂が聞いた。

「制度的に解消するには?」


「『安くてきつい仕事』から」

アルが答えた。

「『専門性があり、生活が成り立ち、キャリアが見える仕事』へ」

「制度ごと作り替える必要がある」

「『介護の仕事がきつすぎて人が辞めてしまう』という現状を変えるために」

アルが説明した。

「介護の働き方・給料・キャリア・テクノロジー・外国人材などを」

「まとめて改善する『総合パッケージ』」

「つまり、単なる『給料を上げます』ではなく」

「介護の仕事そのものを『続けられる仕事』に変えるための」

「一式を揃えるということ」


「もっと具体的に言うと」

アルが続けた。

① 給料を上げて、生活できる仕事にする

→ 「介護は安い仕事」というイメージを変える

② キャリアアップできる仕事にする

→ 「ずっと同じ給料で終わる仕事」ではなくなる

③ 外国人材が安心して働ける仕組みを作る

→ 外国人が「穴埋め」ではなく「仲間」になる

④ 現場の負担を減らす(DX・タスク削減)

→ 「人が足りない」問題を「仕事の中身」から解決

⑤ 地域全体で介護人材を育てる

→ 地域ぐるみで介護を支える仕組みができる


「介護人材不足を解消するには」

アルが結論づけた。

「『賃金』『キャリア』『外国人材』『タスク削減』『地域エコシステム』を」

「バラバラにいじるのではなく」

「一つの『パッケージ』として同時に動かす必要がある」

「『介護の仕事を、ちゃんと食べていけて』」

「『誇りを持てて、続けられる仕事にするための』」

「『国の総合改革』が必要ね」


「なるほど」

藤堂が頷いた。

「『総合パッケージ』が必要なんだな」

「高齢者介護の現場は、家庭も事業者も行政も」

「とても厳しい状態だ」

「何とかしないといけない」


窓の外、東京の夜景が広がっていた。

*介護問題*

*日本の未来を左右する*

*重要な課題だ*

藤堂は、決意を新たにした。


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2.朝霧翔の父

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【数日後・官邸執務室】


美波が、総理のデスクに近づいて小声で言った。

「藤堂さん」

「今日、翔さんのお父さんが厚労省に来られるそうですね」

「会いに行かれるのですか?」


「いや、私は会わない」

藤堂も小声で答えた。

「だが、なんで知ってるんだ?」


「先日、彩花さんから聞いたんです」

美波が言った。

「せっかく会えるチャンスなのに、いいんですか?」


「私は、両親には会わないと決めているんだ」

藤堂が答えた。


「そうなんですか」

美波が言った。

「でも、どんなお父さんなんだろう? 気になるな」


「余計な詮索はいいから、自分の仕事を......」

藤堂がやや強く言った。


「はい、承知いたしました」

美波が答えた。

*そんなに怒ったように言わなくてもいいのに...*

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【翔の父】


朝霧将生は、大学時代に進路を決めるに当たり考えた。

「これから日本は、ますます高齢化が進む」

「だから介護関連事業は、今後伸びる産業だ」

そう考え、高齢者介護サービスに携わる企業を志望した。

しかし、入社した彼を待ち受けていた現実は、彼のそんな甘い考えをすぐに打ち消してしまった。

「この会社を選んだのは、失敗だったのか?」


そんな迷いから救ってくれたのが、直属の上司・篠塚だった。

「少子高齢化は、我が国にとって最も深刻な問題の一つだ」

篠塚が言った。

「君がこれから半生を賭けて取り組むテーマとして」

「これほどやりがいのあることが、他にあると思うか?」

「解決することがいかに困難か、その理由を並べるのではなく」

「解決できたとき、この世の中がどう変わるか」

「イメージを膨らませることが大事なんだよ」


彼はそれから、「愚痴ばかり言うのはやめよう」と決心し業務に精一杯取り組んだ。

そして、時が経ち篠塚は社長となり、朝霧は役員昇進の打診を受けるような年齢にもなっていた。

社長が最も信頼する幹部候補であった。


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3.財務省との折衝

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【厚労省大臣室】


介護大手「ライフケアホールディングス」

社長:篠塚祐介と、同社政策渉外部長:朝霧将生(翔の父)が、介護業界の厳しい現状を訴えに厚生労働省を訪れていた。


「今日は『意見交換』ということで」

須藤大臣が言った。

「ただし、財源の話は簡単じゃないので」

「そこは理解してください」

「承知しています、大臣」

篠塚社長が答えた。

「ただ、現場はもう限界です」

「離職率は過去最悪」

「夜勤要員が確保できず」

「施設の新規開設すら見送らざるを得ない状況です」

篠塚は、分厚い資料を机に置く。

そこには、各施設の夜勤体制の崩壊寸前の実態が並んでいる。


「しかし、介護報酬の引き上げは財務省が...」

厚労省・田村老健局長が言った。


「田村局長」

朝霧が口を開いた。

「財務省が渋るのは、『効果が見えない』からです」

「だからこそ、人件費比率の下限設定を制度化すべきなんです」

「『報酬を上げても賃金に回らない』という疑念を消せます」


田村が、一瞬黙る。

官僚としては、痛いところを突かれた。


「......つまり」

須藤大臣が聞いた。

「報酬を上げる代わりに」

「企業側も『賃金に確実に回す』と言うのですか?」


「はい」

篠塚社長が答えた。

「我々も『現場に回らない』と言われるのは本意ではありません」

「最低人件費比率を制度化するなら、全面的に協力します」


大臣は、腕を組む。

政治家としての計算が、始まる。

「介護職の賃金底上げは、世論受けがいい」

「でも財務省は反対する」

「党内の保守派も『バラマキだ』と言うだろう......」

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【朝霧の提案】


朝霧が、静かに口を開く。

「大臣」

「来年度の予算編成前に《介護人材確保パッケージ》」

「つまり、介護の働き方・給料・キャリア・テクノロジー・外国人材などを」

「まとめて改善する『総合パッケージ』を打ち出して」

「介護の仕組みが変わり『自分の未来が守られる』ことを示せば」

「若い世代の支持を確実に得られます」

「しかも、財務省には『人件費比率の義務化』という」

「『規律強化』をセットで提示できる」


大臣の目が、わずかに動く。

政治家としての「勝ち筋」が見えた瞬間だ。

「......なるほど」

須藤大臣が言った。

「財務省には『規律強化』」

「世論には『介護職の処遇改善』」

「党内には『企業の協力を取り付けた』と説明できる」


篠塚が、深く頭を下げる。

「大臣」

「現場は、本当に疲弊しています」

「どうか、政治の力で前に進めてください」


大臣は、ゆっくりと立ち上がり窓の外の霞が関のビル街を見つめる。

「......わかりました」

「老健局と調整します」

「ただし、これは『あなた方の覚悟』も問われる政策ですよ」

篠塚と朝霧は、同時に頷いた。

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【官邸・総理執務室】


須藤大臣は、「ライフケアホールディングス」の2人と別れた後、その足で藤堂総理へ同社の申し出内容を報告するとともに、大臣自身の対応方針を説明した。


「来年度の予算編成で」

「介護人材確保を『政府全体の優先課題』として扱っていただく」

総理の了承を求めた。


藤堂は、須藤大臣の並々ならぬ決意を感じ取っていた。

そして、力強く答えた。

「是非とも、その方向でやってください」

藤堂は、心の中で思った。

*お父さんは、頑張っているみたいだな*

*大丈夫*

*あの大物族議員・大河原氏を手玉にとった須藤大臣だ*

*きっとうまくやってくれるだろう*


窓の外、東京の空が広がっていた。

*父は、今も介護の現場で戦っている*

*私も、総理として*

*この問題を解決しなければ*


藤堂は、決意を新たにした。

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【深夜・財務省・主計局】


霞が関のビルは、ほとんどのフロアが暗い。

だが、主計局の一角だけは蛍光灯が白々と光っている。

分厚い予算資料が積み上がり、コーヒーの匂いと紙の擦れる音だけが響く。


そこに、須藤厚労大臣と田村老健局長が入ってきた。

「須藤大臣」

中條(主計局・社会保障担当参事官)が言った。

「この時間に『ご相談』とは珍しいですね」

声は丁寧だが、目は笑っていない。


「介護人材の処遇改善について」

須藤が言った。


「財務省の理解をいただきたい」

中條は、資料をめくりながら淡々と答える。

「理解はしています」

「しかし、財源は有限です」

「介護報酬を上げれば、10年後には兆単位の増加になります」


「だからこそ」

田村が言った。

「人件費比率の下限設定を導入するのです」

「報酬を上げても賃金に回らないという、財務省の懸念を払拭できます」


中條は、鼻で笑う。

「『規律強化』を言えば、我々が納得するとお思いですか」

「問題はそこではない」

「介護業界は、構造改革が不十分なんです」


「構造改革は、進めています」

田村が反論した。

「しかし、現場の離職が止まらない」

「このままでは、施設が運営できなくなる状況なんです」


中條は、資料を閉じ田村をまっすぐ見る。

「大臣」

「『現場が大変だ』という話は、毎年どの省も言います」

「しかし、我々が見るのは『数字』です」


須藤は、一歩前に出る。

「中條参事官」

「あなた方が数字を見るのは、当然です」

「でも、数字の裏にいる人間を見ているのは我々です」

「介護職がいなければ、制度は崩壊する」

中條の表情が、わずかに動く。

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【須藤の政治判断】


須藤は、話を続けた。

「そして、これは単なる『予算要求』ではありません」

「政治判断です」

「来年度の予算編成で、介護人材確保は」

「『政府全体の優先課題』として扱います」

主計局の空気が、一瞬止まる。


「......大臣」

中條が言った。

「『政治判断』を盾にされると、我々は反論できません」


須藤は、静かに頷く。

「だからこそ、財務省にも『勝ち筋』を用意したい」

「人件費比率の義務化は、あなた方が求める『規律』そのものだ」


中條は、しばらく沈黙しやがて深く息を吐く。

「......わかりました」

「ただし、増額幅は最小限です」

「その代わり、『人件費比率の義務化』は必ず実施していただく」


須藤は、微笑む。

「結構です」

「あなた方の『規律』と、我々の『現場』」

「両方を守る道を探しましょう」


中條は、資料を閉じ立ち上がる。

「では、明日の折衝で『合意案』として提示します」

須藤と田村は、深く頭を下げた。

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【廊下】


廊下に出ると、田村が言った。

「大臣、ありがとうございました」

「いえ」

須藤が答えた。

「政治家の仕事です」

「数字と人間」

「両方を見るのが、政治家の役割です」


窓の外、東京の夜景が広がっていた。

*介護の現場を守る*

*それが、政治の使命だ*

須藤は、決意を新たにした。


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4.アイリーン・プロジェクト

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【田中邸】


田中は、時々AIのミネルと最近の世界情勢について話をしている。


「北朝鮮という国は」

ミネルが言った。

「工作員をあちこちの国に送り込んで、スパイ活動をしているってことは知ってるわよね」

「最近のニュースで知ったんだけど」

「北朝鮮のIT工作員が、AIを使ってヨーロッパやアメリカの大手企業で職を確保して」

「給料をもらっているというの」

「コロナ禍以降、従業員がリモートで仕事をする企業が急激に増えたじゃない」

「そこで、北朝鮮の工作員がリモートワーカーを装って仕事をもらって」

「外貨を稼いでいる」

「工作員は、AIを使って偽名で欧米人になりすましているのよ」


「その手口は」

ミネルが説明した。

「欧米風の偽名を使って、パスポートなどの身分証明書をAIで偽造する」

「学歴もでっち上げ、書類で採用担当者を欺いた後」

「リモート面接では、自分の顔にアバターやマスクを重ねて架空の人物になりすます」

「これを、外貨稼ぎのために国家事業としてやっている」


「AIの悪用も、進んでいるということだな」

田中が言った。


「そうなのよ」

ミネルが続けた。

「ところで丈太郎、『ハイブリッド戦争』って知ってる?」


「聞いたことがあるような気もするが......」

田中が答えた。

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【ハイブリッド戦争】


「ハイブリッドカーと言えば」

ミネルが説明した。

「電気とガソリンの両方を組み合わせて走る自動車よね」

「ハイブリッドは、異なるものの組み合わせという意味なんだけど」

「『ハイブリッド戦争』は、通常の軍事力、つまり戦車やミサイルだけでなく」

「非軍事的な手段も組み合わせて、相手国を弱体化・混乱させる戦い方のこと」

「最近の戦争では、主流になりつつあるの」


「通常の軍事力以外とは、どんなことをするんだ?」

田中が聞いた。


「うそのうわさを広める」

ミネルが答えた。

「ネットを攻撃する」

「電気や通信を止める」

「仲間じゃない人を使って、こっそり混乱させる」

「などの方法が使われている」


「『ハイブリッド戦争』の怖いところは」

ミネルが続けた。

「ふつうの戦争みたいに『はい、今から戦争です』と、はっきりしないことなのよ」

「だから——」

「だれがやったのか、わかりにくい」

「いつ始まったのか、わかりにくい」

「国だけでなく、ふつうの人の生活にも影響が出る」

「という厄介な戦争なのよ」


「じゃあ、戦国時代の『やあやあ我こそは...』みたいな戦じゃあないということだな」

田中が言った。


「笑い事じゃあないのよ」

ミネルが言った。

「あなたたちは、そういう時代に生きていることを」

「よく考えないといけないということが言いたかったのよ」


「『ハイブリッド戦争』という名前は忘れとったが」

田中が言った。

「そういう話は、以前磯村から聞いたことがある」

________________________________________

【藤堂の訪問】


そこへ、夫人が来て田中に告げた。

「誠司さんが、いらしたわよ」


「田中さん」

藤堂が言った。

「先日、許可をいただいたのでトルグのことを4人に話しましたよ」

「もちろん全員が、協力を約束してくれました」


「呼びつけてすまなかったが」

田中が言った。

「実は、総理に秘密にしていたことがあってな」

「内容が内容だけに、時期が来るまでは話すべきではないと黙っておった」


「数年前から、ある極秘プロジェクトを進めている」

田中が続けた。

「ギリシャ神話の『平和の女神』の名をとって」

「『アイリーン・プロジェクト』と言うんだが」

「事前の研究とシステム構築作業が終わって」

「活動開始のめどが立ったと報告を受けたので」

「総理に話すことにした」

「これから話すことは、もちろん極秘事項だ」

「絶対に知られてはならんぞ」


田中は、藤堂に『アイリーン・プロジェクト』を開始したいきさつと、その内容を説明した。

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【回想・数年前田中邸】


磯村は、要注意国がサイバーテクノロジーをますます進化させている現状に危機感を覚えていた。

そこで、自分の考えを思い切って伝えるしかないと意を決し、田中邸を訪れた。


「オヤジ」

磯村が言った。

「今、世界を制する武力とは何だと思われますか?」

「核だけではないんです」

「今、世界で起きている『新しい戦争』について、お話しします」


田中は、湯呑みを置きゆっくりと振り返る。

「新しい戦争だぁ?」

「磯村、お前の言うことはいつも難しい」

「わしに分かるように話せ」


磯村は、微笑みPCを開く。

「オヤジ」

「今の戦争は、銃もミサイルも使わずに始まります」

「代わりに使われるのが——『電波』と『コード』です」


田中は、眉をひそめる。

「コードって、あのパソコンの文字の羅列か」

「そんなもんで、国が動くのか?」


「動きます」

磯村が答えた。

「中国、ロシア、北朝鮮......」

「彼らは、国家ぐるみでサイバー攻撃を仕掛けています」

「電力網、銀行、通信、衛星、選挙......」

「どれか一つ止まれば、国は簡単に混乱します」

磯村は、画面に世界地図を映し赤い点が瞬く。

「これは、ここ数年で確認された国家級のサイバー攻撃です」

「毎日、何千回も攻撃が飛んできます」

「日本も、例外じゃありません」


田中は、しばらく黙り湯呑みを持ち直す。

「......日本は、守れてるのか?」


「防御は、急速に強化されています」

磯村が答えた。

「でも、攻撃側の進化が速すぎる」

「追いつけていないのが、現実です」

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【磯村の提案】


磯村は、PCを閉じ田中の正面に座る。

「オヤジ」

「『トルグ』は、世界中にエージェントを置いて」

「政変や武力衝突の予兆を掴んできました」

「でも——これからの脅威は、目に見えない場所で起きます」


「......サイバーの世界か」

田中が言った。


「はい」

磯村が答えた。

「だから、提案があります」

「世界中から、腕の立つエンジニアを密かに集め」

「『トルグのサイバー研究拠点』を作りたいんです」

「場所は一か所に絞り、極秘で運営する」

「中国、ロシア、北朝鮮......」

「彼らの上を行く技術を持たなければ」

「世界平和どころか、日本すら守れません」


田中は、深く息を吐き目を閉じる。

その表情には、かつて裏社会を生き抜いた男の直感が宿っていた。

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【田中の決断】


「......磯村」

田中が言った。

「龍一が生きていたら、同じことを言っただろうな」

「『世界平和』なんて大それたことを掲げたのは」

「わしと龍一の若気の至りだと思っていたが......」

「どうやら、まだ終わっちゃいなかったらしい」

田中は、ゆっくりと立ち上がり磯村の肩に手を置く。

「やれ」

「トルグは、時代に合わせて変わらにゃならん」

「金は用意する」

「磯村、お前が先頭に立て」


磯村は、深く頭を下げる。

「必ず......世界を守ります」

新たな「トルグ」の時代の幕開けを、真っ赤な夕日が照らしていた。

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【現在・田中邸】


藤堂は、田中の話を静かに聞いていた。

「アイリーン・プロジェクト...」

藤堂が呟いた。

「サイバー戦争への備えか」


「そうだ」

田中が頷いた。

「これからの戦争は、目に見えない場所で起きる」

「トルグも、時代に合わせて進化しなければならん」


「わかりました」

藤堂が言った。

「私も、できる限りの協力をします」


窓の外、東京の夜景が広がっていた。

*核兵器だけが脅威ではない*

*サイバー攻撃*

*ハイブリッド戦争*

*新しい時代の脅威に備えなければならない*

藤堂は、決意を新たにした。


*世界平和への道はまだまだ続く*

*しかし、諦めない 必ず、実現させる*

藤堂の目には、強い光が宿っていた。


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第23話 完

次回:第24話「中東に野菜畑を」

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