俺は何も言っていない
精霊を見せると、アマリアが目を見開き、そのまま固まった。
だが、すぐに気を取り直し、無表情へ戻る。……冷静だな。
「まさか、精霊まで引き継いだ……わけじゃないよね。今回のダンジョンで手に入れたのかな」
「そうだよ。財宝を期待していた俺からすれば、残念極まりない代物だ」
『酷いです、ご主人様ぁ~~』
泣きそうな顔を向けられてもなぁ。
機嫌を損ねたスピリトの頭を撫でると、アマリアが顎に手を当てて首を傾げた。
「精霊より財宝の方が良かったなんて言う人、初めて見たよ。普通は精霊の方が嬉しいものだけどね。精霊が潜んでいるダンジョンは少ないから」
「あ、そうなんだ。でもなぁ、やっぱ財宝の方が良かったんだけ――……あ、ごめん。ごめんって。だから泣くなって」
とうとう泣き出したスピリトを慰めていると、アマリアがじっとこちらを見てくる。
……何だよ。視線が痛い。
「懐かれているみたいだね」
「嬉しくないけどな」
まぁ、これから報酬のために酷使する予定だし、別にいい。
「精霊は大事にした方がいい。何があっても助けてくれる存在だからね」
「見返りがあるなら一緒にいるけどな。売り飛ばすのも面倒だろうし」
「売れる場所なんて普通は存在しないよ」
「闇市ならいけそうだけど」
「裏社会の人間なら欲しがるかもね。あとは――僕、とか」
「…………は?」
今までほとんど動かなかった口角が、ゆっくり吊り上がる。
物欲しそうな目。
その視線に、スピリトが震えながら俺の背に隠れた。
「言い値で買い取りたい。君の提示額を払うよ」
「管理者なだけあって金はあるってことか。本当にいくらでもいいのか?」
空気が変わる。
アルカとリヒトの息を呑む気配がわかる。
「いくらでもいい。精霊を売ってくれるなら、他にもオプションを付けよう」
「あ、それは悪くないな」
「話が早いね。じゃあ、いくらがいい?」
ニヤつくアマリア。
背後から制止の声。
だが無視。
俺は元々、金が欲しかったんだ。
金のためにワイバーンを倒したんだ。
「じゃあ、金はお前の貯金全額でいい」
「そう来るか。まぁいい。それで、オプションは?」
「あぁ。《《管理者という立場を廃止する》》。それが最低条件だ」
静寂。
即答は来ない。
……愉快だ。
予想通り、すぐには答えられないだろう。
「……驚いた。そう来るとは思わなかったよ」
「だろうな。でも精霊が欲しいんだろ? なら、出来るよな。口約束は信用しない。ちゃんと実行してから渡す」
アマリアは俯き、無言。
「さぁ、どうする。この世界を仕切ってる外道集団の一人、アマリア君」
笑みが消える。
睨み合い。
空気が張り詰める。
「……今回は、その交渉は見送らせてもらう」
「だろうな。受けるとか言われたら――……いや、何でもねぇ」
あぶねぇあぶねぇ。
「受けたら、君は精霊を渡さないといけなくなるからね」
「黙れ」
「元々渡す気なかったでしょ?」
「黙れ」
「もう少し素直に――」
「マジで黙れ、このクソちび詐欺師」
「あはははっ」
腹を抱えて笑うな。
後ろではアルカとリヒトが安堵している。
なんなんだよ、もう。
だって、仕方がないだろうが。今も俺にしがみついて泣いてるんだから。
はぁ、管理者の貯蓄、欲しかった。
「でも、精霊を諦めたわけじゃない。今回は見送るだけ」
「どんだけ欲しいんだよ」
「希少だからね。価値を知っていれば当然だよ」
なら、普段は隠しておくか。
奪われるのはごめんだ。
「あと、伝えておきたいことがある」
「なんだ?」
「僕はギルド担当の管理者。君の行動そのものには興味がない。でも、他の管理者は違う」
うわぁ、そうなるのか
「勧誘する者もいれば、排除しようとする者もいる。だからこそ、自分が何のために動いているのか、忘れない方がいい」
「勧誘……。給料はいくら?」
「いくらだろうと、入るのはおすすめしないよ。ダンジョン攻略の方がよっぽど有意義だ」
なんだよ、畜生。
少し聞いただけじゃん、教えてくれてもいいじゃねぇかよ。
「まぁ、いいや。忠告どうも。でも、なんでそこまで?」
「さあね。自分でもわからない」
左右非対称の瞳がわずかに揺れる。
迷い。
「君は目立つ。良くも悪くも」
「……ですよねぇ」
精霊持ちに加えて、この魔力量。
目立たない方が無理だ。
「何かあればギルドを通していい。出来る範囲で協力する」
信用はしない。
だが、敵でもない。
「あんがとよ」
「信じてないね」
「当たり前だ」
「僕は君を気に入った。面白いことをしてくれそうだから」
「気に入った?」
聞くけど、それ以上は語らない。
「じゃあ今度こそ行くよ。これから大変だと思うけど、諦めないで」
そう言い残し、アマリアは手を振り、姿を消した。
……あいつ。
管理者という立場を、どう思ってるんだろうな。
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