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人をここまで愛せるのは本当に珍しいよなぁ

 フェアズに向けて、スピリトに蓄えられた()()()()()()()を使い、炎の竜を放った。


「これで、終わりだ!!」


 炎の竜が大きな口を開け、フェアズを喰らう。


『そんなわけ、ないじゃない!!! 馬鹿にするな!! ――――|ビーボラ・フウェ《fouet vibora》』


 ――――はぁ!? いや、嘘だろ!?

 さっき魔法出せてなかっただろうが!!


 俺が放った炎の竜と同じくらいの大きさはある、蔓の竜が俺達を見下ろしてきた。

 俺達に魔力は吸われたはずなのに、どこにそんな魔力が残ってたんだ!?


「ぐっ!!」


 ドカンと、二つの竜がぶつかり合った。


 炎の竜が蔓の竜の胴体を噛む。

 蔓も竜は、苦し気な声を上げるが、すぐに炎の竜の首を噛んだ。


 お互い、一歩も引かないせめぎ合い。

 一瞬でも魔力を緩めた方の負け。


『私は負けない、私は強い。もう二度と、私は負けないの!!』


 蔓の竜に魔力が込められる。

 本当に、どこにそんな魔力を残してやがったんだ。


 俺達は、フェアズの魔力を吸い取ったんだぞ!?

 スピリトも、フェアズの魔力で強くなって炎の竜を操っている。


 それなのに、押されてる。


「くそっ、俺達だって、負けるわけにはいかないんだよ」


 負けずに俺も、魔力を込める。

 だが、押し返せない。


『どうして、私の邪魔をするの!! どうして私は不幸にならないといけないの!? 私はただ、普通の幸せを手に入れたかっただけなのに!!!!』


 ――――まずい、これ以上押されてしまえば、負ける。

 スピリトも慌てた様子で俺を涙目で見てきた。


「負けるな、スピリト。弱気になるな」

『わ、わかりました!』


 スピリトも負けじと炎の竜を操る。

 そうだ、簡単な話だ。


 今は、どう考えても俺の方が魔力は多い。

 それなら、蔓の竜がどれだけ大きくなろうと、燃やせれば問題はない!


「幸せを手に入れたいなんてなぁ。そんなもん、誰もが思ってることなんだよ!!!」


 俺も、ありったけの魔力を炎の竜に注ぎ込む。

 すると、蔓の竜に火が付いた。


 ――――ギュアァァァァアアアアア!!!


 その小さな炎は、徐々に広がり蔓の竜が炎に包まれる。


 フェアズは、最後の防壁を失い、唖然。

 すぐに次の魔法を繰り出そうとしたが、完全に魔力を切らした。


『私は――……』

「捨ててはいけないものまで捨ててきた、お前の負けだ。フェアズ」


 ――――キャァァァァァァァァァァアアア!!!


 炎の竜が大きな口を開き、フェアズを丸ごと喰った。


「――――はぁ、はぁ」


 これで勝った、はず。

 魔力も、もう感じない。


 さすがに、疲れた。

 体は疲労で重たいし、節々が痛い。


 もう、こんな戦いは勘弁してほしいもんだわ。


「カガミヤさん!」

「カガミヤ!!」


 おっ、アルカとリヒトが俺へと走ってきた。


「おー、大丈夫か?」


 二人は元気に頷いた。

 よかった。


 グレールも疲れたみたいだが、無事みたいだ。

 氷の剣を消し、伸びをしている。


 見上げると炎の竜は薄くなり、そのまま消えた。

 スピリトも俺の方へと戻ってきて、頬にすり寄ってきた。


「スピリトも、おつかれさん」

『ご主人様もお疲れ様ですよぉぉぉおおお!!』


 泣いているが、とりあえず無事みたいで何よりだわ。

 スピリトを慰めていると、リヒトが心配そうに黒煙が立ち込める場所を見上げていた。


「どうした、リヒト」

「いえ、あの。まさか死んでなんて、いないですよね?」

「それは、流石に分からんな。だが、アマリアが突っ込んでいったし、大丈夫だろう」


 アマリアが炎の竜に呑み込まれたフェアズの元に、なんのためらいもなく突っ込んで行ったのが見えた。


 何をしたかまではさすがに分からないが、おそらく何かしら防御膜は張っているはず。


 見上げ続けていると黒煙が晴れ、アマリア達を確認できた。

 フェアズはもちろん、アマリアもさすがに無傷ではないみたい。


 服も肌も、所々焦げてる。

 でも、生きているみたいだな、良かった。


 アマリアがフェアズを横抱きにし、ゆっくりと降りてきた。

 歩くだけでも辛いが、二人の様子は確認しないといけない。


 重たい体を引きづり、アマリアへと近づく。


「大丈夫なのか?」


 聞くが、返答はない。

 アマリアは、フェアズを支えながらその場に座る。


 フェアズを覗き込んでみると、最初の姿に戻っていた。

 目は閉じているから、気絶しているかな。


 これならもう、俺達に襲ってくることはないだろう。


「んっ……」

「あっ、起きるかな」


 フェアズが唸った、起きるか?

 邪悪な気配は消えたように感じるが、まだわからない。


 警戒を怠らずにしていると、フェアズはゆっくりと目を開けた。


「…………アマリア」

「フェアズ、大丈夫?」


 今までにないほどの優しい声で、フェアズに問いかけた。

 ここまで優しく声をかけられるんだ。


 驚いていると、フェアズが小さく頷いた。


「そっか。よかった、本当に、よかった」


 肩を震わせ、安堵の息を吐いている。

 本当に心配だったんだな。


 フェアズは、周りの様子を見て状況を整理していた。


「――――そっか。私、負けたんだ。また……」


 そう呟くと、下唇を噛み悔しそうに顔を隠した。

 そんなフェアズに、アマリアは思い出したかのように過去の話を始めた。


「…………ねぇ、フェアズ。僕達が魔石を体に埋め込まれてから最初に行ったのは、僕達自身の復讐だったよね」


 …………それは、初めて聞くな。

 復讐、か。


「そう、私が村の人達が許せなくて。何も罪を犯していないのに殺されるなんて理解出来なくて、逆に殺してやりたかった」


 おっと、まさか返答があるとは思わなかったな。

 アマリアも同じらしく、チラッとフェアズを見ている。


「…………そうだね。僕のせいで、君まで殺されそうになってしまった。それは本当に申し訳なかったよ」

「っ、違う。貴方のせいじゃない!!」


 フェアズが興奮したように立ちあがり、無理やりアマリアから離れた。

 おいおい、動いて大丈夫なのか?


「あれは全て、村の人達が悪い! アマリアは何もしていないじゃない!! ただ、他の人と目の色が違うだけ。それだけなのに、知りもしないでアマリアのことを悪く言って、災いを呼ぶと思って殺そうとした村人のせい!! 全部、勘違いしたあいつら(村びと)のせい!! アマリアは何も悪くない!」


 ――――っ、そうだったのか。


 アマリアの左右非対称の目は、生まれつきか。

 他の人と違う瞳をしているアマリアが、村に災いを招き入れると思われ、村人が二人を殺そうとしたのが、真実なのか。


 胸糞悪い話だな……。


「ねぇ、アマリア。貴方が村の人を焼き殺した時、何を思っていたの。なんで、私がやる事なす事に邪魔して来たの。人の命がかかわる時だけしつこく止めてきたのはなぜ。教えてよ、アマリア」


 今にも泣き出しそうな顔でアマリアを見ているフェアズ。

 アマリアは、どう答えるんだ?


 アマリアを見ると、諦めたように肩を落とし、重い口を開いた。


「君に、苦しんでほしくなかったんだよ。人を殺してしまったと、後悔してほしくなかった。だから、邪魔をしていたんだよ。君のやることなすことを……」


 …………らしいっちゃ、らしいか。


「それって……。でも、アマリアは何人も人を処刑していたわよね? 村の人も焼き殺していた」

「まぁ、ね。だから、わかるんだよ。人の命を奪う時の気持ち悪さ、奪った後の胸糞悪さ。手にも、心にも残るんだ、人を殺した時の感覚が。多分、君には耐えられない。だから、僕が代わりにやっていたの。僕はもう、最初に村の人を殺しているから、これから何人殺そうと良かった。君が同じ苦しみを感じなければ、それでよかったんだ」


 アマリアは、本当にフェアズが好きなんだな。

 いや、アマリアだけではない、か。


 アマリアの言葉を聞いたフェアズは「でも、でも……」と何やら、言葉を探している。


 眼は泳いでいるし、声はもう小さくて何を言っているのかわからない。

 もう、言い負けられているじゃん。


「――――フェアズ。もうそろそろ、素直になれ。強がる必要はもう、ないだろう」


 言うと、フェアズは今度こそ黙り、何も言わなくなってしまった。

 そんなフェアズの様子に、アマリアは立ち上がり抱きしめた。


「フェアズ、僕は本当に君が好きなんだ。君がいなければ、僕は人間時代に命を絶っていた。それくらい子供だった僕は、心身ともに疲弊していた」


 鼻をすする音、フェアズは泣いているのか。


「君が笑顔を向けてくれた、君が手を差し伸べてくれた。僕の孤独を、君だけが埋めようとしてくれた。だから、僕は君がしてくれた分の恩を、何をしてでも返すと決めたんだ。君に思いを伝えた時から、ずっと」

ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


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よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

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