感情というものは、行動によって変わるんだなぁ
リヒトが部屋で一人、ロゼ姫の言葉を反芻していると、扉が叩かれた。
慌てて返事をする。
開いた扉の向こうに立っていたのは――
「か、カガミヤさん!?」
※
ロゼ姫に「こちらへ」と言われて素直に来ただけなんだが。
部屋にはリヒト一人。
……え、何これ。
どうすればいいの?
沈黙が重い。
すると、リヒトが勢いよく顔を上げた。
「カガミヤさん!!」
「ん? どうした?」
真剣な目。
嫌な予感しかしない。
「カガミヤさんは、私達“黎明の探検者”と共に行動してくださっていますが……ご自身は、どう思っているのですか?」
「……は?」
唐突すぎる。
「意図が読めん。何が聞きたい?」
「カガミヤさん、強いじゃないですか」
「チート魔力のおかげだな」
「精霊もいて、一人で何でも解決してしまいます」
「……まぁな? 何でもではないが」
リヒトが視線を落とす。
膝の上で手を強く握った。
「もう、私達と居る必要はないのではないかと……思ってしまったのです」
ああ。
なるほど。
「メリットがない。足手まといになるだけかもしれない。だから、何を思って一緒にいてくださるのか……気になりました」
重い。すごく、重い。
これは言葉を間違えたら終わるやつだ。
「……なんで、今それを?」
「ロゼ姫様が仰っていました。仲間を信じ、高め合うことが強さだと」
いいこと言うな、姫様。
「ですが……私では、釣り合わない」
俯いてしまった。
「高め合えるほど強くもない。信じていただけるほどの実力もない」
あーーーー。
完全に自己否定モード。
俺、こういうの一番苦手なんだが。
「えっと……」
言葉を探す。
……あれ?
俺、今“リヒトが傷つかない言葉”探してる?
なんで?
落ち込もうが知ったことじゃないはずだろ。
今後の活動に支障が出るから?
……いや、それだけじゃない。
「……カガミヤさん?」
震える声。
焦りが滲む。
「すみません。困らせるつもりでは……聞き流してください」
「いや」
顔を上げる。
「確かに困った。だが、それだけじゃない」
「え?」
「俺が今、言葉を選んでたことに、俺自身で驚いただけだ」
「……もしかして、私が傷つかないように?」
「多分な」
「つまり、私は傷つく存在なんですね」
「違う」
即否定。
「最初の俺はな、お前らを利用する気満々だった」
リヒトの目が揺れる。
「この世界から抜け出すための道具。正直、それくらいだった」
沈黙。
「だがな、お前らの馬鹿みたいに正直な言葉とか、人を思う行動とかに触れてるうちに……情が湧いたらしい」
本当に、いつの間に、なんだよなぁ。
「今は利用してない。利用できるとも思ってない」
一歩近づく。
「俺が、お前らと居たいから居る」
リヒトの瞳が潤む。
「弱いとか強いとか関係ない。人を温められる奴らから離れる気はない」
「……っ」
ぽろぽろと涙が落ちる。
あーもう。
泣くな。
「ほら、目擦るな。痛くなる」
手首を掴んで止める。
袖で雑に拭く。
「ふぁっ!? 服が!」
「洗えばいい」
涙が止まる。
「……ありがとうございます」
頭を撫でると、素直に目を細めた。
その瞬間。
ガチャ。
「リヒト、カガミヤはどう――」
固まるアルカ。
その後ろでヒュース皇子が指を震わせている。
今の体勢を見る。
距離近い。
手首掴んでる。
頭撫でてる。
涙跡あり。
……詰み。
「まさか、カガミヤが、リヒトを……口説いて……?」
「断じて違う」
即否定させてもらうぞ、これは絶対に。
「俺が女性を彼女にする基準は、その人に金を使ってもいいかどうかだ。リヒトに対してその基準を満たしたことは一度もない」
空気が凍る。
アルカと皇子は納得顔。
だが、隣から、殺気。
恐る恐る見る。
そこにいたのは、般若。
「カ~ガ~ミ~ヤ~さ~ん~?」
やばい。
「今のは、いくらなんでも酷くないですか?」
「いやほら、誤解を解くための論理的説明であってだな――」
一歩下がる。
――ガシャン。
「ん?」
足首に鎖。
「逃がしませんよ?」
にっこりと笑うリヒトが、ワイバーンより怖いと感じる。
気配ゼロで発動。
完全拘束。
「元気になって良かったな、リヒト!!」
「違いますよね?」
――ガシャン。
両腕拘束。
詰み。
「……すみませんでした」
「何がですか?」
近い。
怖い。
「金基準は撤回します」
「もっと、何かありますよね?」
終わった。
俺は今日、死ぬ。
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