風のように来て風のように去って行くんじゃねぇよこのやろう
「まだ、痕が残ってる」
「自業自得だろ」
「なんでだよ……」
昨日は地獄だった。
今日は気分転換に、アルカとリヒトと三人で海底都市を散歩中。
……なお、リヒトはまだ不機嫌。
甘い物でも買えば直るのか?
いや、今はそれどころじゃない。
「はぁ……ん?」
海が、揺れた。
外壁を囲う海水が、不自然に波打つ。
渦。
明らかに自然じゃない。
「チサトさん!」
振り向くと、ロゼ姫とグレールが走ってくる。
なんか、焦ってない?
「今すぐ逃げてください!!」
その瞬間、操られるように蠢いた海水が、透明の防壁を突き破った。
轟音。
水は侵入しない。
だが、“穴”だけが空いている。
そこから、黒いローブの二人がゆっくりと降り立った。
「借りを返しに来たわよ、鏡谷知里」
「……嘘だろ」
フードが外れる。
フェアズ。
アマリア。
「乱暴でごめんなさいね。でも、都市を壊す気はないから安心して」
笑っている。
ぞっとするほど楽しそうに。
「アマリア……」
アマリアは、無表情。
ただ、淡々と業務をこなしているよう。
「早く終わらせよう。無駄に魔力を使わないように」
「わかっているわよ、口出ししないでくれないかしら」
まずい、周囲は一般人だらけ。
最悪の状況。
フェアズが右手を上げた。
嫌な予感。
次の瞬間、地面が激しく揺れる。
「地震!?」
悲鳴。
転倒。
阿鼻叫喚。
グレールがロゼ姫を庇い、アルカがリヒトを支える。
俺も膝をつく。
すると、フェアズと目が合った。
「あら、素敵。混乱ってこんなにも甘美なのね」
「フェアズ」
アマリアが淡々と制す。
「目標を」
「わかったわよ……」
視線が泳ぐ。
誰を探して――
「見つけた」
嫌な直感。
「最終目標は知里。だけど、今回は違うわ」
笑みが深まる。
「この二人よ。――|herbes fouet」
地面が裂ける。
大量の木の蔓が噴き出す。
「なっ!?」
うねる。
絡みつく。
早く魔法を――……
「燃やさない方がいいわよ」
フェアズが楽しそうに言う。
「炎で焼けば、その子達も炭になるわよ?」
振り向く。
アルカとリヒトがいない。
上を向くと、空中。
蔓に拘束され、意識を失っている二人。
「おい……」
声が低くなる。
「返せ」
「無理ね。ここまで来た意味がなくなるわ」
「狙いは俺だろ!!」
「ええ。だから連れていくの」
冷たい笑みを浮かべ、フェアズが言う。
「明日までに来なさい。熱帯森林プルウィア。来なければ――どうなるかは想像に任せるわ」
「待て!!」
flameを放つ。
だが、水の膜に包まれ、二人は消えた。
静寂。
穴だけが残る。
アルカも、リヒトも、いない。
なんでだ。
俺を狙えよ。
あいつらは関係ないだろ。
拳が震える。
――明日までに来い。
つまり、今は殺さない。
深呼吸。
「すぅ……はぁ……」
怒りを飲み込む。
理性を戻す。
振り返ると、ロゼ姫が蒼白な顔でこちらを見ていた。
「チサトさん……」
「教えてくれ」
声は思ったより冷静だった。
「熱帯森林プルウィアは、どこだ?」
※
アルカとリヒトは、巨大な樹木の高所に吊るされていた。
全身を木の蔓に絡め取られ、完全拘束。
眼下には、管理者二人――アマリアとフェアズ。
ここは熱帯森林プルウィア。
見上げるほど高い樹木。
泥水、湿気。
まとわりつく熱気。
空すら見えない。
「なんでこんなことをするんだ! 俺達は何もしていない!」
アルカが叫び、蔓が軋む。
だが、びくともしない。
フェアズは笑った。
「ええ、何もしていないわ」
軽い声、感情が込められていない。
「だから、処刑人のアクアはいないでしょう? 罪人を裁くのは彼の役目。今回は違う」
「なら、何故――」
「決まっているでしょう?」
微笑みが深まる。
「私の狙いは、鏡谷知里よ」
空気が重くなる。
「百年前のカケル=ルーナを思い出させる力。あの魔力量、あの適応力。放置すれば世界の均衡が崩れる」
愉悦の色が混じる。
「だから、私が葬るの。管理者として」
アルカが俯く。
そして、ぼそり。
「……来ないかもしれないぞ」
「あら?」
「カガミヤは、来ない可能性が高い」
フェアズが首を傾げる。
「あなたたちは仲間でしょう? 薄情じゃないかしら」
「違う。薄情とかじゃない」
小さく息を吐く。
「カガミヤには、俺達を助ける“メリット”がない」
「……は?」
フェアズは思わず言葉を失う。
「金が、入らないからな」
フェアズが固まる。
隣でアマリアが、わずかに目を細める。
「なるほど、面白ね」
「何も面白くないわよ、私は」
フェアズの顔に、理解が浮かぶ。
「自分に金が入らない限り、動かないってこと?」
「そう、本人が公言しています」
リヒトも苦笑する。
「本当に?」
二人は知っている。
知里は金に執着している。
だが、それは同時に――
“基準が明確”ということでもある。
フェアズが頭を押さえた。
「ちょっと待って。そんな人間いるの?」
「いるよ」
即答したのはアマリアだった。
「知里は、カケル=ルーナより扱いが簡単に見えて、意外と難しい」
視線が冷える。
「カケルは理想で動いた。知里は欲で動く。でも、欲の方が止めにくい」
フェアズが苦笑する。
「……面倒ね」
「だから言っただろう。やめておこうって」
アマリアは淡々と言う。
「まぁ、いいわ」
フェアズが咳払いする。
「明日まで待つ。それで来なければ――」
目が細くなる。
「貴方達を消す」
空気が凍る。
「その後、お金を餌にする。あなたたちの助言通りね」
当たり前のように宣告。
アルカとリヒトの顔が青ざめる。
怒り、無力。
歯を食いしばる。
「それじゃあ、ここで大人しくしていなさい」
フェアズが背を向ける。
「逃げようとしても無駄よ。私は常に見ている」
最後に振り返り、にやりと笑った。
「鏡谷知里が来るかどうか、楽しみね」
二人の姿が、木々の影に溶けるように消えた。
残されたのは、湿った熱気と沈黙。
蔓に拘束されたまま、アルカが小さく呟く。
「……来るなよ、カガミヤ」
だがその声は、
鬱蒼とした森に吸い込まれていった。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!
出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!
よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ




