番外編:運営陣とプレイヤーのリアル。
まさかの8/28更新だからもう一本ぶちあげるかー!
シンシンのネタバレしたついでに運営回?だよ!
「……終わったあああああああ!!無事に!!!」
VR機器をそばのソファに放り出し、両手を宙に突き上げて叫ぶのは、波打つ金髪に琥珀色の瞳の、妙齢の美女だ。
たった今、ベータテストの全期間を無事終了したVRMMO、『5D!』において、GMオペレッタ、通称オペ姉として知られている彼女は、GM兼サブプログラマー兼ディレクター兼渉外担当、という多足の草鞋を駆使する、『まりあコーポレーション』の中核人物の一人だ。
「姉さんお疲れ。GM兼業が一番大変だったんじゃ?」
「別に?ああいう場に出たがらない誰かさんと違って、あれは息抜きだもの」
そこに声を掛けた男はといえば、ストレートの黒髪を肩先まで伸ばした、これも随分と見栄えの良い若い男性。二人は、三年ほど年の離れた実の姉と弟だ。
姉の名は、松田 杏沙。
弟の名は、松田 栄樹。
世界的医学者にして科学者、松田博士が立ち上げ、その実態がほぼ家族経営である、『まりあコーポレーション』の……表向きの中核を担う姉弟だ。
つまりこの二人は、松田博士の実子である。
「僕が出なくても泰星が出張ってくれるからね」
「まーた息子に丸投げしちゃってるの」
「姉さんのところと違って、成人しちゃったからねえ。それに前倒しの連続で、リスケが多くてそれどころじゃなかったしね……」
そう語る二人だが、到底成人年齢の子供がいるようには見えない。
といっても、二人の子供たちは、どちらも養子であるので、そこまでおかしなことでもないのだが。
そこに控えめなノックの音。
「どうぞー?」
「あ、杏沙さん、もうすぐご飯だって」
「サンキュ、サーシャ。いい加減お母さんって呼んでほしいけどー!」
「えぇ、いつも言ってっけど、その若さでお母さんはちょっとー」
ドアを薄く開いて廊下から顔を覗かせるのは、くりくりの赤毛のショートヘアに緑の眼の少女だ。鼻の周りに軽くそばかすが散っているのが不思議と愛らしく感じる。
「そうは言うが我々、実際に実子がサーシャくらいの年齢でもおかしくはないんだよ?」
「じいちゃんもそうだけど、この家の人年齢不詳が過ぎん?」
栄樹の言葉に、サーシャが年齢にそぐわぬ、大人めいた困惑の顔をしてみせる。
「父さんの事は普通にじいちゃんって呼ぶのが解せぬー!」
「だが母さんのことをばあちゃんって呼んだことはないな?」
「まりあさんに!そんなこわいこと!できない!」
サーシャの、かなり本気で嫌そうな答えに、そうですよね、と納得する「ばあちゃん」の実子の二人だ。
いや、多分本人は言われた相手によっては、面白がりこそすれ、怒りはしない、とは思わなくもないのだが。
そもそも未成年で、おまけに今通っている学校の同学年で一番身長が低いサーシャは見るからにかわいいし、多分セーフだ。成人済み勢は絶対にアウトだがな、と、改めて心に刻む実子二人である。
「おにい、来たぞー!」
「こんばんは、伯父さま。おじゃまします」
「らっしゃい!今日は源治さんの寿司だよー!」
玄関からも、声がする。女性二人の声に答えているのは、『世界の松田博士』、その人だ。
この男からして、見た目が若い。六十代後半の実年齢にも関わらず、その外見はせいぜい三十代ではないか、というのが世間の評だ。
但しこれに関しては、この世界でも著名な漫画家にも、年々若返っている疑惑のある人が存在しているので、意外と話題になることはない。
なお海外では彼らはひとからげにされて、あいつら日本人だしな、で済まされているそうだ。
『まりあコーポレーション』は、ほぼ完全に一族経営の会社だ。
しかも、松田夫妻と、その子供二人、松田博士の妹二人とその夫たち、あとは何名かの養子たち、というわずかな人数だけが、中核事業である『5D!』の運営と、専用端末である『ブラックボックス』の生産に携わるという、世間の同業他社からすれば、どういう体制で人員を回しているのか判らない、謎の企業である。
公式回答としては、徹底したオートメーション化とAI技術を駆使している成果だ、というものだが……そもそもハードウェアの生産工場の場所すら、非公開。
当然のように内情を探ろうとした、内外の産業スパイの皆さんが、悉く撃退されているために、真相は依然として謎のままだ。
ともあれ、ベータ版無事終了打ち上げ会として、普段から懇意にしている寿司職人やパティシエを招き、広い自宅にて開催された夕食パーティは、実質優雅なホームパーティという代物だ。
何せ参加者のほぼ全員が、戸籍上は繋がっているので。
「……場違いな我々感がありありと……」
「俺ら、なんでここに呼ばれたんすかね」
「ああ、狐ちゃんは諸事情で呼べないらしいんで、偏在プレイヤー代表?」
「ほーん?ってか嬢ちゃん、どなた……いやキャラ名じゃないと判らんが」
「いや待て、『狐ちゃん』?いやいや待て待て?」
そしてその例外として会場の片隅に立つ、スーツ姿の男三人が、疑問に雑な回答をよこしたサーシャに首を傾げている。
三人目の男は、何かに気付いたようだが、却って一層怪訝な顔をしているけれど。
三人のうち二人は、見る人が見ればベータ版プレイヤーの玉兎一号、及び月夜見北斗だと判る外見だ。
といっても、当然の事ながら、一般的日本人の三人はキャラクターとは色がまるで違うし、北斗の方はキャラよりも明らかにガタイがいいので、気付かない人もいるだろう。
もう一人、怪訝顔の男は、これも北斗並みに体格のいい筋肉質の男性だが、プレイヤーキャラクターに該当する人物は一見いない、そんな雰囲気。だが、残りの二人とは既知の様子。
「なんだ、そんなところにいたのか。今日は警備の仕事でもないんだし、ゆっくりしてってくれていいんだぞ」
そこに追加されたのが、黒、というにはやや色の浅い、濃灰色の髪の若い男。
「判りやすいのが来た……GM、マジで外見そのまんまだったのか?」
「ベータ版だけだがね。ありていに言えば時間が足りなくなってモデリングをサボった。
まあボクの場合、知っての通りプレイアブルは種族自体が違うし、GMは仮面を外す設定がないからな、問題ない」
「そのままゲームに出てきてもおかしくない顔してまあ」
「他に呼ぶ人はいなかったのかね」
「筆頭呪符作成士君には断られた。学生には松田家は恐れ多いそうだよ」
「「それは判る」」
「むしろ我々にも恐れ多いんですが?」
この男性には三人も割合言いたい放題だ。
明らかにGMファンダルの雰囲気そのままなうえに、彼のプレイヤーとしての持ちキャラ、シンシンには馴染みが深いせいだろう。
何せ彼だけは、パンダの方で中の人がGMであることをほぼ公言してしまっている。
「狐ちゃん……ひまちゃんがだめってのは?ベータユーザー全会一致MVPっしょあの子」
「一応招待状自体は出したんだがね、上からダメ出しされた」
「上?」
「お役所だね」
「そういえば途中から神祇庁さんが後援に付いていたな」
「公表は途中からだが、最初っから噛んでるだろ?配達員があそこの下っ端だったし」
そんな風に裏話もほのめかしつつ、勧められるままに寿司もある程度食す三人だが、正直場違い感が酷くて、落ち着いていられない様子だ。
松田博士とにこやかに談笑しながら、寿司をつまんでいるその妻、松田まりあ。
彼女の姿に、謎の威圧感を感じてしまう三人なのである。
「あー、母さん、ちょっと抑えて。漏れてる」
「え?あらやだ、漏れてた?ごめんなさいね、皆さん」
そこに声を掛けるのは、杏沙。
二人が並ぶと、どう見ても母娘、というより姉妹のような美貌が二つ並ぶのだが、杏沙の方には威圧感なんて微塵も感じない。
そして、そのやり取りと同時に、威圧感がすうっと引いていく。
ははーん。どうやらこの人自身も神祇庁案件だな?
と、うっかり感付いてしまった三人である。
「タマ、ミケ、そこら辺は知ってる?」
「いや全然?そもそも僕は今は事務職といっても会計課だから、個別の案件は一切知らんぞ」
「北ちん、それ聞いちゃダメな奴。っつかタマ、会計課?異動あったんだ」
「今期からな。休日はブレなくなったが、年度末が今から憂鬱だよ」
「そこー、仕事の話は今は忘れてー、君たちプレイヤー代表よー?」
しょっぱい話題に切り替わったところで、杏沙の横やりが入る。
「ええと……オペ姉さんですかね」
「そそ!まりコポの渉外もやってるから顔と名前は覚えてくれてるよね?」
「はいっ!板では散々お世話になりましたッ」
「北ちん、そこでなぜ敬礼」
「なんか面白い人たちいるーって玉さんと北斗さんだ!」
「あら、意外と判りやすいんですね、お二方。ということはもうお一方はミケさん?」
更に杏沙の背後から、黒髪くせっ毛の、どこか松田博士と似た顔立ちの少年、それにストレートの黒髪を腰近くまで伸ばした美少女。
「おう、君たちは……」
「ひみつ☆ここの身内ってだけで一般プレイヤーだけどね!」
「ベータ版ではいろいろお世話になりました」
「というかタマさんミケさんって普段でもその呼び方なんだ?」
更には赤毛の少女まで再度話に加わり、その時点でミケと呼ばれた男は何か思い当たった顔になる。
「ああ、最初の職場が同じでね、相馬のポチタマミケってあだ名だったんだ」
「北斗さんがポチ?」
「いやポチは後から来てた金狼」
「ああ!あの派手なノの字さん!」
そんな風に、なんだかんだでベータ版プレイヤーとしてのトークでどうにか盛り上がる一行である。
未成年がいることもあり、酒類のないパーティなので、早めの時間に終了した夕食会だが、招待客3人は、そのまま飲みに出る、らしい。
「つーても話す内容的に宅飲みだなぁ、どこ行く」
「うちにしてくれ。明日出勤なの俺だけだろ」
「遠いが……まあいいか、たまにはわんこを愛でよう」
「それでは本日はこれで失礼します。ご招待ありがとうございました」
雑に行先を北斗の自宅――やや山奥の一軒家、でかいわんこが3匹待っている――に定めつつ、玉兎のプレイヤーが代表で辞去の挨拶。
「いいよいいよ、製品版でも検証班には期待してる」
「伯父さん、そういう事言っちゃう?」
「またご一緒しましょうね、おやすみなさい」
自宅に帰る少年少女とその親たちとも軽く玄関先で挨拶を交わし、それぞれ別の方向に向かって帰る。
「……護衛、出てるなあ」
「俺たちにも出るんだ……そりゃ現職じゃねえけどさあ」
「博士の自宅に出入りした時点で逸般人、かもなあ」
「そもそも北っち前から狙われてんじゃん、断線事件とかさ」
口々にやや物騒なことを語りつつ、気楽な様子で帰途に就く男たち。
その護衛役としてひっそり派遣されたはずの者達は、余りの即バレに頭を抱えていた、というのは後日の話。
正直ベータ版一陣には、真っ当な普通の人はあんまりいないっていう話を書きたかった。
3人で一番勘がいいのはミケですね。商売もやってるからかも。
※なお一族経営だが、妹の子二人は未成年なので数に含まない。
ベータ一陣で一番普通の人なのはミューちゃんとぎゅん太君。




