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両利きのテニス初心者だけど、気づいたら美少女参謀とプロを目指してた  作者: 二刀
第2章 テニス雌伏編

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第21球 クラブの扉


 土曜日。稲葉コーチから自分が所属しているテニスクラブに来ないか、と誘いがあった。


 俺が男子の練習相手がいなくて悩んでいたのに、気づいていたらしい。

 ……さすができるコーチは違うな。こっちが言い出す前に見抜いてた。


 コーチが誘ってくれたのは、藤ヶ谷テニスガーデン。藤ヶ谷市の中でも、中規模のテニスクラブだ。

 ちょうど隣の市との境目にあるから、いろんな地域の人が利用するらしい。


 ハード、オムニ、クレー。屋外コートに屋内コート、壁打ちコートまである。最近は、カーペットコートまで整備したという。

 ……カーペットのコートなんてあるのか。びっくりだ。


 ここでは有望な選手を集めて育成しているそうで、全体的にレベルが高い。

 今の俺なら来ても問題なく練習できる、と稲葉コーチのお墨付きをもらった。さっそくパンフレットを片手に足を運んでみた。


 *


「おお~、集まってる集まってる」


 屋内コート。ちょうど小学生からジュニア、大学生くらいの世代の時間帯に合わせてきたので、みんな準備運動の前に集まっていた。


 どちらかというと大学生が多い気がする。

 その中に稲葉コーチがいて、俺が来たことに気づいたみたいだ。


「お、千両君。みんな、来てくれ」


 コーチが、手を上げて、練習生たちを呼んだ。


「まだ仮だが今日から参加することになった、千両利士君だ。私がコーチをしている、聖蹊学園高校のテニス部員でな。練習相手を探していたから、ここに誘ってみた」


 話が通っていたみたいで、コーチはスムーズに紹介してくれた。

 うっ……人前はちょっと恥ずかしい。でも、これも経験だ!


「初めまして。聖蹊学園一年の、千両利士です。まだテニスを始めたばかりですが、強くなりたいのでたくさん練習してます。よろしくお願いします!」


 ペコリ、と頭を下げる。

 第一印象が大事だ。これからお世話になるかもしれないからな。


「へぇ~、聖蹊学園って、あのお嬢様高校?」

「あれ、男子って入れるんだっけ?」

「最近、共学になったみたいだよ」

「初心者なんだー」

「あれ……この人、この前の大会に……」

「おいおい、ついてこれるのかよ。ここ、結構ハードだぞ?」


 ワイワイ、ガヤガヤ。みんな気楽で楽しそうな雰囲気だ。結構やりやすそう。

 厳しすぎるところだと身構えちゃうから、ちょっと安心した。


「聞いた通り、千両君は始めてまだ二か月程度だ。だが、光るものを持っていてな。前の藤ヶ谷オープンジュニアにも出て、二回戦で敗退したがなかなかいい試合をしてたぞ」


「はいはい! 千両君はどこのコートに入るんですか!?」


「まずはCコートで様子を見ようと思っている」


「え~、初心者じゃないのかよ」


 小学生くらいの子がそう言ってる。コートとかよく分からないけどとりあえずコーチに任せよう。


 コーチが、ぱん、と手を叩いた。


「よし、まずは準備運動からだ! みんないつものように分かれて、コートの端に並べ! 千両君、荷物を置いてすぐコートに入ってくれ。周りと同じようにウォームアップからだ」


 俺はコーチに従って、荷物を置いて、Cコートに入った。


 *


 コーチが笛を鳴らすと、みんなコートの端から端まで往復する、シャトルランニングを始めた。

 俺も同じように走る。


「お、やっぱりついてこれてるね」


 隣の男子が走りながら話しかけてきた。

 つんつんしたショートカットが爽やかな、好青年。ザ・陽キャラって感じだ。


「おれ、神宮寺。神宮寺健じんぐうじけん。よろしく」


「よろしくお願いします。俺、千両利士です」


「あ、いいよタメ語で。同い年だし。この前の千両君の試合、見てたよ。すごい試合だったね。二回戦は残念だったけど……」


「あ、見てたの。手も足も出なかったの見られてたのか。なんか恥ずかしいな」


 どうやら田中君と二ノ宮君の試合を見ていたらしい。

 神宮寺君も大会に出ていて、三回戦まで勝ち上がっていたそうだ。


「——ここはCコート。ちょうど俺くらいのレベルの練習生がいる。このクラブはAコートに近いほどレベルが高くて、練習も高度になる。まぁ、Aコートはインカレ目指してる大学生がほとんどだから、高校生はなかなかいないけどね」


 なんとなく分かってきた。Aが一番うまくて、B、C、D……と、順にレベルが下がる。

 まぁそうだよな。小学生と大学生が同じコートにいるわけがない。


「——ここの練習、基礎トレから結構ハードなんだけど……千両君、……普通についてこれてるね。俺……、慣れるのに結構かかったんだけど。すごいな」


「あ~、これくらいなら、部活のほうで結構やってるからな」


 正直ついていけてる自分にちょっとビックリしてる。部活でいつも追い込まれてるぶん、まだ少し余裕があった。

 藤崎の鬼トレ、無駄じゃなかったな(遠い目)。

 神宮寺君のほうはしゃべりながら走るのがしんどそうだ。


「とにかくこれから通うんだったら、よろしくな」


 *


 準備運動が終わって、ストローク練習に入った。

 みんなで持ち回りに球を出し、順番にステップに入ってコースに打ち分ける。オーソドックスな練習だ。


 ――まずは、フォア!


「おおー、やっぱ前よりうまくなってるよねぇ。こりゃ強力なライバルが現れたぞ」


 神宮寺君が俺のフォアを見て声を上げる。

 そりゃ、毎日練習してますからね。

 (ほぼ)オールGは、脱出しましたからね!


「続いて、バックー!」


 球出しのサイドが変わった。たまに左利きの子もいるけど、みんなバックサイドは両手バックで打つ。


 でも俺は――左手で、打つ!


 スパァン!


「え……? さっき、右手でフォア……」


 球出しの子が戸惑ってる。

 俺は次の子に順番を回して、また自分の番を待つ。

 次のフォアサイドが終わって、またバックサイドが回ってきた。それを――左手フォアで!


 スパァン!


「やっぱり……両手とも、フォアで打ってる!?」


「あ、あぁ。俺、両利きなんだ」


「うっそ、まじで!?」

「できるのか、そんなの……」

「えー、すっごいよー!」


 本日二回目のワイワイ、ガヤガヤ。

 ……うん、この反応はちょっともう慣れた。なっちゃん部長も、藤崎も、栗原さんもみんな最初はこうだった。


「はいはい、そこ、練習を止めない!」


 稲葉コーチが声をかけてくる。


「コーチ! 千両君、両手フォアなんですけど!」


「ああ、そうだ。千両君は、珍しいプレースタイルでな。本人のセンスもあってなかなか面白いプレーを見せてくれる。まぁそういう話は、これからたくさんする機会があるだろう。早く練習に戻れ」


 コーチが促してくれたおかげで、ちょっとした騒ぎはあったけど練習は問題なく進んだ。


 *


 一時間後。


「はい、コートに分かれて1ゲーム形式でやってみようか」


 コーチが笛を吹く。


 ……お。来た。ゲーム形式。

 男子と本気で打ち合える。これがやりたくてここに来たんだ。ワクワクしてきた。


 コートに入ろうとした、そのとき。


「やぁ。きみが、噂の両手フォアの子か」


 後ろから穏やかな声がした。

 振り向くと背の高い男の人が立っていた。

 大学生くらいだろうか。どこかで見たような柔らかい笑顔で、落ち着いた雰囲気。なんというか大人の余裕みたいなものを感じる。


「さっきのバックハンド……いや、左のフォアか。面白いね。あんなプレースタイルは初めて見たよ」


「あ、どうも……」


「ちょっとこっちで僕と打ってみないかい? Aコートを少し借りててね。きみの両手フォアもっと近くで見てみたいんだ」


 Aコートはインカレ目指してる大学生がいる、っていう一番上のコート。借りてるって時間とってもらったってこと?

 いや、いいのか俺なんかが。……でもこんな機会めったにない。


「いいんですか。お願いします!」


 *


 Aコートに入ると張り詰めてるというか、空気が少し違ったように感じた。

 その人はにこやかにサーブの位置についた。


「軽くいくよ。じゃあ、僕のサーブから」


 軽く、って言ったのにそこそこ速いサーブがセンターに来た。


 俺は焦らずサーブを迎え打った。

 素早くステップを踏んで、打点に入り、左手フォアで外に逃げるように相手のバックサイドにリターンを返す。


 パァァン!


 気持ちいのいい音に気分が良くなる。リターンエースが取れた。


「ッッシ!」


 毎日の練習の成果が出てることを感じる。左手フォアのコントロールが向上していることを実感していた。

 

「やるね、千両君」


 <0-15>


 相手の逆サイドのサーブだ。

 トスが、上がった瞬間――空気が変わった。


 さっきまでの穏やかな笑顔が嘘みたいだった。鋭い目。ぴんと張った全身。その長身を最大限にしならせて……、


 ズパァァンッッ!


 ……っ、速い!


 強烈なファーストサーブが、俺の左手フォア側を抉るように、コートから逃げるように突き刺さった。

 なんとかラケットに当てる。でも返球が浮いた、その瞬間――。


 相手はもう、ネットの前にいた。

 いつ——詰めてきたんだ。


 ぱしっ。


 浮いた球をボレーで逆サイドのコートの隅に叩かれた。


 ……取れない。

 相手のポイント。一瞬だった。

 

 <15-15>


「ナイス反応。もうちょっとだったね」


 その人は、また穏やかな笑顔に戻ってた。


 強烈なサーブで崩してすかさずネットに詰めて、ボレーで決める。サーブ&ボレーってやつか。

 あの長身からこうも強烈なスピードで叩かれちゃ、こちらも主導権を握られる。

 二ノ宮君とも、田中君とも全然違うタイプ。


 こりゃサーブを抑えるのは無理だな。

 俺もテニスについて色々と勉強してきた。

 速いサーブはどうしたって返すのが無理な時はある。大事なのはその中でどうやって自分のテニスをするか。


 藤崎からはそれを口酸っぱく何度も何度も言われていた。

 俺はサーブに追いつけるようにできるだけ下がってリターンすることにした。


 無理にサーブに対抗せず、俺のコートカバーリングで対応する。

 俺でしか狙えない角度でネットプレーの穴を見つけてみよう。


 方針を決めた俺は、次のサーブを待つ。

 きたっ!


 後ろに下がってる分、視野が広く見える。走ってる相手はもうコート半ばを過ぎた所。

 そういう時は、足元ッ!


 できるだけ高い打点から相手の足元に沈む強いトップスピンショット!

 しかし流石はインカレ目指す大学生。足元のボールも繊細なタッチのボレーで拾われる。

 けれどもさっきのようなネットアドバンテージは低い。


 こちとら、毎日むぎ先輩にネット際の処理は鍛えられてる!

 足元から拾ったせいで少し浮いた球に強烈なトップスピンのショートクロスで抜いた。


「おおー」


 後ろで見ていたらしい、神宮寺君が声を上げていた。

 よし、上手く対処出来た。手のひらだけで小さくガッツポーズ。


 <15-30>


 しかしながらインカレ大学生もギアを上げてきたのかネットにサーブとネットに寄せるスピードが上がってきた。


 くっ、間に合わない。

 この人、多分最初の数球以外は様子見だったのだろうか。もしかしたら左手フォアを見たかっただけに違いない。一切手を抜かなくなった。

 結局、それからポイントを取れずサービスキープされてしまった。


「いやぁ、面白かった」


 その人が、ネット際まで来て手を差し出した。


「千両君の両手フォアは本物だね。コートカバーできる守備範囲が普通じゃない。結構厳しいところに打ったんだけど、よくもまぁあそこまで拾えるもんだよ」


「いやでも途中から全然ポイント取れなかったし……」


「そう? 結構やれてると思うよ。稲葉コーチが最初に光るものがあるって言ってたのは本当のことみたいだね。ヒヤッとしたよ、特にあのショートクロスは。……まだ粗削りだけど、そのプレースタイルは磨けばとんでもない武器になりそうだね」


 とんでもない武器。本当だろうか。あのサーブ&ボレーの方がすごいと思うけど。

 でもこの人にそう言われるとなんか本物に聞こえるな。素直にちょっと嬉しい。


「ありがとうございます……! あのサーブも、ネットプレーもめちゃくちゃ強かったです。」


「ふふ。ありがとう。サーブ&ボレーは僕のスタイルでね。……っと、自己紹介がまだだったね」


 その人は、爽やかに笑って、言った。


「二ノ宮彩斗。よろしく。千両君、はやくAコートにおいでよ。多分すぐに来れると思う。待ってるからまた打とうよ」


 二ノ宮、彩斗さん。

 ……優しくてでもコートでは別人みたいなプレーする先輩。

 俺は、この人みたいに強くなりたい。素直にそう思った。


「はい! ぜひ、お願いします!」


 ……ここには、こんなにすごい人がいる。なら俺ももっと強くなれる。

 こうして、俺のクラブ通いは始まった。



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