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58 改めて自己紹介



「ルドルフ様。」

 殺人鬼にラスターが声をかけた。殺人鬼はルドルフというらしい。


「ラスター、勇者に手を出すなといっただろうが。勇者、お前の仲間は回復薬で回復した。命に別状はない。」

「回復薬で・・・?」

「まさか、ルドルフ様・・・あれをお使いに?」

「あれでなければ、助からなかった。勇者、行ってやれ。」

「ありがとう、殺人鬼・・・ルドルフさん。」

「え、あぁ。」

 名前を呼べば、照れ臭かったのかそっぽを向いてしまったルドルフに頭を下げて、私はルトに駆け寄った。


「ルト!」

「・・・さお・・・り様。」

「大丈夫?」

 口元には血が流れた跡があるし、顔色はよくない。でも、変な方向に向いていた足は元通りだし、かすり傷一つついていない。血に汚れてはいるが。


「大じょう・・・ぶですが、のどが・・・カラカラで。すみません、聞き取り・・・にくいですよね。」

「ちょっと待って、今水を・・・」

「サオリ、私がやっておくわ。あなたは、あの人たちの相手をしないと。」

 エロンが見るほうを見れば、ルドルフとラスターがこちらの様子をうかがっていた。


「サオリさん、あれはもしかして・・・死神ピエロではないのですか?」

「・・・私の牢屋仲間です。」

「え?」

「ちょっと行ってきますね。」

「私も行くわ。」

 なぜかわからないが、プティがついてくることになった。




「ルドルフさん、ありがとうございました。」

「いや、たいしたことはしていない。お前には借りがあるしな。それで、後ろの奴は何だ?」

「私はプティ。魔王討伐隊のまとめ役のようなものですわ。そういうあなたは何者ですの?サオリとも知り合いのようですし。」

「・・・サオリというのか。」

「え、うん。そういえば名乗っていなかったね。私はサオリ。あの城では、勇者として召喚され、牢屋に入れられていたの。」

「重要な部分をざっくり抜いたな。俺は、ルドルフ・・・四天王の一人だ。」

「え・・・」

 ルドルフが四天王?ということは、クリュエルは四天王を生け捕りにしていたのか。


「言っておくが、あの城の連中は俺が四天王なのを知らない。ただ、重要な情報を持っている魔族だという認識だ。・・・俺は、わざとあの城で捕まっていたんだよ。」

「ちょっと待ちなさい。あなたは、クリュエル城の牢屋にいて、そこでサオリと出会ったということでいいのかしら。」

「そうだ。」

「それで、サオリにある借りとは何かしら?戦うこともできないサオリが、あなたに何をしたというの?」

「・・・どういうことだ?」

 私が戦えないというところに引っかかったらしい。


「話してないの。人間なんて信用できないし、それは相手だって同じ。だから、話さなかったの。城で起こった出来事は、私の胸の内にしまっていたわ。」

「・・・そういうことか。」

 理解してくれたらしい。これでわかってくれなかったら、今までの努力が水の泡だったので、感謝しかない。あの時も助かったし、いい人だな。


「記憶喪失というのは、嘘だったのねサオリ。」

「本当だよ。今は思い出したけど、あの時は本当に忘れていた。ただ、思い出したことを言っていないだけで、嘘じゃないよ。」

「そう。なら・・・嘘をつかずに話しなさい。城で起こった真実とやらを。」

 本当のことを話せば、私が隠してきた戦闘能力がばれて、ついでにクリュエルの王族を殺したことから敵認定されるだろう。どうしようか・・・


「サオリには、俺も勇者だと話していた。それで、サオリの魔法で牢屋から出してもらったんだよ。それからは、本来の目的である、皆殺しを実行しただけだ。」

「つまり、あなたがサオリをだまして、だまされたサオリがあなたを解放したと?」

「そうだ。サオリは、日々の拷問で弱り切っていたからな。騙すのはたやすかった。」

「そうなの、サオリ?」

「そうだよ。」

 まずい、ルドルフに頭が上がらない。ここまでしてくれるなんて、四天王ではなく聖人か何かではないだろうか?

 私は余計なことは言わないように、必要最低限の返事だけをした。


「移動魔法が使えたなら、なんですぐに逃げなかったの?」

「よくわからない世界に連れてこられて、逃げようって発想がわくか?それに、サオリが移動魔法を扱えるようになったのは、俺が牢屋から解放される少し前だ。」

「つまり、サオリの脱出に便乗したということね。それで、サオリは何でこいつについていかなかったわけ?勇者なら信用できると思うのが普通じゃない?」

「俺が勇者じゃないと、気づいたんだよ。なんせ、皆殺しを実行していたものでな。」

「危険人物認定されたわけね。でも、今は親し気よね?それはなぜ?」

「・・・」

 ここまで追及されるとは、思っていなかったのだろう。ルドルフが言葉に詰まった。ここは、私が話すしかない。


「ルトを助けてくれたからだよ。そんなこともわからないの、プティ。」

「・・・でも、人をたくさん殺した・・・まさに死神と呼ばれるような男よ?」

「人ね・・・」

 思わずおかしくって笑ってしまった。それに少し驚いた様子のプティがまた面白い。


「私のことを人扱いしていなかった人なんて、死んでもどうでもいいと思わない?確かに、あの時は怖かった。人の形をしたものが叫んで、助けを求めて、血のようなものをまき散らしていたから・・・でも、それがいなくなったとしても、私には悪い影響はない。むしろ・・・」

「サオリ、あなたおかしいわ。」

 おかしい。そういわれても、何も感じない。


「プティも体験すればわかるんじゃない?なんなら・・・やろうか?」

「あなた、何を言っているの?」

 今なら、エロンがいる。腕もくっつけられるという彼女がいれば、プティの腕を何度だって斬りおとせるし。


「これが、人類がしてきたことの結果ということだろう。サオリ、少し2人で話をしたい。いいか?」

「いいけど・・・その前にあの戦闘をどうにかしてくれる?」

「おや、まだ戦っていたのですか。トリィ!ルドルフ様がいらっしゃいましたよ!」

「あらっ!」

 ラスターに呼ばれてこちらを見たトリィが、アルクの腹を蹴り上げて、マルトーの背後に回りマルトーを蹴り落した。


「来ていたのね、ルドルフ。」

「あぁ。2人は先に戻ってくれ。俺は勇者と話がある。」

「えー、メインディッシュを奪う気?それって、権力の乱用よー」

「わがままを言っていないで帰りますよ。それでは失礼いたします。」

 そうは言いながらも、ラスターは私のほうによってきて、先ほどのように耳元でささやいた。


「なかなか滑稽で面白いおもちゃと思いましたが・・・おもちゃにされていたのは私だったのですね。また、お会いしましょう。」

「・・・?」

「魔族は強者に憧れるのですよ。では、また。」

 今度こそ、ラスターの姿が目の前から消えた。・・・移動魔法って、私だけのものじゃなかったんだ・・・




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