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 激しい戦闘には目を向けず、私はラスターへと歩いて近づいた。その様子を面白そうに笑って迎えるラスターが怖くて仕方がないが、私はそれを押し殺す。


「戦い、終わりそうもないですね。ラスターさん。」

「そうですね。飽きてしまわれたなら、今すぐ決着をつけるよう言いましょうか?」

「その必要はないわ。私はあなたと少し話がしたいの。すぐに決着がついては、ゆっくり話すこともできないでしょう?」

「それもそうですね。それで、お話とは何でしょうか?そちらはお仲間の一人が生死の境目をさ迷っているご様子。お忙しいのでは?」

 意地悪な笑みを浮かべて、こちらを焦らせることを言う。もちろん、私は焦っているし、ルトのそばにいてあげたいが、今はそうはいっていられない。


「そのことで相談があります。彼とシスターを、水晶の効果範囲外に連れ出してもらえませんか?もちろん、五体満足で。」

「・・・今の状況は、私にとって面白いものです。彼が死んだら、あなたの顔は絶望に染まるのでしょうね。」

 それが見たい。だから、ルトを生かす気はないのだろう。


「あなたが残虐趣味なのは聞いていますが・・・それだけでは、ないのではありませんか?」

「それだけですよ。私を満たすのは、弱きものの絶望の表情。この快楽に勝るものはありません。」

「あなたに、私の知っていることを教えます。1つ・・・場合によっては3つ教えましょう。どうですか?」

「・・・内容にもよりますね。確かに私は、新たな知識を取り込むのも好きです。私の知識欲を満たすものであるならば・・・考えてもいいですよ。」

 その言葉を信じるのは危険だ。でも、今はこれにかけるしかない。


「異世界の・・・」

「異世界の知識は、あらかた知っています。電車の詳細な構造などを教えてくれるなら別ですが、一般知識程度では話になりません。」

「・・・私の前の勇者ですか。」

「はい。中には私が拷問し、知識という知識を絞り出した者もいますよ。」

「なら、女神についても、知っていますか?」

「容姿などは。それ以外に何かありますか?」

「性格が悪い・・・などですね。」

「能力などを知りたかったですね。あなたは、いろいろいじられたようですから、少しくらい女神のことについて知っていると思ったのですが。」

「いじられている?」

 能力をもらったことについて、言っているのだろうか?


「おや、お気づきでない?・・・記憶もいじられたようですね。それで、どうしますか?ここで問答をしているうちに、タイムリミットが迫ってきていますよ?」

「・・・」

 駄目だったか。


 なら、次はどうする?

 残虐な彼に、何を差し出せばいい?


 いや、元から彼は何をしても、ルトを助けてくれる気はないのだろう。


 なら、どうする?


「・・・」

「おやおや、いじめ過ぎてしまったようですね。なら・・・ここにいるすべての人間に、クリュエルの城であったことを話すというのはいかがでしょうか?」

「それは・・・」

「あぁ、いい表情ですね。こちらのほうが面白そうだ。」

 クリュエル城のことは、私にとって話してはいけないことの一つだ。これを話せば、確実に私は人類の敵となるのではないか?

 クリュエル城の人間を皆殺しにした原因、それが私。


 噂はされている。私が死神を呼ぶとか。でも、それは単なる噂。だから、今まで不都合はなかった。でも、私が語れば、それは真実となる。


「いかがいたしますか?勇者様。」

「・・・っ。」

「早くしないと、手遅れになってしまいますよ?それとも、お話しできませんか?そうですよね、誰だって自分が一番かわいい・・・それでいいと、私は思いますよ。」

 あなたは間違っていない。私の肩に手を置いて、ラスターは耳元でささやいてきた。


 話さなければ、ルトは・・・話しても、ルトは・・・でも、助かる可能性がある。


 苦しい。

 息が吸いにくくて、呼吸が乱れた。


 ルトが助かるなら・・・でも、ラスターが裏切ったら・・・

 さっきから同じ言葉がぐるぐると頭を回っていく。ルトが助かるなら、話してもいいかもしれない。でも、ルトが助からなかったら、私はすべてを失うことになる。


 アルクがこちらに向ける笑顔も、リテのやさしさも、ルトの尊敬もすべてが覆る。エロンの傍にだって、いけなくなる。


 みんな、敵意を向けてくるだろうか?

 その剣を、私に向けるのだろうか?


 嫌だ。そんなのは、嫌だ。でも、このままだと、ルトが死んでしまう。



「わかった。」

「ほう。予想とは違いますが、これはこれで・・・!?」

 私の顔を見たラスターが言葉をなくした。


「その手段が何かわからないから生かしておこうと思ったけど、もういいよ。そんなに死にたいなら、殺してあげる。ふふっ。」

「あなた・・・は・・・誰ですか?」

 おかしなことを言う、私は私だ。さっきまで勇者と呼んでいたじゃないか。ま、いいか。さっさと殺して、使えそうな道具を探そう。それでだめなら、水晶を割る。


 それでもだめだったら・・・と、考える前に私は手を伸ばした。ラスターは、懐から何やら取り出そうとしているが、その動きより私がラスターを殺すほうが早い。


 短剣をラスターの首に滑らせようとしたが、誰かに剣を持つ腕ごと掴まれた。すぐ後ろから声が降ってきた。


「お前の仲間はもう大丈夫だ。だから、その剣をおさめろ。」

 聞き覚えのある声に驚いて、私は振り返った。


「・・・殺人鬼さん。」

「久し振りだな、勇者。」

 そこにいたのは、クリュエル城の牢屋に捕まっていた殺人鬼だった。




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