こんな土壇場で新しい魔法を使うのは正直怖い
これは現代のゲームで言うなら、高難易度ランクだ。
上級者向け。制約があっても不思議じゃない。
だが、緊急脱出ができないなんて、ありえるか?
俺達に残された選択肢は二つ。
こいつを倒すか、死ぬか。
さっき手放した魔導書が、俺の頭上から落ちてくる。
同時にスピリトも前に出て、腰に手を当てていた。……怒ってるな。
『もっと私を使ってください、ご主人様!!』
そういえば、精霊ってかなり強い存在なんだったか。
よく分からないまま放置していたが、今はありがたい。
「なぁ、SSランクの冒険者さんよぉ」
「は、はい」
「SSランクダンジョンの報酬って、いくら?」
「え?」
聞くと、困惑の声が聞こえた。
そんな声を無視し、肩越しに冒険者を見る。
一瞬、肩が震えていた。
「いくらだ?」
「ダンジョンによってさまざまだが。ラムウが相手ということは、八百万ヘイトは確定だろう」
「八百万だと!?」
この場に響き渡るほどの声を出してしまった。
みんな耳を抑えているが関係ない。
「八百万、本当だな!? 八百万は確実なんだよな!?」
「カガミヤ待て待て!! この人は危険な状態なんだぞ!! そんな揺さぶるな!!」
アルカに無理やり引きはがされた。
「八百万、今回のモンスターは、八百万……へへ、へへへへ」
やばい、危険な状況なのは頭で理解しているが、にやけが止まらない。
「な、なにを笑ってるんだ、あいつは……。怖いぞ」
「気にしないであげてください……」
よし、覚悟は決まった。
SSランクだろうと、なんだろうと、八百万。
俺は、八百万のために戦う。
「覚悟しやがれ八百万!!!」
「ラムウな、八百万が名前じゃない」
アルカに冷静に突っ込まれたところで、スピリトに向きなおす。
「じゃあ、スピリト。俺の動きに合わせてくれるか?」
『わかりました!! ご主人様!!』
こいつも八百万が欲しいんだな、うれしそうだ。
「アルカ、どのくらい動ける?」
「まだまだいけるぞ!!」
鼻息荒く宣言する。
よし。俺も気合を入れ直す。
さっきの様子だと、跳躍は時空をねじ曲げられて、あらぬ方向へ飛ばされるらしい。
遠距離は危険かもしれない。
なら近距離戦に持ち込む?
だが、俺は近接向きじゃない。
一応、武器屋で買った手袋はつけている。
だが未使用。今試すのはリスクが高い。
……いや。
ここでリスクを恐れていたら八百万は手に入らない。
あの武器屋の女は言っていた。
この手袋をはめていれば、属性魔法を拳に纏わせられる、と。
炎か、水。
水は威力が低そうだ。
やるなら炎。
「アルカ、今回はお前主体だ。俺とリヒトは援護に回る。いけるか?」
「わかったぞ!」
「よし――」
ラムウが突進してきた。
俺とアルカの間を横切り、背後へ回る。
巨体が動くだけで風圧が凄まじい。
「アルカ、行くぞ!」
「おう!!」
魔導書を開き、集中しようとした瞬間――
「……ん? なんだあれ」
ラムウの周囲に、黒い球体が五つ。
ブラックホールみたいだ。
次の瞬間、それが俺に向けて放たれる。
っ、吸引力!?
体が引き寄せられる!
「っ、flame!!」
地面に撃ち込み、爆風で距離を取る。
爆風すら一点に吸い寄せられている。
「ほんと、厄介だな……」
あれ、五つあったはずの球体が一つに?
――違う。
一つが巨大化している。合体したのか!?
「反則だろ!!!!」
再び放たれる。
どの魔法で――
「|groundspada!!」
アルカの地の剣が、黒球を切り裂いた。
物理でいけるのか!?
「大丈夫か、カガミヤ!」
「問題ない、助かった!」
ラムウが高く鳴く。
次の大技が来る前に仕掛ける。
「アビリティ!」
『はい』
「今すぐ使える魔法を選定、発動補助しろ!」
『取得魔法を確認――完了』
呪文が頭に流れ込む。
「turboflame」
魔導書未接続。発動が重い。
だが、アビリティの選択だ。信じる。
ラムウが噛みつこうとした瞬間――足元に炎の渦。
「燃え上がれ!!」
右手を掲げると同時に、炎の竜巻が立ち上がる。
ラムウを包み込み、拘束する。
中から叫び声。
――効いている。
「このまま焼き切って――」
――――キュアァァァァァァァァアアアア!!!!
「耳、いってぇ!! さすが八百万。咆哮が二百万とは違う!」
衝撃波で炎の竜巻が霧散した。
すべて弾かれた。だが、時間は稼げたはず。
ラムウの背後には、剣を構えたアルカ。
息を潜め、死角から仕掛けようとしている。
気配を消し、音もなく跳躍。
剣が届く距離まで落下すると、横一線に振り抜いた。
――――ガキン!!!
「えっ」
「は?」
アルカの地の剣が防がれた?
いや、皮膚が硬すぎて刃が通らなかった、というべきか。
まずい。アルカは空中だ、身動きが取れない!
ラムウが気づき、口を開く。食われる!
「スピリト!!」
『お任せください、ご主人様!!』
スピリトがアルカの前に飛び出し、炎を吐く。
だが同じ攻撃は通じない。時空を歪められ、逸らされた。
今の炎はどこへ――
「っ、俺の上かい!! wavewater!!」
全方位に展開できる水属性魔法。
足元から発動させた水を上空へと巻き上げ、降り注ぐ炎を相殺する。
「このまま呑まれやがれ八百万!!」
波をそのままラムウへ向かわせる。
歪曲されてもいい。アルカの着地時間さえ稼げれば――
っ、ラムウの黒い瞳と目が合った……?
「……あ?」
避けた?
歪ませない?
俺が追尾操作している波を消そうともせず、逃げ続けている。
――――ギャウァァァァァァアアアア!!
球体を三つ出し、波を吸わせた。
なるほど。
広範囲攻撃は“返せない”のか。
アルカは無事に着地。
リヒトも俺の背後に合流した。
「カガミヤさん! 私も参戦します!」
「男は大丈夫か?」
「自力で動ける程度には治しましたので、そんまま逃げてもらいました」
「よし」
スピリトも首元にしがみついてくる。
震えているが、踏ん張っている。
「三人で仕留めるぞ。さっき偶然、八百万の弱点を見つけた」
「もう、ラムウという名前がカガミヤの中から消えてる……」
「えぇっと、弱点ってなんですか?」
「あいつは広範囲攻撃に弱い。俺のwavewaterを歪めず、球体で吸わせたのが証拠だ」
広範囲なら反射できない。
「だが、広範囲は威力が低い。あの皮膚は岩の何十倍も硬いぞ」
……その通りだ。
削り合いでは魔力が先に尽きる。
一撃で仕留める策が必要。
考え込んでいると、アルカが言った。
「俺が隙を作る。最後はカガミヤが決めてくれ」
「作戦は?」
「ある。リヒト、chainを貸してくれ」
「……あ、なるほど。了解!」
何をする気だ?
「任せたぞ、カガミヤ!!」
「ちょ、説明してから行け!!」
本当にあいつは――!
「リヒト、あれは?」
「大丈夫です。見ていれば分かります」
不安しかないんだが。
ラムウは着地し、アルカへ照準を合わせる。
「リヒト!!」
「うん!!」
杖が強く発光。
今までで最大級の魔力。
だがチェインを借りると言っていたはず――
ラムウが球体を生成、アルカへ放つ。
「chain!!」
洞窟に響く声。
ラムウを囲うように、四方から鎖が放たれる。
球体は鎖に触れ霧散。
鳥籠のような鎖の檻が完成し、ラムウを拘束した。
「これは……」
リヒトは魔力を送り続けている。
瞳を閉じ、全力で維持。
アルカは鎖を見て笑い、跳んだ。
「持久戦だ、ラムウ! どっちが先にばてるか勝負だ!!」
鎖を足場に駆ける。
「あ、え……?」
速すぎる。
鎖を掴み、蹴り、軌道修正しながら立体機動。
「はぁ……」
リヒトの顔色が悪い。
なるほど。
アルカの体力と、リヒトの魔力を同時に削る連携か。
リヒトが力尽きれば、アルカは落ちる。
「……もう少しだけ持ってくれ。――アビリティ」
『はい』
「turboflameを即座に魔導書へ添付。他に使える魔法も全部だ。急げ」
『はい。チサト様の魔法を、魔導書にすべて添付します』
――――ん? 全部?
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