怒りに身を任せるとロクな事にならないが、今回は別な話だ
ボタボタと、もう生きていないショスを床に落とす。
平然としているのが気色悪い。
…………あ、待てよ。
フェアズって事は、ヒュース皇子とオスクリタ海底の姫について知っているはず。
今話す事ではないが、今しかない。
それと、今回の感染症についても、聞きたいことが山ほどある。
簡単に答えるとは思っていないが、聞くだけならいいだろ。
「…………なぁ、村や国、町を一番に考えているのなら、何故グランド国に広がっている感染症について何も解決しようとしない。管理者であるお前なら、簡単に原因を突き止め、今のように一瞬でぐしゃっと出来ただろう。なぜ、それを今までしなかった」
聞くと、フェアズは不敵に笑った。
「簡単な話よ。私達管理者は、この世界の管理をしているけれど、それだけ。私の場合は村や国、町を守るだけでいいの。その中で暮らしている人はどうでもいいわ。簡単に言うと、土地だけを守れれば私は満足」
それって、人はいくらでも死んでいいが、その村を作っている土地とかは必ず守る。そういう事か?
村や国、町を管理という事は、そこに住んでいる人も一緒に守るという事じゃねぇの?
「納得出来ていない顔を浮かべているわね。なぜ、土地を守るのに、人は守らないのか。それを考えているのかしら?」
「…………だったら、お前はなんて答える」
「守る価値が無いから――かしらね」
守る価値がない? 人が? なぜ?
普通、土地より人の命を守るだろう。そっちの方が守る価値はあるだろう。
「もっとわかりやすく説明しようかしら。土地は、あればあるだけ価値になるわ。栄えている土地は、交渉の材料に。過疎化されているところは捨てて、また違う物を手に入れる。どっちにしろ使い方はあるわよね?」
考え方は、なんとなく理解出来るが……。
「でも、人はどうかしら? 貴方のように強い方は、いくらでも価値があるから全力で守りたいと思うわよ。でも、貴方の周りにいる方達はどう? 使い道、あるかしら? 見たところ、魔力量も力も、知里さんより低い。弱いわねぇ、守る価値はないわ」
…………ふぅ、落ち着け、こいつの挑発に乗るな。
頭に血を登らせるな、握っている拳を収めろ。
ふつふつと湧き上がる怒り、魔力。
全て、収まれ。今は、取り乱す場面では無い。
「私は、私にとって価値のある者しか守りたくないの。だから、知里さんは全力で守るわ。でも、それ以外は、どうなってもいいの。弱い者は生きている価値すらないもの」
「そんなことは無い、人それぞれ、また違った価値がある。その価値を、他人が勝手に決めていいものでは無い」
人の価値は、誰にも分からない。
他人はただの他人。他人に価値なんて見出そうとしない。
だが、俺が他人と思っているだけで、そいつにも家族がおり、友人がいる。
まったく価値の無い人は、存在しない。
「あら、否定するなんて思わなかったわ。だって、貴方と同じよ? 貴方も、お金になる方を助けたいと思うでしょう? 土地の方がお金になるとしたら、貴方なら迷わずそちらを選ぶ。貴方は、私と同じ。ね?」
赤い唇を横に引き伸ばし、同意を求めるように手を伸ばしてくるフェアズ。
その時、俺の中でぎりぎり堪えていたナニカが、プツンと。音を立て切れたような気がした。
――――――もう、だめだな。
フェアズが何を言っているのかわからない。
俺とあいつが同じ?
へぇ、俺は周りからしたら、あいつと同じと思われているのか。
体から、抑えきれないほどの魔力が溢れているのを感じる。
手が勝手に魔導書を開き、魔力を込め始める。
「な、なに……。この、魔力……」
驚愕しているフェアズは、対抗しようと同じく魔力を込め始めた。
けど、残念。俺の方が、早いぞ。
「――――――|Dragonflame」
右手に集まる強い魔力は、赤い炎へと切り替わる。
炎は竜の顔を作り、俺の怒りが込められている竜の瞳は、フェアズに向けられた。
ショスなど、簡単にの目込めるほどに膨らんだ炎の竜が、大きく口を開いた。
――――――ガァァァァァァァアアアアア!!!!
「これは、私ではちょっと、相手できないわね…………。まさか、ここまでの魔力を持っていたなんて…………」
顔を引きつらせ、後ずさる。
今更ビビっても遅い、お前は俺を、怒らせた。
「お前は、人の命と金を、天秤にかけた。一番、天秤にかけてはいけないものをかけたんだ。人の命は、誰にも代えられない。金を手に入れても、人の命がなくなるのなら、そんなゴミなんて、いらない。──行け」
天にまで上りそうな程大きくなった炎の竜を、フェアズに向けて放った。
逃げるため走り出すが、遅い。俺の魔法の方が早い。
大きく開かれた口は、逃げているフェアズをいとも容易く飲みこんだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」
森に響き渡るフェアズの悲鳴と、轟音。
俺が最後に見たのは、赤き炎に包まれる森だけだった。
突如襲ってきた睡魔と、酷い疲労により、俺の意識はここで途絶えてしまった。
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