後悔と涙
森林の中を歩く二人。
湿った地面を踏む音だけが響く。
沈黙が、重い。
耐えきれなくなったのはアマリアだった。
「……しゃべってもいい?」
フェアズの足が止まる。
ゆっくりと視線だけを向ける。
「わざわざ聞く必要ある?」
声が冷たい。
「もしかして、何か企んでいるの? 勝手な行動は許さないわよ。私から離れないこと、裏で動かないこと、怪しい真似をしないこと。全部守る約束で同行を許しているの。癪に障ることは言わないで」
「怒涛の言葉責めだね……」
「傷ついた声を出さないで。どうせ平気なくせに」
「フェアズの言葉なら、さすがに少しは傷つくよ」
「全然気にしてない顔してるけど」
小さなため息。
「それで? 何が聞きたいのかしら」
「ありがとう。今回のことだよ」
アマリアの声がわずかに真剣になる。
「ここまで独断で動けば、クロヌ様に気づかれる。覚悟の上?」
「ええ」
知っているといわんばかりに即答。
「私は世界の均衡を守るために動いている。それだけよ」
拳が握られる。
「百年前は何もできなかった。もう、あんな思いはごめんよ」
声が、怒りで低くなる。
「カケル=ルーナに不意を突かれた。五人がかりでやっと封印。もし失敗していたら……」
恐怖や悔しさを押し込めるように、歯を食いしばる。
「私は何も出来なかった。後から来たアクアの方が活躍していた。私だって、弱くないのに」
森が静まる。
アマリアは少し目を細めた。
そして、ローブから手を出し、フェアズの頬をぺち、と叩いた。
「……え?」
予想外の行動。
きょとんとするフェアズ。
「まず、前提を整理しよう」
淡々とした声。
「アクアは攻撃特化。僕達は補助寄りの魔法を得意とする。だから、そもそも、役割が違う」
人差し指で軽く示す。
「向き不向きがある。属性も相性もある。それを理解できないほど、君は馬鹿だったかな?」
「なっ……!」
怒鳴ろうとした口を、アマリアが指で押さえる。
「君は強いよ。人間の頃よりずっと。自分の出来る範囲で最大限やればいい。それで十分じゃない?」
正論。
あまりにも正しい。
だからこそ、刺さる。
指が離れる。
アマリアが歩きだした。
後ろから聞こえたのは、低い声。
「アマリアは、いいよね」
空気が変わる。
「攻撃も補助も出来る。昔からそう。何でも出来た」
魔力が滲み出る。
湿気が震える。
「掃除も料理も。私はいつも中途半端だった」
アマリアが振り返る。
嫌な気配。
「魔法も。“音”なんて便利な属性。攻撃にも支援にも使える」
殺気。
森の葉が震える。
「フェアズ、落ち着いて」
「私はもう弱くない」
声が震える。
怒りか、悔しさか。
「誰かに守られる存在じゃない!」
アマリアが手を伸ばす。
その瞬間。
――パンッ!!
乾いた音が森に響く。
伸ばした手が弾かれた。
「関わらないで!」
フェアズの瞳が揺れる。
怒りの奥に、恐怖がある。
「今回も一人でやる! 貴方は帰って!」
言い切ると同時に、姿が掻き消える。
静寂。
残されたのは、湿った森と赤くなった手。
アマリアはそれを見つめた。
じんじんと痛む。
だが、それ以上に胸が痛い。
「フェアズ……」
小さく呟く。
「君は、力を求めているんじゃない」
視線が揺れる。
「認められたかっただけなんだろう」
森が風に鳴る。
「僕は、どうすればよかった」
一瞬、泣きそうになる。
だが、首を振る。
今は立ち止まれない。
「……どこで、道を間違えた」
懺悔のような言葉を残し、アマリアもまた、風のように消えた。
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