終わりと始まり
「うがぁぁぁ!!」
「ぐっ! んんん!」
治療薬を投与してから結構経つのに、まだ効果が出始めない。
高濃度の感染者に対しては、治療薬を大量投与すれば人間に戻るけど、大和兄ちゃんの体内にあるウイルスは特殊だから、大量投与したら逆に殺してしまう。
「ううう! があぁぁ!」
「――ッ!! いい! 好きなだけ噛んでいい!」
左肩に大和兄ちゃんの歯が食い込む。
大和兄ちゃんの体内にあるウイルスが、唾液から血へと混ざったはずだから、これで私も時期に感染者となってしまう。ここで、大和兄ちゃんを突き飛ばして、予備の治療薬を打ち込めば、感染を免れるかもしれないけど――
「今度は私が守ってあげるから、ウイルスなんかに負けないで!」
「うっ……うぅぅ」
例え噛み千切られたとしても、絶対に放さない!
「ごめんね! ずっとずっと辛かったよね?」
「ぐっ……がぁぁ!」
「これからは、楽させてあげるから! 今度は私が大和兄ちゃんを守るから! 人間に戻って! 人間に戻って……私と一緒に暮らそう?」
「うっ……うぉぉぉ!」
肩を噛む口に一層力が籠められる。
「大和……兄ちゃん?」
「ぐぅぅ」
大和兄ちゃんが泣いてる。
もしかして、治療薬の効果が効き始めて、自我を取り戻しつつあるの!?
「大和兄ちゃん! 負けないで!」
「うっ! ぐがぉぉ!」
自我を取り戻しつつあるのは間違いないだろうけど、大和兄ちゃんはゾンビと化して自我を失ってさえも、私が子供の頃に住んでいた家の前で近づくゾンビを殺していた。
「大和兄ちゃん! 私が分かる?」
「ぐっ……こ……ゆ……き」
はっきりとは言わなかったけど、確かに私の名前を口にした!
やっぱり、大和兄ちゃんの中に私の記憶は残っていたんだ。でも、その記憶は今の私じゃなくて、一緒に遊んだり、守ってもらっていた時の私で止まっている。
「大和兄ちゃん!」
両腕を首の後ろに回して抱き締めると、大和兄ちゃんは肩から口を離して、大粒の涙を流して傷跡の出血を止めるように手で覆ってきた。
「大丈夫! 私は大丈夫だから!」
「こ……ゆき」
「そうだよ! 今度は私が迎えにきたの!」
また私の言葉に反応した。
大和兄ちゃんに対して持参した治療薬は効かない。完全な憶測に過ぎないけど、私の言葉に反応して、大和兄ちゃんの中では、子供の頃の私で止まっているなら、大和兄ちゃんを人間に戻す特効薬は、私の声で私との思い出を聞かせることだ!
「ねぇ、大和にい――?!」
意識が薄れていく……手が勝手に動く。
まさか、このタイミングでゾンビ化が始まったの!? 大和兄ちゃんを人間に戻す糸口を見つけたのに、本当に最悪なウイルス。
「や……やまと……に――」
意識が遠のいていく。
せっかく、ここまで来たのに……もう少しで大好きな人を助けられるのに。
私は結局……大和兄ちゃんを助ける事が出来ないの?




