感情というものは、行動によって変わるんだなぁ
リヒトが部屋で一人、ロゼ姫との話を反芻していると、扉が叩かれた。
慌てて返事をすると、扉が開かれる。
そこに立っていた人に、流石に驚いてしまった。
「か、カガミヤさん!?」
※
なんか、俺、ロゼ姫にここに来るように言われて素直に来たら、リヒトが一人だったんだが……。
え、これ、どうすればいいんだろう。
何か言えばいいのか、俺。でも、何を?
一人で黙々と考えていると、リヒトが勢いよく俺を呼び、顔を上げた。
「カガミヤさん!!」
「ん? どうしたんだ?」
「カガミヤさんは、私達黎明の探検者と共に行動してくださっておりますが、カガミヤさん自身はどう思っているのでしょうか」
…………ん?
「お前は、いつも唐突に意味が理解できない質問をするなぁ。意図がわからんぞ、何を思っての質問だ?」
何を求めているんだ?
ま、まったくわからない……。
「カガミヤさん、強いじゃないですか」
「チート魔力と魔法を手に入れたみたいだからな」
「精霊もいて、一人で何でも解決してしまいます」
「お、おう……?」
リヒトが気まずそうに俺から目を逸らし、膝に置いている手を強く握っている。
なんだろう、怖いな。この後、何を言われるんだ?
「貴方はもう、私達と居る必要性がないと思うんです。メリットがない。なので、カガミヤさんが今、何を思って私達と共に行動してくださっているのか、少し気になったのです」
悲観しているような表情でリヒトがそんなことを質問してくる。
そんなこと言われても、流れというか、ノリというか……。
具体的な説明が出来ないんだが……どうしよう、これ。
「えっと、なんで今更そんなことを聞いて来るんだ?」
「さっき、ロゼ姫様と少しお話していたんです。”冒険者は、誰か一人が強くなればそのチームが強いという訳ではない。仲間を心から信じ、お互い高め合えてこそ、本当の強さ”と、教えてくださったんです」
おぉ、さすが姫様。
めっちゃええこと言うやん。
「その時、私は納得したのです。ですが、よくよく考えると、カガミヤさんと私では釣り合いが取れないのです。高め合えるほど、私は強くもなければ、信じていただけるほどの実力がありません。そう考えてしまうと、私はカガミヤさんと共に行動するにはあまりに弱くて、役立たずなんじゃないかと考えてしまったのです」
あーーーーーーーー。なるほどねぇぇぇぇぇえええ。
これは、一つでも言葉を間違えると、リヒトが立ち直れなくなる。
言葉は慎重に選ばなければならなくなった。
さて、誰か助けてくれ、この俺を。
そんな質問の適切な回答、俺に求めるな。相手を間違えている。
内容的に俺が一番適切ではあるが、性格的に俺にしていい質問では無い。
「えっとぉ…………」
リヒトが本気で悩んでいるのが表情でわかるから、話を逸らすわけにもいかないし。でも、間違えた言葉を言ってしまうと、リヒトが今以上に落ち込んでしまう。
なんとか、こいつが落ち込まないように言葉を選ばなければならない。
考えろよ、俺。
――――――っ、て。あれ?
俺、今、リヒトが落ち込まないような言葉を探しているのか? なんでだ?
正直、俺自身にはこいつが落ち込もうがどうなろうが知ったことではない。
今後の活動に少々支障は出すかもしれないが、ここまで本気で悩む必要はないだろう。
なぜ俺は、ここまで本気で考えているんだ?
「…………あの、カガミヤさん?」
顔を俯け考えていると、リヒトが震える声で名前を呼んできた。
呼ばれても、俺は今すぐに返答が出来ない。
言葉が出てきていないし、自身の今の感情に戸惑っている。
「あ、あの。すいません。まさか、ここまで困らせてしまうなんて思っていなかったんです。あの、聞き流していただいて大丈夫なので……」
「いや、お前の質問内容にも確かに困ったが、それだけではない」
「それだけではない?」
「おう。お前が何を思っていても俺自身には特に関係ないから、難しく考えず答えればいいだけだろう。今回の質問」
今の言葉にリヒトは顔を引きつらせている。
素直に言い過ぎたか。
「それより、俺は今、言葉を考えていたなって思って」
「言葉を考えていた? つまり、私が傷つかないような言葉を選んでくださったと? それって、カガミヤさん自身は私が傷つくようなことを思っていたということですね。そうですよね、私は回復しか出来ないただの落ちこぼれですもんね。属性魔法すらない、ただの、役立たずです。カガミヤさんの優しさが体にしみわたります」
あー、そっちに行ったかぁ。
「そういう訳じゃなかったんだが……。まぁ、これが答えかもしれないな」
「え、なんのですか?」
「お前の、質問の答え。最初の時の俺は、お前らを利用して、現状から抜け出したい。その一心だったんだよ。利用しているだけだったんだ。だが、お前らの正直な言葉や行動。人を思える気持ちに触れているうちに、俺も情が湧いてしまったらしい」
最初の俺と比べると、断然今の方が甘い考えになっている。
利用しようとしていたリヒトとアルカを傷つけないように、自分で言葉を選び行動していた。
しかも、無意識。
「…………えっと」
「つまり、今の俺は、お前らを利用しているのではなく、利用出来るとかでもなく。俺が、お前らと共にいたいから共にいる。お前らがどんなに弱くても、人を温められるお前らから離れるなんて考えもしていない。これが答えでは、物足りないか?」
リヒトを見ると、我慢していたのか。
涙がぽろぽろと流れ、嗚咽を漏らしていた。
話している途中で思い出したが、リヒトはアルカと出会う前、他のチームに所属していたらしいが、自身が属性魔法すら使えないことで捨てられたんだったな。
おそらく、俺が強くなることで、こいつは自分が捨てられる、そう思ったんだろう。だから、捨てられる前に、自分から離れようとか考えたんかな。
目を擦り涙を拭いているリヒト、目が痛くなりそうだな。
「これこれ、目が痛くなるぞ」
リヒトの手首を掴み離させると、やっぱり赤くなっていた。
でも、まだ涙が流れ続けている。
ハンカチなんてもんはないしなぁ、袖で拭こう。
「ほれほれ」
「むぐっ! あ、あの、服が汚れてしまいますよ!」
「これは後で洗濯すればいいからな。それより、泣き止んだか?」
お、涙は止まったみたいだな。
良かった良かった。
「あ、あの…………」
「ん?」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
リヒトの顔を覗き込み、頭をなでてやると嬉しそうに微笑んだ。
まだ涙の跡は残ってしまっているが、安心したみたいだな。
お互いに笑っていると、部屋の扉が開いた。
「リヒト、カガミヤはどうっ――…………」
――――――カラン
扉を見ると、固まっているアルカの姿と、その後ろでヒュース皇子が口をパクパクと動かし俺の方に指を差している姿があった。
なんで、そんなに驚いているんだ?
「ま、まさか。二人っきりを利用して、チサトはリヒトを、口説いて…………?」
口説く?
なんでそうなるんだ。
なんで俺がそんなことを言われなければならないんだ?
改めて自身の体勢を見ると、あぁぁあ、うん、納得。
リヒトとの距離は近く、左手は手首を掴んだまま。
右手は頭を撫でており、リヒトの顔は涙の跡。
これは、勘違いするわ。
「へ、くどいっ――…………」
「断じて口説いてはいない。俺は、まだこいつのためにお金を使いたいと思ったことはない。俺が女性を彼女にしたいと思う基準は、その人にお金を使ってもいいかどうかだ。リヒトに対してそのように思ったことは今までないから、俺が口説いていたという事実はありえない」
リヒトから手を離し距離を取りながら言うと、俺を疑っていた二人は納得してくれたが、隣から殺気が放たれる。
鋭い視線という生易しいものではなく、殺気。
え、殺気???
アルカとヒュース皇子が顔を真っ青にして、俺の隣を見ている。
…………おそるおそる隣を見ると、いたのはリヒトではなく、般若の面をかぶった化け物だった。
「カ~ガ~ミ~ヤ~さ~ん~。今のはいくらなんでも酷いんじゃないですか??」
「い、いや、ほら。勘違いされたままだと、これから行動しにくいだろ? な? だからここまでのことを言った方がいいかなって、そう思って……だな……」
後ろに下がるが、リヒトの目が俺を離してくれない。
だが、距離さえ離れれば俺は逃げきれっ――……
――――――ガシャン
「ん? え、足に、鎖?」
「逃がしませんよ、カガミヤさん?」
あ、般若の微笑み。
リヒトは、自分が弱いとか思っているみたいだが、絶対にそんなことはない。
だって、気配をまったく感じさせないまま、chainを発動させ俺の両足を掴み動きを封じたのだから。
何とか外そうとしゃがむと、上から影が差す。
向くと、近距離に般若……リヒトが見下ろしていた。
「さぁ、何か言うこと、ありませんか?」
「…………ゲンキニナッテヨカッタヨ」
「ありがとうございます。ですが、違いますよね?」
────ガシャン
……………………俺の両腕に鎖が巻かれたことにより、死を覚悟する以外の選択肢がなくなりました。
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