78 初代セキミヤ
訓練を重ねて、ルトもようやく移動魔法に慣れてきたころ、アルクがゼールの屋敷を訪れた。プティと話してから、もう3日経っていた。
「よ、ひさしぶりだな、サオリ、ルト。」
「うん、ひさしぶり。みんな変わりはない?」
「おひさしぶりです。」
「あー・・・それぞれ変わりがあるな。変わらないのは、俺とマルトーくらいだ。リテとエロンは、元気がないし、プティは張りつめている感じだな。」
「そう・・・」
「で、俺は何をすればいいんだ?てか、リテやエロンも呼んでやってほしかった。お前に突き放されて、2人共落ち込んでるぞ。」
「・・・今はまだ、あの2人には話せないことだから。もちろん他の2人にもね。」
「そういうことなら仕方がねーか。」
「・・・悪いとは思っているけど、知らない人が少ないほうがいいの。それじゃ、場所を移動するね。詳しくはそこで話すから。」
「わかった。」
「ルトは、残ってオブルと特訓して。オブル、頼んだよ。」
「わかりました。」
「本当はそばで守りたいが、まだ俺を信用していないなら仕方がないか。」
「・・・ごめん、頼み事はしといて、むしがいいのはわかっているけど。後悔はさせないから。」
「気にするな。護衛できないのなら、やることもないしな。」
オブルが早く行けといった感じで手を振ったので、私はアルクの方に手を出した。
差し出した手を、アルクが握ったのを確認して移動魔法を使った。
移動したのは、ウォームのゼールが所有する大きな倉庫。使い勝手のいいここで、アルクの訓練もすることにした。アルクも、ルトと同じで移動魔法に慣れてもらうことにする。
「お待ちしておりました。」
倉庫で待機していたゼールが私の姿を見て礼をする。
「げ、ゼール・・・」
「これはこれは、お馬鹿騎士殿。おや、あなた本当にアルクさんですか?」
「は?アルクだよ。今度は何の嫌がらせだ。」
「ゼール、どういうこと?」
「いえ。王女が魔法で成り代わっている可能性も考慮して、こちらのマジックアイテムを持参したのですが、それが反応していますので。」
ゼールがはめている指輪をこちらに見せた。確かに指輪は光っていて何かに反応しているようだ。
「これは、近くに姿を変えるような魔法を使っている者がいれば光る指輪です。限定的で使いどころは少なく、初めて光っているのを見ましたが・・・確かな品ですよ。」
「・・・どういうこと?」
私はアルクを見た。金髪に青い瞳、姿かたちはアルクだし、先ほど話した感じも他人ではないように思えた。でも、ゼールがこんなわけのわからない嘘をつくはずがない。
「・・・その指輪は本物だ。確かに俺は姿を変える魔法を使っている。」
「なっ・・・」
私はアルクから離れた。
「だが、俺はアルクだ。もともと姿を変える魔法を常時使っていたんだ。」
「なんで・・・まさか。」
「サオリさん、こちらへ。」
すぐそばに来ていたゼールに引っ張られて、背後にかばわれる。
姿を変えている。それは、なぜ?
可能性が高いのは、犯罪者、顔見知りの敵・・・身分が高い者?とにかく、敵である可能性があるうちは、アルクを信用することはできない。
「さすがに傷つくな。ま、だましていたから仕方がない反応か・・・でも、この姿を見れば、多少は理解してくれると思うぜ。」
そう言って、アルクが指を鳴らすと、目の前にはアルクの2Pがいた。つまり、色違いのアルクだ。
金髪は黒髪へ、青い瞳は黒い瞳へ。よく見れば、鼻の高さも変わって、低くなっている。懐かしいと思えるその顔立ちに、私は声が出せない。
「あなた、勇者だったのですか。」
「いやいや、俺は勇者じゃないよ?でも、黒髪黒目なんて、勇者の特徴の一つとして伝わっているからな・・・誤解を生まないために、姿を変えていたんだ。」
「勇者の特徴・・・」
「えぇ、召喚された勇者の中には、この世界にはないとされる、黒髪黒目という、黒を2つ持っている者がいるのです。黒髪だけ、黒目だけならこの世界にもいますが、両方持っているのは勇者だけだと。もちろん、勇者の中には、サオリさんと同じで、黒を一つももたない者もいますが。」
「・・・それは、私の国の人だよ、きっと。」
「サオリは、***から来たのか?」
「え?」
アルクの言葉が、意味の分からない音声になって私の耳に届く。
「だから、***だよ。」
ズキン。頭が痛い。ナニコレ?
「***?それが勇者の国の名前ですか?」
ズキン。だめだ、ゼールが言っても聞き取れないし、頭も痛い。
「サオリ?」
「ごめん・・・何を言ってるか、聞き取れなくって。頭も痛い。」
「・・・そうか、また女神に邪魔をされているのか。」
「女神?」
「たぶん、サオリが記憶を失くしたのも女神の力だと思う。」
「それは、どういうことですか?いいえ、それが本当だとして、それを知っているあなたは、何者なんですか、アルクさん。」
そうだ。なんでアルクは知っている?そういえば、記憶を失くしていた時、秘密にしてる能力があるって言ってた。
「俺は、初代セキミヤの血を引き、その能力を受け継いでいる。だから、そのものの性質を知ることができるんだ。だから、サオリが女神から能力を与えられただけでなく、記憶を封印されていることも知っている。」
「記憶を封印?」
わからないといった様子のゼールと違い、私は納得した。
「・・・あぁ、そういうことだったんだ。」
ずっと不思議だった。私は、私の世界で生活をしていたはずなのに、どこで生活をしていたのか、思い出せなかった。
こういう世界で、こういう国というのはわかるのに、その景色は思い浮かばず、名前すらわからない。
「ずっと、おかしいと思っていたの。自分の部屋の景色ですら、私は思い出せない。自分の家の住所もわからない・・・なんでだろう・・・でも、考えないようにしていた。怖かったから。」
もしかしたら、自分は作られた人間で、あの世界の誰かの記憶を植え付けられただけなんじゃないかと思った。そうする理由はわからないけど、そういう実験をしているのかと。
「わかった、アルク。あなたを信じるよ。ゼールはどう?」
「私はサオリさんに従います。彼も特に嘘をついている様子はありませんし。ところで、初代セキミヤとは、召喚されていない勇者のことですよね?」
「あぁ。よく知ってるな。そのセキミヤで間違いない。」
「どういうこと?セキミヤって、たくさんいたの?」
「当時に5人確認されています。そのうち4人は召喚された勇者で、それぞれセキミヤという名を持っていました。有名どころだと、セキミヤ・カーター、モリ・セキミヤです。2人は同時に召喚された勇者で、自分たちの世界でも魔王を倒す討伐隊のメンバーだったそうですよ。」
「あー・・・そのだな、セキミヤって名乗ったやつは、全員同じ世界で魔王を倒した仲間同士だったんだよ。」
「そうなのですか。私も最近調べ始めたので、その2名の記録しかまだ目を通せていないのです。」
「探しても見つからないだろうな、特に初代セキミヤの記録は。初代セキミヤは、前の世界で勇者をやっていて、そこで世界を救うことに嫌気をさして、勇者として動くことはしないと公言していたらしい。気になるなら、後で話すが?」
「・・・そうですね、一通り聞いておきましょう。」
「わかった。それじゃ、サオリ。説明よろしく。」
「え?」
「いやいや、俺をここに呼んだのお前だろ?お前から説明が無かったら、俺は何をすればいいかわからねーぞ?」
「あ、そうだね。ごめん、いろいろあって、忘れてた。」
「おいおい・・・」
そうだ、私の目的を忘れてはいけない。
魔王を倒す。
そのために、今は彼らを鍛えないと。
セキミヤは、休載中(一部完結済み)の小説「リアルデス 世界を救うより、妖精を育てよう」に登場します。
死神勇者と違って、ギャグテイストの小説ですが、気になる方はどうぞご覧ください。




