第117話 真龍と召喚獣とメインクエスト。
そういやそんな話あったわ。
時系列:前話と同じ時期。
「そういえばファディさんてレンタル乗り場で見かけないよね」
「用がありませんし、余り脅かすわけにもいきませんからね」
ふと思い出したことを口にしたら、ちょっと想定外の返答。脅かす?
……いや、なんかベータの時に言われてたな?
ファディさんはミケさんとこのクラン所属だ。現在の名称『変わった種族互助会』。
最初は無所属でいいですよ、とか言ってたんだけど、他所のクランからの勧誘が多すぎてミケさんとこに逃げ込んだ形だ。
なのでパーティを組んでないときは一般トークで話すことが多い。
今日は私、お札バイト中だからソロなんだよね!
このクエストも、今では受けるのは殆ど中級版だ。
初級は他にも受けられる子が増えて、中級を書ける人には余り回ってこない。
自動生産の分は貢献度とか好感度に乗らないんですよ。だからこまめにこのクエストはこなしておくのだ!
そしてミケさん同様、ファディさんもこの店には符術師連れでなら入れる。
というか真龍の場合、ここの隠蔽は見破ってそうなんだけども……そういうところ一切見せないからなあ、このひと。
「じゃあいつも乗ってる走鳥さんは?」
「契約済みです。但しあまり親しくすると聖獣化まっしぐらなんで程々にしろとレンタル屋さんに釘を刺され済みなので、自分専用の騎獣も探さないとですね」
「……龍のお人に騎獣なぞ必要……いや、レベル、でございますか……」
なんと、おばあちゃんがファディさんには敬語を使う。
普段崩してだらけていることすらある姿勢も衣装もしっかりしゃっきりだよ!
「ああ、ですから、私はこの姿しか取れないような若輩者ですから、そのように畏まらなくて結構ですよ」
「あいにく、年寄りの本能のようなものでございましてな」
これも初見から毎回繰り返される会話だ。
そう、ファディさん、メインクエストのおばあちゃんルートを符術師以外で開拓できるかチャレンジ中なのだ……
手伝いしすぎて、メインクエ手を付ける前にCランク達成しちゃったしなー。
我々が手伝ったのでメインクエのルートが開いてないまま、ともいう!
「それにしても、漂流者にして真龍とは……」
「こればかりは、『漂流者』が、そういうものだ、としか」
「で、ありましょうなあ……」
ここまではループ会話。こういう時はおばあちゃんもNPCなんだなあって実感しますね!
何せベータの時の我々にはやりたい放題だったからね!私の尻尾、抱き枕!今もだけど!
「しかし、以前識者に話を聞いた折には、真龍族の方は龍として生まれ、化身を覚えることで成年と為す、という事でございましたが……漂流者の方だと逆だということですかの?」
あ、おばあちゃんの台詞がループを抜けた!好感度上がった奴だ!
「ええ、どうやらそのようです。なにせ、私自身が己の龍の姿をまるで想像できないのが現状ですから」
そしてファディさんの回答も用意されていたかのようにすらすらと。
……いや、そんな設定までしっかり把握してる、んだろうか?
(レベル上げて脱出するまでに、あれこれみっちり叩き込まれましたからね)
あからさまに首を傾げてしまったので、ファディさんから念話で解説が飛んできた。
成程?一週間で真龍族知識の促成栽培?
「ああ、他の方には化身の件は秘密でお願いしますね」
「勿論ですとも……」
おばあちゃんの語尾が少し濁る。慣用句的には『墓の下まで持っていく』辺りが選択肢だろうから、それを避けて口籠った、そんな感じだ。
そりゃあ、年齢的に言いたくないよねえそんな台詞!
(おやおや、本来なら『墓の下まで』と続きそうなものですが、ひまりちゃんに遠慮したようですよ。よほど気に入られているのですね)
え?私のせい??なんで?確かにおばあちゃん師匠は好きだけど!でもNPC有数のご高齢の人だってのももう知っているし!
そしてファディさんそんな裏面まで読み取れるの?真龍だから?魚売さんだから?
やばい、どっちもありそうだ!!判らない!
そこから二人の会話が聞こえなくなったので、どうやらファディさんも無事にメインクエストのルートを開けたらしい。
私は真面目にお札を書くよ!あと200枚!
「おわりましたー!」
「おうおう。うむ、今日も良く書けておるね」
クエスト完了と共に、エンが振り込まれて、おばあちゃん師匠に頭をなでなでされる。
いつも子ども扱いだなあ!一人前なんだけどなあ!でも気持ちいいからいいや!
「では今日はこれで失礼しま……」
「ああ、今日は泊まってお行き。少し寒くなるようじゃ」
「はぁい」
「では私はこれで失礼しますね。またそのうち」
「はい、またのお越しを」
そして帰ろうとしたら引き留められた。こういう時もたまにある。
予定がないときは付き合うよ!
そしてファディさんはさっさと帰っていき、おばあちゃんもそちらは引き留めなかった。
「……狐の子よ、あの真龍の御方とは随分親しいようじゃが」
成程、そっちか!事情聴取だこれ!
「よく一緒に仕事や遊びに行くお友達ですよー。
たまにここに石のお兄さん連れてくるでしょう?あの人と似た枠です。
いちおう同性なんでちょっと距離が近く感じることもあるでしょうけど」
NPCにリアル側の話をしても確定で通じないし、原則としてリアル話はしてはいけないものなので、ゲーム内での関係性だけを簡潔に述べる。
「ああ、あの御仁も不思議よのう。他にも似たような者がおるようだし、其方たちには不思議でもないのじゃろうが」
「生態は割と不思議ですね!」
思わず即答したら、おばあちゃんがびっくり顔になった。
だって流石に、いかにバラエティに富んだ漂流者の、更に特殊種族といっても、呼吸不要の種族って石人と絡繰さんだけだよ!
なお絡繰さん、現状オンリーワンらしい。複数出ていたはずなのですが、と板でオペ姉さんが首を傾げてた。
「ははは、そうか。種族の軛に関わりがないのがそなたら漂流者なのじゃな!」
「そこはそうかもしれません!いろんな町や村にいる人たちもみんな好きですよ、私たち!」
一応苦手な人というか悪そうな人は除外だけど!と言ったら、おばあちゃんには朗らかに笑いながらなでなでされまくった。
という訳で今日の最初の短期ログアウトはおばあちゃんちのお布団です!絹!
翌日もソロ活動だ。
実は北斗さんが出張で帰宅が明日、ミューちゃんも試験期間で、流石にログイン自重中なのだ。
「転職そうそう出張とかあいつも大概不幸」
「それでも通勤時間は短くなったようだし」
「ああ、前は車で駅まで行ってから電車だったのが、車一本で済むようになった、だったか」
今日もお札を書く私の横で、玉兄さんとミケさんがひとんちのリアル事情を駄々流しにする会話を展開している。
キリカちゃんもいるんだから自重!
「ひまちゃん今朝神殿周りで見かけなかったけど」
「抱き枕」
「ああ、昨夜冷えたらしいものね」
キリカちゃんや玉兄さんたちには、おばあちゃんちに泊まった、という話はこの一単語で足りる。
そのレベルで恒例行事なのだ……
「そういやファディさんも今日は朝から見かけないね、フレリにはいるけど」
「メインクエついに出たんで、ソロでどこまでやれるかお試し中」
「さす真龍」
「というか符術師以外での師匠攻略ルート、やっぱりあったんですね」
ミケさんがクラン違いなので、通常会話で情報交換だ。
おばあちゃんはなうアンファルデリバリーで別室でごはん中だよ!
「というかここの師匠、年齢……いや女性の年齢は禁忌だな」
「王族界隈最年長。翡翠のおじいちゃん領主さんの5歳上」
玉兄さんは遠慮したけど、これは公開情報なので容赦なく口にする。
そういえばゲーム内は時間経過がそれなりにあるけど、NPCの年齢って増えるのかな?
おばあちゃん師匠は最年長のおばあさん+レベルカンスト勢だそうなので、もう外見の変更はなさそうなんだよね。
NPCのレベルはフィールドで殴らないと見えない、という謎仕様はベータと同じだそうだ。
だから、街中から出ないNPCであるおばあちゃん師匠の場合、レベルカンストという冒険者組合で得た情報はあるけど、そのカンストレベルがいくつなのかは、実は誰も知らない……
「レベルカンストすると丈夫になって寿命も延びる?」
「カンストまでしなくても丈夫になるし寿命も延びるって組合のおじさんは言ってた」
「まあ我々には関係ない情報かな」
そうだねー、漂流者というかプレイヤーには年齢設定ないそうだからねー。
だけど、そこは覚えておいた方がいい、そんな気がしますよ。
後日確認したら、なんか体感上の日付とNPCの経験している日付にはブレがあるらしく、年齢の経過はリアルタイム相応よりちょっと緩いくらいである、という説明を受けました。
どうなってるんですかねここの技術。今更だけど。
なおレベリングが落ち着くとSP3人はログインは二人ずつになる模様(それでアンファルが引っ込みがちになるけどログイン時間自体はフルで使ってる)




