俺の報酬を早くくれよ…………
おっさんの顔横の壁が、炎で黒く焦げていた。
――ちっ、狙いが逸れた。
後ろからの叫び声に一瞬気を取られた。
途中で炎を弱めたから、この程度で済んだのは幸いか。
振り向けば、閉め忘れた扉の向こうにヤンキー二人。
……さっきの叫びは、馬鹿な方だな。
二人の目は、明らかに村長を案じていた。
「……助かったな、お前」
「な、は……?」
「あの二人がいなけりゃ、俺はお前を殺していたかもしれん」
足を下ろし、頭をガシガシ掻く。
村長は後ろの二人を見て、俯いた。
……あぁ。
大事に思ってはいるんだな。
その心が、歪んでいただけで。
「上に立つなら、外に良く見せる前に内側の信頼を勝ち取れ」
静かに言う。
「明るく声をかけるでもいい。裏で支えるでもいい。それはお前が決めろ。だがまず、村人を大事にしろ」
村長を見ながら言うが、沈黙。
俺の言葉が届いたかどうかは知らん。
だが、俺はこれ以上何も言えない。
これで、少しでもマシになれば、それでいい。
「さてと、余計なもんは片付いた。次だ」
ここまでのことをさせられたんだ、倍の四百万では足りない。
三倍だ、三倍の六百万はもらわないと。
「なぁ、報酬、くれるよな?」
しゃがみ、無理やり目線を合わせる。
村長は瞬きを数回したあと、吹き出した。
「わかった。正規の報酬を――」
「三倍だ」
「……は?」
「三倍」
「二倍で――」
小さな炎を右手に灯す。
「三倍」
「……………………はい」
よし。
やっとだ。
俺の、六百万!!
「今、脅したよな?」
「気のせいだ」
チラ見せしただけだ。
脅迫ではない。演出だ。こういうのも大事だろ?
「はぁぁぁぁぁああ……疲れた。腰と肩がいてぇ。目が渋い」
「その発言、俺のじーちゃんが――」
「それ以上言ったら鼻曲げるぞ」
「|ふひはへんれひた《すみませんでした》」
アルカの鼻を摘む。
俺はまだ二十代だ。後半でも二十代だ。異論は認めん。
俺たちが話していると、村長が小さく聞いてきた。
「ぬしは、何者だ」
「異世界から来た、金が大好きな二十代の一般ピーポーです」
「んな訳なかろう」
否定しないでくれよ、本当のことを言ったのに。
「わしは……やり直せるのか?」
……へぇ。
効いたな。
「やり直したいと思うなら、勝手にやれ。六百万もらえれば、俺は知らん」
「……わかった」
少しだけ、声に力が戻る。
これは、変わるな。この村。
「それと、後ろの二人を解放してくれ」
「あぁ、忘れてた」
ヤンキー二人は縄ぐるぐるだったな。
その時、リヒトが駆け込んできた。
「カガミヤさん! 大丈夫でしたか?」
「おう。問題ない」
状況を見て、安堵するリヒト。
ヤンキー二人を解放し、六百万はギルドを通じてもらうことを約束させ、家を出る。
これで終わりだ。
「最後にいいか、転移者よ」
「なんだよ、質問が多いな。まとめて言え、めんどくさい」
「また、わしが何かすれば、ぬしは来るのか?」
……その言い方。
「お前、反省してないな?」
「違う。もう、関わり合いたくないのだ」
ヤンキー二人を見る。
「あいつらを危険に晒したくはない」
……ようやく理解したか。
「お前は今まで奪ってきた側だ。俺があいつらを殺しても文句を言える立場じゃない」
「わかっておる」
本当に理解している顔だった。
なら、もう言うことはねぇな。
「……じゃあな」
俺たちは三人でギルドへ戻る。
もう問題は起きないだろう。
なにより――六百万はもらえる。
俺がここにいる理由は、もうない。
さて。
今日はゆっくり休むか。
六百万をギルドから受け取ってな!!
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